大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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まずは形から。

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あれから、我儘な女になるために思いついたことをノートに書き留めているのだけれど、なかなか書くことが見つからない。

人には、得手不得手がある。

我儘というものは、私の不得手の上位に食い込むであろうことは、一先ず理解できた。

でも、不得手だからと言って、人には退けない時もある。

アマンド様の気持ちを知ってしまった今、私に悠長なことは言ってられないのだ。

今日の茶会で実践あるのみ。

まずは形から、我儘な女っぽくしてみようかしら。

「ね、キーラ。今日は少し髪型を変えてもらえない?」

「あら、珍しい」

メイドのキーラが髪を解いていた手を止めると、その綺麗な緑の瞳と鏡越しに目が合った。

「いいと思います!だってお嬢様は全然着飾るような場に出ないんですもの。出かけるとしたら、お買い物か、精々ご友人とのお茶会くらいじゃないですか。いくら私が最新の髪型を覚えてきても、披露の仕様がありませんし」

キーラはメイドの中でも1番の美人だ。

キーラに恋煩いしている屋敷の使用人から、たまに相談を受けることもある。

花のような美人とよく言われるメイベルとは違って、キーラは目鼻立ちの整った、クールビューティだ。

「キーラ、今日はどこにも出かけないし、そんな大層な髪型にはしないで頂戴ね?」

「お嬢様ももういい年なんですから、少しはおしゃれに気を遣って頂かないと。その茜色の髪なんて、とっても個性的で素敵ですよ?」

「茜色と言われたら聞こえが良いけれど、単なるオレンジだから」

私の髪色はこの国でも珍しいオレンジ色だ。

瞳は薄いブルー。

この、生まれながらに目立つオレンジ色の髪のお陰で、どんなに遠目でも友人は私に気づく。

「ふふ、でも安心しました」

口元を綻ばせるキーラに私はキョトンとする。

「何が?」

「今日はアマンド様とのお茶会、ですものね?」

鏡の中のキーラがウインクして、私は悟った。

「ち、違うわよ?」

「ようやく婚約者としての意識が芽生えてこられたのは、喜ばしいことですわ。さてそれで、どんな髪型にしましょうか!」

なんか絶対誤解された…!!

しかもすでに話題を変えられている!

恨めし気にキーラを見て、私は考えた。

「そうね、いつもより…」

期待を込めた目でキーラが私を見ている。

そう、いつもより…いつもより、何だろ。

我儘な人ってどんな髪型してんの?

「強そうな感じ?かしら?」

キーラが半目になる。

「どこの世界に、婚約者に会うのに強そうな髪型を選ぶ淑女が居るんですか。っていうか強そうな髪型って何ですか。角でも生やせば良いんですか」

「し、知らないわよ」

「お嬢様に応えたい気持ちは重々ありますが、そのリクエストにはお応え致しかねます。」

敗因は、ノープランだった私のせいだ。

「どんなイメージがいいんですか?イメージを言ってくだされば、適当に考えますから」

キーラの有能さに私はいつも助けられる。

「それなら、そうね…勝ち気な感じ?言いたいことズバズバ言っちゃう、みたいな。」

これならイメージ伝わったんじゃない?

確かな手応えを感じる私に、キーラは顔を傾けた。

「それはどうでしょう。お嬢様のイメージとはあまりにも違うと言うか…」

だからそこを!キーラのテクニックで形から変えたいってことで!

私は熱弁するが、キーラがボソッと呟く。

「お嬢様はどっちかと言うと小動物っぽいからなぁ…」

「え?今、何て言ったの?」

「い、いえ!とりあえず、今日はハーフアップにしてみましょうか」

いつものストレートロングヘアが、全体的に緩くウェーブされ、ハーフアップした髪のトップには、飾りをつけてくれた。

うんうん、まあ良いかもしれない。

ロングストレートの時よりは、自己主張しそうに見える、ような。

支度が終わり、窓に向かう。

庭園にある満開のライラックの木の下に、お茶会のためのテーブルが準備されている所だった。

今日から、我儘を頑張る。

決意を胸に、私は大きく頷いた。








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