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それぞれの春
結果オーライということにする。
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「チーズオムレツ、お待たせいたしましたー!」
ドォオン!
予想の遥か斜め上をいくオムレツの登場に驚愕し、俺は「なるほど・・」と呟いたまま絶句した。
このオムレツのサイズ感・・横抱きにしたら、おくるみに包まれた赤子に見えるんじゃないか?
頭の中に同僚たちの会話が蘇る。
あいつらの話は、誇張でもなんでもなかった・・のか。
「これ・・これは、他のテーブルの方のものでは?さすがに2人前の量ではないですもの」
レイリアの声が強張っている。
「いや、おそらく合っている。レイリア、すまない」
レイリア、本当にすまない。
俺は今、軽く絶望している。
「この店は、同僚たちの間で大量盛りの店として、話題になっていたんだ」
「た、大量盛り?」
俺が大量盛りについて説明すると、レイリアの顔がはっきりと動揺した。
「そんな・・!この後来る、パスタとポテトも大量盛りということですか!?」
「すまない。ドリンクがデカンタで提供された時点で、嫌な予感はしていたんだ」
「そんな・・・!」
俺はレイリアに向かって頷いた。
「いや、大丈夫だ。俺がなんとかする。」
レイリアの後方に見える、ポテトの山が着実にこちらに近づいてきている。
ウェイターの顔が見えない。
ポテトで視界が遮られているはずだが、ウェイターはどうやって進行方向を把握しているんだろうか。
「アマンド様、これは個人が頑張ってどうにかできるレベルじゃないです。無理です。今からでもキャンセルを」
レイリア、もう、キャンセルも無理なんだ。
"逃れられない運命"というものがあるのなら、この状況ほど適当な比喩を、俺は思いつかない。
ドォンッ!
テーブルが振動する。
俺は覚悟を決めた。
*****************************************
ブルーラグーンでの食事を終えて、会計を終えた俺は、ポテトのガーリックオイル揚げが入った紙袋を受け取った。
ずっしりと重いそれを、左腕で抱える。
「いやー、お兄さん!パスタとオムレツを完食するなんて、さすがは騎士様だ!これ、次も使えるサービス券ね。また来てよ!あんがとねー!」
同僚たちの間でコスパがいいとは聞いていたが、あれほどの大量盛りなのに、値段設定はかなり割安だと思う。
そして渡されたサービス券には、『次回お会計から20%割引サービス』と、でかでかと書かれていた。
この店の収益構造はどうなっているんだ?
「レイリア、大丈夫か?」
フラフラするレイリアの左隣に立って、左手でレイリアの左手を握り、右手で腰を支えてやる。
自分が頼んだからパスタは自分が、と宣言したレイリアは、よく頑張った方だ。
同僚が言っていた通り、料理はどれも美味しかったのが救いだ。
ポテトは持ち帰れると聞いて、その後はパスタとオムレツに集中し、白旗を上げたレイリアの分まで、俺は意地で食べきった。
「抱っこしてやろうか?」
「冗談は・・おやめください」
冗談ではない。
だが、こんな真昼間に騎士の俺が令嬢を横抱きにして往来を進むのはさすがに良くないか・・
婚約者と言えども、変な噂が立ちかねない。
お腹が苦しいのか、フウフウ言いながら進むレイリアの歩みは遅い。
俺があの店を選んだばっかりに・・と申し訳ない気持ちもなくはないが、レイリアが俺に頼らざるをえないこの状況に喜んでしまう自分もいる。
「あの、私は大丈夫なので、早くお仕事にお戻りください・・アマンド様の休憩時間が・・」
「大丈夫だ。そんなことよりあそこのベンチで少し休むか?」
昼の休憩時間は過ぎていたが、こないだ日曜に出勤した分の半日代休がまだだった。
後から申請して、今日は半日代休にしてもらうとするか。
レイリアは休憩の申し出を断り、相変わらずノロノロしながらも、そのまま馬車までたどり着いた。
ああ、ここでお別れなのか。
もっと一緒にいたい気持ちはあったが、レイリアがこの状況では無理だ。早く休ませてやりたい。
レイリアを馬車に乗せて護衛に事情を説明した後、馬車の窓からレイリアに呼びかける。
「今日はすまなかった、家でゆっくり休んでくれ」
「ええ…アマンド様も、無理しないでくださいね…ポテトを、お願いします」
「大丈夫だ。職場に持っていけば、ものの5秒で無くなるはずだ」
「さすが、騎士様ですわね…」
レイリアが弱々しく笑う。
今日は水曜日。
次の茶会まで、まだ4日もあるのか。
・・そうだ。
何も茶会にこだわる必要はもうないんだ。
ボロボロだった去年と違って、今年は体力的にも精神的にも、どこかに出かける余裕がある。
お互いの家でばかり過ごさずに、楽しかった今日みたいに、どこかに出かければいいじゃないか。
「今日は失敗もあったが、楽しかった。今週末は、お茶会じゃなくて出かけることにしよう」
出かければ、自ずと一緒にいる時間も増える。
今日の失敗を取り返すためにも、ランチから過ごしたい。
「そうだな、11時に迎えに行く。こないだの埋め合わせもまだだしな。それじゃレイリア、また週末に」
そして馬車から離れて、馭者に出発を指示した。
満足しながら馬車を見送る。
今まで我慢させていた分、もっとレイリアと楽しい思い出を作っていこう。
車体が大通りの角を曲がったその時、俺は気付いた。
ロイ…!ロイについて聞くの忘れた!!
ドォオン!
予想の遥か斜め上をいくオムレツの登場に驚愕し、俺は「なるほど・・」と呟いたまま絶句した。
このオムレツのサイズ感・・横抱きにしたら、おくるみに包まれた赤子に見えるんじゃないか?
頭の中に同僚たちの会話が蘇る。
あいつらの話は、誇張でもなんでもなかった・・のか。
「これ・・これは、他のテーブルの方のものでは?さすがに2人前の量ではないですもの」
レイリアの声が強張っている。
「いや、おそらく合っている。レイリア、すまない」
レイリア、本当にすまない。
俺は今、軽く絶望している。
「この店は、同僚たちの間で大量盛りの店として、話題になっていたんだ」
「た、大量盛り?」
俺が大量盛りについて説明すると、レイリアの顔がはっきりと動揺した。
「そんな・・!この後来る、パスタとポテトも大量盛りということですか!?」
「すまない。ドリンクがデカンタで提供された時点で、嫌な予感はしていたんだ」
「そんな・・・!」
俺はレイリアに向かって頷いた。
「いや、大丈夫だ。俺がなんとかする。」
レイリアの後方に見える、ポテトの山が着実にこちらに近づいてきている。
ウェイターの顔が見えない。
ポテトで視界が遮られているはずだが、ウェイターはどうやって進行方向を把握しているんだろうか。
「アマンド様、これは個人が頑張ってどうにかできるレベルじゃないです。無理です。今からでもキャンセルを」
レイリア、もう、キャンセルも無理なんだ。
"逃れられない運命"というものがあるのなら、この状況ほど適当な比喩を、俺は思いつかない。
ドォンッ!
テーブルが振動する。
俺は覚悟を決めた。
*****************************************
ブルーラグーンでの食事を終えて、会計を終えた俺は、ポテトのガーリックオイル揚げが入った紙袋を受け取った。
ずっしりと重いそれを、左腕で抱える。
「いやー、お兄さん!パスタとオムレツを完食するなんて、さすがは騎士様だ!これ、次も使えるサービス券ね。また来てよ!あんがとねー!」
同僚たちの間でコスパがいいとは聞いていたが、あれほどの大量盛りなのに、値段設定はかなり割安だと思う。
そして渡されたサービス券には、『次回お会計から20%割引サービス』と、でかでかと書かれていた。
この店の収益構造はどうなっているんだ?
「レイリア、大丈夫か?」
フラフラするレイリアの左隣に立って、左手でレイリアの左手を握り、右手で腰を支えてやる。
自分が頼んだからパスタは自分が、と宣言したレイリアは、よく頑張った方だ。
同僚が言っていた通り、料理はどれも美味しかったのが救いだ。
ポテトは持ち帰れると聞いて、その後はパスタとオムレツに集中し、白旗を上げたレイリアの分まで、俺は意地で食べきった。
「抱っこしてやろうか?」
「冗談は・・おやめください」
冗談ではない。
だが、こんな真昼間に騎士の俺が令嬢を横抱きにして往来を進むのはさすがに良くないか・・
婚約者と言えども、変な噂が立ちかねない。
お腹が苦しいのか、フウフウ言いながら進むレイリアの歩みは遅い。
俺があの店を選んだばっかりに・・と申し訳ない気持ちもなくはないが、レイリアが俺に頼らざるをえないこの状況に喜んでしまう自分もいる。
「あの、私は大丈夫なので、早くお仕事にお戻りください・・アマンド様の休憩時間が・・」
「大丈夫だ。そんなことよりあそこのベンチで少し休むか?」
昼の休憩時間は過ぎていたが、こないだ日曜に出勤した分の半日代休がまだだった。
後から申請して、今日は半日代休にしてもらうとするか。
レイリアは休憩の申し出を断り、相変わらずノロノロしながらも、そのまま馬車までたどり着いた。
ああ、ここでお別れなのか。
もっと一緒にいたい気持ちはあったが、レイリアがこの状況では無理だ。早く休ませてやりたい。
レイリアを馬車に乗せて護衛に事情を説明した後、馬車の窓からレイリアに呼びかける。
「今日はすまなかった、家でゆっくり休んでくれ」
「ええ…アマンド様も、無理しないでくださいね…ポテトを、お願いします」
「大丈夫だ。職場に持っていけば、ものの5秒で無くなるはずだ」
「さすが、騎士様ですわね…」
レイリアが弱々しく笑う。
今日は水曜日。
次の茶会まで、まだ4日もあるのか。
・・そうだ。
何も茶会にこだわる必要はもうないんだ。
ボロボロだった去年と違って、今年は体力的にも精神的にも、どこかに出かける余裕がある。
お互いの家でばかり過ごさずに、楽しかった今日みたいに、どこかに出かければいいじゃないか。
「今日は失敗もあったが、楽しかった。今週末は、お茶会じゃなくて出かけることにしよう」
出かければ、自ずと一緒にいる時間も増える。
今日の失敗を取り返すためにも、ランチから過ごしたい。
「そうだな、11時に迎えに行く。こないだの埋め合わせもまだだしな。それじゃレイリア、また週末に」
そして馬車から離れて、馭者に出発を指示した。
満足しながら馬車を見送る。
今まで我慢させていた分、もっとレイリアと楽しい思い出を作っていこう。
車体が大通りの角を曲がったその時、俺は気付いた。
ロイ…!ロイについて聞くの忘れた!!
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