大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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婚約者にお披露目します。

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有無を言わさずキーラに部屋から追い出され、私は玄関に向かった。

アマンド様と顔を合わせる前に、どうにか気持ちを立て直そうと、ジュディ様の言葉を思い返す。

『好き同士なら許せる行為も、好きでない相手から受けるとね、感じる小さな違和感が、そのうち、無視できないほどの嫌悪感に変わっていくの』

アマンド様が好きなのはメイベルだ。

だから、これからは私からの好意をアマンド様に見せつけることで、アマンド様に「コレジャナイ」感を積み上げていく。

そうすれば、最終的には「やっぱりレイリアとでは無理だ」と気づくはずだ、というのがジュディ様の持論だ。

・・・そんなうまくいきますか?ジュディ様?

いや、疑ってはいけない。

ジュディ様は私より年下ではあるが、なぜかあの説明にはすごい説得感があった。

今日からは、単なる我儘令嬢ではなく、"アマンド様に気のあることを隠しもしない"我儘令嬢にならなければならない。

この格好で・・ひと目で気合が入っているとわかる格好で、彼の前に立つのは死ぬほど恥ずかしい。

だが、私に今まで足りなかったのは、身を切る覚悟だ。

アマンド様になんと思われようが、どんなに恥ずかしかろうが、望む結果を得るためには、やり抜く覚悟が必要なのだ。




これはノルマ、これはノルマ・・・うん。

お洒落の気恥ずかしさも、作戦という舞台に上がるための衣装だと思えば、気にならなくなってきた・・気がする!

・・よし、いける。

私はスッと背筋を伸ばした。

これは、アマンド様と私の、化かし合いなのだ。

本命がいるのにそれを私に気づかれないように結婚を目指すアマンド様と、アマンド様に気づかれないように嫌われて婚約解消を目指す私との。




玄関口にたどり着くと、セバスチャンと話すアマンド様が目に入った。

さあ、レイリア。

今日こそは、ジュディ様に報告できるだけの成果を手にするのよ。

大きく息を吸う。

「お待たせいたしました、アマンド様」

澄ました顔でカーテンシーをきめこむ。

そのまま数秒待つが、なかなか声がかからない。

もしかして、聞こえなかったかな…そう思って、目を開いて驚いた。

すぐ目の前に、アマンド様が立っている。

見上げると、私を凝視するアマンド様と目が合った。

「レイリア・・その格好は・・」

・・あ、いつもと違うから、驚いていらっしゃる?

アマンド様を驚かせることに成功して、私はここで畳み掛けることを決めた。

先手を打つのだ。

「アマンド様との待ち侘びたデッ、デートですから、気合を入れてお洒落して参りましたのよ?」

噛んだ…と思いながら、顎を上げて居丈高にそう告げる。

頼んでもいないのに、「お洒落してきてあげたわよ」なんて、何て傲慢で恩着せがましい、と思うだろう。

"デート"のところで噛んだのは、さっきまで、キーラの前では頑として”お出かけ”という言葉を使っていたせいだ。

噛んだ事で、よりデートを意識しているみたいになってしまった。

…くっ。

時間が経つにつれ、『デッデート』が着実に、私に羞恥という名のダメージを与えてくる。

アマンド様は、なぜ黙っているのだろう。

この沈黙が、居た堪れない。

でも、この格好でここに立った時点で、既に恥ずかしさの針は振り切れていたはず。

そうよ、レイリア。

今更だわ!

奇跡的に、私は持ち直した。

アマンド様は、相変わらず黙ったまま、私を凝視しているが、負けずに、挑発的に見返す。

そりゃ私がいくら着飾ったところで、美人のメイベルに敵うはずもない。

メイベルと見比べて、心の中でガッカリしているのかもしれない。

サルーンにある大時計の針が、カチッと動く音がして、彼はようやく口を開いた。

「…そうか」

…え?それだけ?

「アマンド様、そろそろお出かけになった方がよろしいのでは?」

セバスチャンに促され、アマンド様が時計を見た。

「・・そうだな。そろそろ行こうか、レイリア」

私は未だかつてない肩すかし感に唖然としながら、背中を優しく押されるままに、馬車に向かって歩きだした。
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