上 下
35 / 146

馬車で追及されてます。

しおりを挟む
「お気をつけていってらっしゃいませ」

セバスチャンに見送られ、馬車が動き出した所でハッと我に帰る。

アマンド様のあまりに呆気ない反応に、固まってしまっていた。

いや、まあそうか。

アマンド様のこの無反応な感じは、今に始まった事じゃない。

去年の、特に夏を過ぎた頃からはずっとこんな感じだった。

前回、前々回が少し様子が違ったので、期待していたのかもしれない。

期待って…はあ。

何を期待してたんだろう、私は。

どちらかと言うと、この反応は作戦のねらい通りなのに。

沈みはじめる気持ちに意識を向けたくなくて、気を取り直して顔を上げる。 

アマンド様とバチっと目が合って、思わず車窓の外へ目を逸らした。

え…こっち見てた?

…いつから見てた?

もしかして、ずっと見られてた?

折角おさまっていた心臓が、ドッドッドッドッと主張し始める。

馬車は港の方へ向かう緩い坂を下っていく。

このまま下ると、大通りに出る。

そういえばどこへ向かうのか聞いていなかったが、街にでも行くのだろうか。

チラッと横目で確認すると、また視線が合う。

…そんなにこの格好が変だろうか。

「い、いつまで見てるおつもりですか」

たまらず声に出してしまう。

「…ひとつ確認だが」

「は、はい?」

「それは誰が選んだんだ?」

視線の先を見るに、"それ"とは、このワンピースの事だろう。

「これは…キーラが見立ててくれたものです」

「君の側付きの?」

「はい」

「・・・」

アマンド様がまた私と視線を合わせる。

黄色の目が、金に光った気がした。

「買ったのは、誰?」

ピンときた。

何かを疑われている。

このワンピースを購入したのは私だ。

小切手にサインをした時、ちゃんと本名を書いている。

虚偽など働いていない。

請求も間違いなく家に来るはずだ。

不正購入でも疑われているんだろうか?

前回騎士団でグルト様が仰っていた、私がアマンド様の弱点になっているとかいう、あの件に絡んだことなのか。

または、このワンピース自体に問題がある、とか?

確かに、購入した時は浮かれていて深く考えなかったが、古服の割に随分高い買い物ではあった。

もしかして、盗品の類だったり、御禁制の品だったりするのだろうか?

もしそうなら、本当に私のせいで、アマンド様のキャリアに傷が…!

黙ってしまった私に、アマンド様が首を傾け目を眇めた。

「レイリア、誰が買ったの?」

知らなかったとは言え、すでに購入してしまっている。

私は意を決して返答した。

「わ、私が…私が自分で買いましたっ!」

「…本当に?」

今のアマンド様の反応で、疑われていることが確定した。

大丈夫よ、レイリア。

購入方法に問題はないはず…!

「本当です!ちゃんと小切手にサインしました!」

「本当に、自分で買ったの?」

アマンド様の追求が止まらない。

「何か、俺に言っておくべき事があるなら、今言ってくれるか?」

自分で買ったのは本当だし、他に言っておくべきことなんて特に思い当たらない。

このワンピースだって、出自は確かなものだと店主が・・・ん?

あ、あー。

そうか、もしかして。

私はようやく思い至った。

アマンド様、もしかして、古服を嫌がる繊細なタイプの方ですか?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛を知ってしまった君は

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:418pt お気に入り:2,410

ヴィオレットの夢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,672pt お気に入り:1,566

【短編・完結】在りし日の面影を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,974pt お気に入り:72

婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:882pt お気に入り:9,483

王妃の手習い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,974pt お気に入り:3,060

敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:6,284pt お気に入り:231

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:5,053

悪役令嬢の大きな勘違い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:103

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:262

呪術師フィオナの冷酷な結婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,866pt お気に入り:66

処理中です...