16 / 165
春
ランチの前の一悶着
しおりを挟む
手を引かれ部屋から出ると、詰所にはさっきの騎士さんたちがいた。
私たちを見て騎士さんの1人が腰を上げる。
「あ、レイリアちゃ」
ん、と言い終わる前に、アマンド様が私の前に立ち塞がった。
「ヒッ!そ、そんな怖い顔すんなよぉ、アマンド!俺たち、同期だろ?」
「俺の婚約者にそんな馴れ馴れしく話しかけるような輩は、同期でも容赦しない」
アマンド様の低い声が辺りに響く。
確かに、”ちゃん”付け呼びは通常デビュタントを終えた令嬢に失礼である。
人の婚約者なら尚更ダメだ。
隣の騎士さんがため息をつく。
「グルト、お前、本っ当にアマンドの逆鱗に触れる真似ばっか、するよな」
グルトと呼ばれた、灰色の髪に深緑の瞳を持つ人物は、先ほど私を取り囲んだ騎士さんのうちの1人だった。
「だってアマンドは婚約者の話、全然してくんないじゃんか!すっげえ隠そうとするだろ?隠そうとされると、人は暴きたくなるもんなんだよ!」
隠されてたのかー!
衝撃が走る。
つまり、私の存在は公にしたくなかった、と?
そう言われれば、確かに・・。
毎回お互いの屋敷で会うばかり。
私がデビュタントした後、2人で連れ立って夜会などのイベントに参加したことは一度もない。
てっきり、アマンド様が激務なせいだとばかり思い込んでいたが、これは考えを改める必要があるのかもしれない。
現に私は今、アマンド様の身体でもって、物理的に騎士の皆さんから隠されている。
存在を隠されていた私が、抜け抜けと騎士団に現れたので、だからさっきアマンド様は怒ったのだろう。
気になるのは、私の存在を隠す理由だ。
婚約者がいること自体を隠したかったのか、それとも、婚約者が私であることを隠したかったのか。
もしかしたら、今のこの騎士さん達との会話から、何か判明するかもしれない・・!
私は僅かに顔を出して、前を塞ぐアマンド様の向こう側を覗いた。
グルト様がアマンド様に向き直る。
「まさかレイリアちゃんの方からここに来てくれるなんて、こんな機会逃すはずないだろ?唯一のお前の弱点だし、お近づきになりたかったのに!」
「お近づきに、だと?」
前のめりになるアマンド様を、騎士さん2人が押し留める。
「あー、アマンド、ストップストップ!」
「グルト・・お前ホント、アマンド煽る天才かよ・・」
なにやら不穏な空気だが、私は2度目の衝撃を受けていてそれどころではない。
まさか私の存在が、アマンド様の弱点に…!?
今後のアマンド様のキャリアを妨げるような、何か負い目になるようなご迷惑を・・私か、または私の一族の誰かがやらかしたんだろうか?
今まで極力、彼の仕事と体調を第一に考えてきたつもりだった。
それなのに、いつの間にか彼の弱みにまで成り下がっていたとは・・心当たりは無いが、それが逆に情けない。
今の話の流れからして、導かれた結論は1つ。
私は彼の弱みになっており、それ故、アマンド様は仕事仲間に隠していた。
もしかして、メイベルとのことがなかったとしても、婚約解消すべきだったのでは・・!?
せめて、少しでもその弱点の部分を挽回して、アマンド様の不利にならない様にしたい…婚約解消するにしても、迷惑をかけっぱなしでは、ディセンシア伯爵家としても申し訳が立たない。
確認したい。
私がどのような”弱点”になっているのか、グルト様に、詳しく聞いてしまいたい・・!
「ほ、ほらアマンド。これから婚約者殿と昼飯行くんだろ?お前の隊には俺が伝えといてやるから、早く行ってこい」
「え?俺も行きたい!俺もアマンドとレイリアちゃんと一緒に・・ムグッ」
「誰か、グルトで捕縛の練習すっぞー。」
「よーしグルト、向こうへ行こうな。抱えるぞ。おい、誰かそっちの足を持て。アマンド、ゆっくりしてこいよ」
「ああ」
アマンド様に手を引かれてそのまま外に出る。
あぁ!貴重な情報源が行ってしまう!
「あの、グルト様もご一緒しなくてよろしいのですか?」
「レイリア、その名を呼ぶな。その名を持つ者のことも、一切記憶しないでいい」
グルト様の存在すら"無かったこと"にしようとしてくる、かなり強引なアマンド様。
私の存在を隠していることをグルト様に暴露されて、動揺しているのかもしれない。
「でも・・」
「それにあいつは今、大事な仕事の真っ最中だ」
「・・・わかりました。」
残念だけど、お仕事なら、仕方ないか。
私たちを見て騎士さんの1人が腰を上げる。
「あ、レイリアちゃ」
ん、と言い終わる前に、アマンド様が私の前に立ち塞がった。
「ヒッ!そ、そんな怖い顔すんなよぉ、アマンド!俺たち、同期だろ?」
「俺の婚約者にそんな馴れ馴れしく話しかけるような輩は、同期でも容赦しない」
アマンド様の低い声が辺りに響く。
確かに、”ちゃん”付け呼びは通常デビュタントを終えた令嬢に失礼である。
人の婚約者なら尚更ダメだ。
隣の騎士さんがため息をつく。
「グルト、お前、本っ当にアマンドの逆鱗に触れる真似ばっか、するよな」
グルトと呼ばれた、灰色の髪に深緑の瞳を持つ人物は、先ほど私を取り囲んだ騎士さんのうちの1人だった。
「だってアマンドは婚約者の話、全然してくんないじゃんか!すっげえ隠そうとするだろ?隠そうとされると、人は暴きたくなるもんなんだよ!」
隠されてたのかー!
衝撃が走る。
つまり、私の存在は公にしたくなかった、と?
そう言われれば、確かに・・。
毎回お互いの屋敷で会うばかり。
私がデビュタントした後、2人で連れ立って夜会などのイベントに参加したことは一度もない。
てっきり、アマンド様が激務なせいだとばかり思い込んでいたが、これは考えを改める必要があるのかもしれない。
現に私は今、アマンド様の身体でもって、物理的に騎士の皆さんから隠されている。
存在を隠されていた私が、抜け抜けと騎士団に現れたので、だからさっきアマンド様は怒ったのだろう。
気になるのは、私の存在を隠す理由だ。
婚約者がいること自体を隠したかったのか、それとも、婚約者が私であることを隠したかったのか。
もしかしたら、今のこの騎士さん達との会話から、何か判明するかもしれない・・!
私は僅かに顔を出して、前を塞ぐアマンド様の向こう側を覗いた。
グルト様がアマンド様に向き直る。
「まさかレイリアちゃんの方からここに来てくれるなんて、こんな機会逃すはずないだろ?唯一のお前の弱点だし、お近づきになりたかったのに!」
「お近づきに、だと?」
前のめりになるアマンド様を、騎士さん2人が押し留める。
「あー、アマンド、ストップストップ!」
「グルト・・お前ホント、アマンド煽る天才かよ・・」
なにやら不穏な空気だが、私は2度目の衝撃を受けていてそれどころではない。
まさか私の存在が、アマンド様の弱点に…!?
今後のアマンド様のキャリアを妨げるような、何か負い目になるようなご迷惑を・・私か、または私の一族の誰かがやらかしたんだろうか?
今まで極力、彼の仕事と体調を第一に考えてきたつもりだった。
それなのに、いつの間にか彼の弱みにまで成り下がっていたとは・・心当たりは無いが、それが逆に情けない。
今の話の流れからして、導かれた結論は1つ。
私は彼の弱みになっており、それ故、アマンド様は仕事仲間に隠していた。
もしかして、メイベルとのことがなかったとしても、婚約解消すべきだったのでは・・!?
せめて、少しでもその弱点の部分を挽回して、アマンド様の不利にならない様にしたい…婚約解消するにしても、迷惑をかけっぱなしでは、ディセンシア伯爵家としても申し訳が立たない。
確認したい。
私がどのような”弱点”になっているのか、グルト様に、詳しく聞いてしまいたい・・!
「ほ、ほらアマンド。これから婚約者殿と昼飯行くんだろ?お前の隊には俺が伝えといてやるから、早く行ってこい」
「え?俺も行きたい!俺もアマンドとレイリアちゃんと一緒に・・ムグッ」
「誰か、グルトで捕縛の練習すっぞー。」
「よーしグルト、向こうへ行こうな。抱えるぞ。おい、誰かそっちの足を持て。アマンド、ゆっくりしてこいよ」
「ああ」
アマンド様に手を引かれてそのまま外に出る。
あぁ!貴重な情報源が行ってしまう!
「あの、グルト様もご一緒しなくてよろしいのですか?」
「レイリア、その名を呼ぶな。その名を持つ者のことも、一切記憶しないでいい」
グルト様の存在すら"無かったこと"にしようとしてくる、かなり強引なアマンド様。
私の存在を隠していることをグルト様に暴露されて、動揺しているのかもしれない。
「でも・・」
「それにあいつは今、大事な仕事の真っ最中だ」
「・・・わかりました。」
残念だけど、お仕事なら、仕方ないか。
78
あなたにおすすめの小説
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる