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それぞれの春
グルトのおつかい
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金曜の夕方。
退勤の準備をしていた俺は、名前を呼ばれて振り返った。
そこに思いがけない人物がいて、思わず立ち上がる。
「あ、アマンド!何か用?」
「ああ。今、いいか?グルトに折り入って頼みがあるんだが・・」
そう俺に声をかけたのは、同期のアマンドだ。
同期ではあるが、俺の憧れでもある。
それまで、「見た目カッコいい同期」位にしか思ってなかったアマンドが憧れの存在にまでなったのは、去年の御前試合を観てからだ。
アマンドの剣技がすごいとは聞いていたが、本当にすごかった。
太刀筋に迷いがなく、力で圧倒する。
構えは静かで凪いでいるのに、一度剣を振るえば荒々しく猛る様は、表情を変える海を思わせた。
勝ち進むにつれて、同期だけじゃなく先輩も含めて、本隊の皆が興奮してアマンドを応援した。
王宮騎士団のディフィート マルグリットには負けちまったけど、まあ、あの人は別格だからな。
でも結局、敗者トーナメントで勝ち進み、5位になったんだ。
あんなに興奮したのは初めてだった。
本人は、初戦を抜けられたのが奇跡だっただけだ、って謙遜してたけど。
そんなアマンドが、俺に頼みごとだって!?
「いいよ!引き受けた!」
アマンドが面食らったように「まだ何も頼んでないんだが…」と呟く。
あ、そっか。
「頼みって、どんな?」
「ああ、他の奴から聞いたんだが…グルトの弟は、ケネス教授の私塾に通ってるのか?」
「通ってるよ。何で?」
弟のレトは私塾に通って今年で2年目になる。
俺は私塾に通ったことがないからわかんないけど、よく「宿題が終わらない」って焦りながら、小難しい本を開いて勉強している姿を目にする。
「そうか。もしできればで構わないんだが…塾生に、ロイって奴がいないか、聞いてもらうことはできるか?」
「いいよ?」
そう答える俺を、アマンドが気遣わしげに見てくる。
「いいのか?その、もし嫌なら他を当たるから、遠慮なく言ってもらっても」
「え?別にいやじゃないけど?」
「本当か?・・その、聞くためにわざわざ実家に帰るなら他の奴に頼むから、断ってもらって構わないから」
随分、歯切れの悪いアマンドにピンときた。
あー、そういうことか。
「何て聞いてるか知らないけど、俺、弟とは仲いいよ?」
「…そうなのか?」
「うん。弟も俺のこと、めっちゃ好きだし」
俺と弟は父親は一緒だが、母親が違う。
俺の母親は平民で、父の愛人だった。
父と正妻さんとの間には長らく子供ができなくて、跡継ぎ候補として、父の家に引き取られたのが俺が3歳の時。
で、その2年後、父と正妻さんとの間に待望の子供、レトが生まれた。
そこからドロドロの家督争いに発展・・なんてことにはならなくて、正妻さんは子供好きで、俺のことも可愛がってくれたし、俺も弟が大好きだったしで、仲良く暮らしてた。
ただ、そこを変に勘ぐる輩というのはいるもので、弟と俺が不仲だとか、俺が正妻さんからいじめられていたとか、想像だけで好き勝手言われて、それがあたかも本当かのように一部で思われて迷惑している。
こう言っちゃなんだけど、家族の前で、「俺は頭使うのは苦手だから家を継ぐつもりはないし、騎士になって家を出るつもりだから」って宣言した時に一番泣いたのは弟だし、正妻さんには、寂しいから週末は必ず家に帰って来て、と約束させられた。
「俺の家族、めちゃめちゃ仲良いから、全然、大丈夫」
「そうか…」
アマンドは明らかにホッとした様子だ。
「そしたら、頼んでもいいか?その私塾にロイって男がいるはずなんだ。多分女慣れしてるんだと思う。レイリアが絡まれているようで、心配なんだ」
「レイリアちゃんが?」
「ああ」
「わかった!週末家に帰るから、聞いてくるよ!」
「ありがとう。恩にきる。その…こないだは、悪かったな。頭に血が上って…」
「全然いいよ!同期じゃんか!」
アマンドは目元を緩めて微笑んでくれた。
「すまない。助かる。何か俺にできる事があったら、グルトも遠慮なく言ってくれ」
「おう!」
週末、騎士宿舎から家に帰って早速レトに確認した。
「レト、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「うん!何?何?」
「レトの行ってる塾のクラスに、ロイっている?」
「ロイリスのこと?いるけど?」
「ロイリスっていうのか・・そいつ、女慣れしてるか?」
「うん。ノリが軽くて、よく女の子の話ししてる。何で?」
「ああ、俺のど…友達の婚約者が、ちょっかいかけられてるらしいんだ」
「あー、じゃあロイリス ピートだよ、間違いない。去年から塾に入ってて、入った時16だったから・・今年17かな?」
「ロイリス ピートか…そいつに決まりだな」
週明けにアマンドに早速報告だ!
私塾に通ったことのないグルトは知らなかった。
私塾が同じ日の午前の部と午後の部で、クラスが分かれていることを。
そしてそれは、アマンドも同様なのである。
退勤の準備をしていた俺は、名前を呼ばれて振り返った。
そこに思いがけない人物がいて、思わず立ち上がる。
「あ、アマンド!何か用?」
「ああ。今、いいか?グルトに折り入って頼みがあるんだが・・」
そう俺に声をかけたのは、同期のアマンドだ。
同期ではあるが、俺の憧れでもある。
それまで、「見た目カッコいい同期」位にしか思ってなかったアマンドが憧れの存在にまでなったのは、去年の御前試合を観てからだ。
アマンドの剣技がすごいとは聞いていたが、本当にすごかった。
太刀筋に迷いがなく、力で圧倒する。
構えは静かで凪いでいるのに、一度剣を振るえば荒々しく猛る様は、表情を変える海を思わせた。
勝ち進むにつれて、同期だけじゃなく先輩も含めて、本隊の皆が興奮してアマンドを応援した。
王宮騎士団のディフィート マルグリットには負けちまったけど、まあ、あの人は別格だからな。
でも結局、敗者トーナメントで勝ち進み、5位になったんだ。
あんなに興奮したのは初めてだった。
本人は、初戦を抜けられたのが奇跡だっただけだ、って謙遜してたけど。
そんなアマンドが、俺に頼みごとだって!?
「いいよ!引き受けた!」
アマンドが面食らったように「まだ何も頼んでないんだが…」と呟く。
あ、そっか。
「頼みって、どんな?」
「ああ、他の奴から聞いたんだが…グルトの弟は、ケネス教授の私塾に通ってるのか?」
「通ってるよ。何で?」
弟のレトは私塾に通って今年で2年目になる。
俺は私塾に通ったことがないからわかんないけど、よく「宿題が終わらない」って焦りながら、小難しい本を開いて勉強している姿を目にする。
「そうか。もしできればで構わないんだが…塾生に、ロイって奴がいないか、聞いてもらうことはできるか?」
「いいよ?」
そう答える俺を、アマンドが気遣わしげに見てくる。
「いいのか?その、もし嫌なら他を当たるから、遠慮なく言ってもらっても」
「え?別にいやじゃないけど?」
「本当か?・・その、聞くためにわざわざ実家に帰るなら他の奴に頼むから、断ってもらって構わないから」
随分、歯切れの悪いアマンドにピンときた。
あー、そういうことか。
「何て聞いてるか知らないけど、俺、弟とは仲いいよ?」
「…そうなのか?」
「うん。弟も俺のこと、めっちゃ好きだし」
俺と弟は父親は一緒だが、母親が違う。
俺の母親は平民で、父の愛人だった。
父と正妻さんとの間には長らく子供ができなくて、跡継ぎ候補として、父の家に引き取られたのが俺が3歳の時。
で、その2年後、父と正妻さんとの間に待望の子供、レトが生まれた。
そこからドロドロの家督争いに発展・・なんてことにはならなくて、正妻さんは子供好きで、俺のことも可愛がってくれたし、俺も弟が大好きだったしで、仲良く暮らしてた。
ただ、そこを変に勘ぐる輩というのはいるもので、弟と俺が不仲だとか、俺が正妻さんからいじめられていたとか、想像だけで好き勝手言われて、それがあたかも本当かのように一部で思われて迷惑している。
こう言っちゃなんだけど、家族の前で、「俺は頭使うのは苦手だから家を継ぐつもりはないし、騎士になって家を出るつもりだから」って宣言した時に一番泣いたのは弟だし、正妻さんには、寂しいから週末は必ず家に帰って来て、と約束させられた。
「俺の家族、めちゃめちゃ仲良いから、全然、大丈夫」
「そうか…」
アマンドは明らかにホッとした様子だ。
「そしたら、頼んでもいいか?その私塾にロイって男がいるはずなんだ。多分女慣れしてるんだと思う。レイリアが絡まれているようで、心配なんだ」
「レイリアちゃんが?」
「ああ」
「わかった!週末家に帰るから、聞いてくるよ!」
「ありがとう。恩にきる。その…こないだは、悪かったな。頭に血が上って…」
「全然いいよ!同期じゃんか!」
アマンドは目元を緩めて微笑んでくれた。
「すまない。助かる。何か俺にできる事があったら、グルトも遠慮なく言ってくれ」
「おう!」
週末、騎士宿舎から家に帰って早速レトに確認した。
「レト、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「うん!何?何?」
「レトの行ってる塾のクラスに、ロイっている?」
「ロイリスのこと?いるけど?」
「ロイリスっていうのか・・そいつ、女慣れしてるか?」
「うん。ノリが軽くて、よく女の子の話ししてる。何で?」
「ああ、俺のど…友達の婚約者が、ちょっかいかけられてるらしいんだ」
「あー、じゃあロイリス ピートだよ、間違いない。去年から塾に入ってて、入った時16だったから・・今年17かな?」
「ロイリス ピートか…そいつに決まりだな」
週明けにアマンドに早速報告だ!
私塾に通ったことのないグルトは知らなかった。
私塾が同じ日の午前の部と午後の部で、クラスが分かれていることを。
そしてそれは、アマンドも同様なのである。
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