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春
何かの警報が鳴っています
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ドアに寄っ掛かり、腕を組んで私を見下ろすアマンド様。
わざわざ騎士団を訪ねてアマンド様を呼びつけた理由を聞かれ、私は大いに困っている。
彼を納得させるに足る大層な理由が私にあるはずもなく、それらしい理由も思いつかない。
こうなれば、破れかぶれだ。
私は来た理由をそのまま告げた。
「困り事とかじゃなくて・・・お昼を、一緒に、食べられないかと思って、寄っただけだから」
昨日の教会バザーの時、聴いた話を参考に考えた我儘だった。
お昼時に騎士団に行って、アマンド様を呼び出して、婚約者なんだから今からお昼に連れてって、と言うつもりだった。
もっと高圧的に、ジュディ様みたいにズバッと言うイメージだったのに…この言い方では完全に不発だ。
言い訳のように付け加える。
「あなたの職場も、見たことなかったし…」
仕事中の姿も見れたらラッキーだなって、実は楽しみにしていた。
アマンド様は虚をつかれたように「そんな理由…?」と言って口元を押さえた。
カァっと顔が熱くなる。
言わなきゃよかった、という後悔が胸に広がり、ワンピースの裾をギュッっとつかむ。
「べ、別にいいじゃない…お友達の知り合いは、婚約者の騎士様と時々お昼休みにデートしてるって言ってましたし、私はあなたの婚約者なんだから!」
言葉も出ないほど、呆れられている。
でも、嫌われる作戦にはよかったのかもしれない。
大した用事もないくせに、神聖な職場に現れるというワガママ女を演出できた気もしてきた。
ならば当初の目的は果たせたし、こうなったら一刻も早く立ち去って、彼を大事なお仕事へ向かわせねば。
恥ずかしさを頭の外に追いやって、私は自分を奮い立たせた。
「理由も言ったし、もういいでしょう?私は帰ります!そこを退いて下さい!」
何度か「退いて」と言ったが、口元を覆ったままの彼は呆れすぎて固まってしまったらしい。
とにかくドアから離れてもらわないと、帰れない。
焦れた私は両手で彼の腕を掴み、そのまま力任せに引っ張ったが、私の力ではびくともしない。
・・・今のはきっと、私の体勢がいけなかった。
重いものを持つ時のコツを、セバスチャンが昔教えてくれた通り、足を肩幅に開く。
仕切り直して、もう一度。
力を込めてグッと引っ張る。
その瞬間、アマンド様がスッとドアから離れた。
え?
アマンド様を退かすために込めた私の全力は、そのままま後方への勢いに変換されて、私はバランスを崩した。
倒れる…背中から…!
そこからは、急に時間がゆっくり流れていった。
体を支えるために、彼の腕を掴み直そうとしたが、掴み損ねて片手を離してしまった。
益々焦る私に大きくアマンド様が一歩を踏み出す。
アマンド様が私の背に手を回して引き寄せる。
私も、思わずアマンド様に縋り付く。
そして、彼が抱きとめてー
バクバクと、忙しなく心臓が動いている。
気づいた時には、彼の両腕の中に閉じ込められて、隙間がないほどきつく抱きしめられていた。
「倒れなくて良かった」という安堵を味わう余韻もなく、この状況に、心臓が更に音を立てる。
「ご、ごめんなさい。あなたが退いてくれないから、つい…」
抱きしめられると嫌でも意識してしまう。
彼の香り。
厚い胸板、太い腕、そのどれもが緻密な筋肉で覆われていて…
気づいてしまう。
仲の良かった頃の、私の知っていたアムドの体とはもう全く別物なのだと。
そこにいるのは、引き締まった肉体を持つ、大人の男性なのだと。
まずい。
これ以上は、本当にまずい。
頭の中に警報が鳴る。
何がまずいのか、混乱した頭では自分でもよく分からないが、とにかく早く離れなきゃと思う。
息はしているのに、胸が苦しい。
冷静でいられない。
私の中で、何か決定的なことが起こってしまう。
その正体に気づいている。
違う。
そんなんじゃない。
そうだ。この状況だ。
彼の想い人でもないのに、抱きしめられているみたいに見えてしまう。
それで焦っているだけだ。
誰かに見られて噂でもされたら大変だ。
メイベルに顔向けできない。
だから…
「あの!ありがとうございました。アマンド様」
もう大丈夫と、離れようと手に力を込める。
「アマンド様?離してくださる?」
どれだけを胸を押しても、びくともしない。
筋肉って凄いな…
いや、そうじゃなくて!
「アマンド様、すぐ、帰りますから!」
離れようと身を捩ると、更に抱きしめる力が強まった。
な、なんで…!
「レイリア」
「は、離してくださいませ」
どうしたって逃れられなくて、半泣きで訴える。
彼が身じろぎして、私の首筋に息がかかった。
「帰ったら、俺とご飯行けないよ?」
耳元で、そう囁かれてゾクっとした。
「いえ、もうそれは…」
「行くんだろ?」
「でもお仕事が」
「今からちょうど休憩時間だ」
え?そうなの?
「美味しいもの、食べに行こう」
じゃあいいのかな…でも…
私の代わりに、お腹がくぅと鳴った。
一拍置いて、クックックッと彼の肩が揺れる。
「レイリアのお腹は賛成みたいだ」
顔を真っ赤にした私からようやく離れて、アマンド様は上機嫌で私を部屋から連れ出した。
わざわざ騎士団を訪ねてアマンド様を呼びつけた理由を聞かれ、私は大いに困っている。
彼を納得させるに足る大層な理由が私にあるはずもなく、それらしい理由も思いつかない。
こうなれば、破れかぶれだ。
私は来た理由をそのまま告げた。
「困り事とかじゃなくて・・・お昼を、一緒に、食べられないかと思って、寄っただけだから」
昨日の教会バザーの時、聴いた話を参考に考えた我儘だった。
お昼時に騎士団に行って、アマンド様を呼び出して、婚約者なんだから今からお昼に連れてって、と言うつもりだった。
もっと高圧的に、ジュディ様みたいにズバッと言うイメージだったのに…この言い方では完全に不発だ。
言い訳のように付け加える。
「あなたの職場も、見たことなかったし…」
仕事中の姿も見れたらラッキーだなって、実は楽しみにしていた。
アマンド様は虚をつかれたように「そんな理由…?」と言って口元を押さえた。
カァっと顔が熱くなる。
言わなきゃよかった、という後悔が胸に広がり、ワンピースの裾をギュッっとつかむ。
「べ、別にいいじゃない…お友達の知り合いは、婚約者の騎士様と時々お昼休みにデートしてるって言ってましたし、私はあなたの婚約者なんだから!」
言葉も出ないほど、呆れられている。
でも、嫌われる作戦にはよかったのかもしれない。
大した用事もないくせに、神聖な職場に現れるというワガママ女を演出できた気もしてきた。
ならば当初の目的は果たせたし、こうなったら一刻も早く立ち去って、彼を大事なお仕事へ向かわせねば。
恥ずかしさを頭の外に追いやって、私は自分を奮い立たせた。
「理由も言ったし、もういいでしょう?私は帰ります!そこを退いて下さい!」
何度か「退いて」と言ったが、口元を覆ったままの彼は呆れすぎて固まってしまったらしい。
とにかくドアから離れてもらわないと、帰れない。
焦れた私は両手で彼の腕を掴み、そのまま力任せに引っ張ったが、私の力ではびくともしない。
・・・今のはきっと、私の体勢がいけなかった。
重いものを持つ時のコツを、セバスチャンが昔教えてくれた通り、足を肩幅に開く。
仕切り直して、もう一度。
力を込めてグッと引っ張る。
その瞬間、アマンド様がスッとドアから離れた。
え?
アマンド様を退かすために込めた私の全力は、そのままま後方への勢いに変換されて、私はバランスを崩した。
倒れる…背中から…!
そこからは、急に時間がゆっくり流れていった。
体を支えるために、彼の腕を掴み直そうとしたが、掴み損ねて片手を離してしまった。
益々焦る私に大きくアマンド様が一歩を踏み出す。
アマンド様が私の背に手を回して引き寄せる。
私も、思わずアマンド様に縋り付く。
そして、彼が抱きとめてー
バクバクと、忙しなく心臓が動いている。
気づいた時には、彼の両腕の中に閉じ込められて、隙間がないほどきつく抱きしめられていた。
「倒れなくて良かった」という安堵を味わう余韻もなく、この状況に、心臓が更に音を立てる。
「ご、ごめんなさい。あなたが退いてくれないから、つい…」
抱きしめられると嫌でも意識してしまう。
彼の香り。
厚い胸板、太い腕、そのどれもが緻密な筋肉で覆われていて…
気づいてしまう。
仲の良かった頃の、私の知っていたアムドの体とはもう全く別物なのだと。
そこにいるのは、引き締まった肉体を持つ、大人の男性なのだと。
まずい。
これ以上は、本当にまずい。
頭の中に警報が鳴る。
何がまずいのか、混乱した頭では自分でもよく分からないが、とにかく早く離れなきゃと思う。
息はしているのに、胸が苦しい。
冷静でいられない。
私の中で、何か決定的なことが起こってしまう。
その正体に気づいている。
違う。
そんなんじゃない。
そうだ。この状況だ。
彼の想い人でもないのに、抱きしめられているみたいに見えてしまう。
それで焦っているだけだ。
誰かに見られて噂でもされたら大変だ。
メイベルに顔向けできない。
だから…
「あの!ありがとうございました。アマンド様」
もう大丈夫と、離れようと手に力を込める。
「アマンド様?離してくださる?」
どれだけを胸を押しても、びくともしない。
筋肉って凄いな…
いや、そうじゃなくて!
「アマンド様、すぐ、帰りますから!」
離れようと身を捩ると、更に抱きしめる力が強まった。
な、なんで…!
「レイリア」
「は、離してくださいませ」
どうしたって逃れられなくて、半泣きで訴える。
彼が身じろぎして、私の首筋に息がかかった。
「帰ったら、俺とご飯行けないよ?」
耳元で、そう囁かれてゾクっとした。
「いえ、もうそれは…」
「行くんだろ?」
「でもお仕事が」
「今からちょうど休憩時間だ」
え?そうなの?
「美味しいもの、食べに行こう」
じゃあいいのかな…でも…
私の代わりに、お腹がくぅと鳴った。
一拍置いて、クックックッと彼の肩が揺れる。
「レイリアのお腹は賛成みたいだ」
顔を真っ赤にした私からようやく離れて、アマンド様は上機嫌で私を部屋から連れ出した。
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