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春
定例の茶会①
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小鳥の囀りに包まれて、肌を撫でる風は暖かい。
ライラックの芳しい匂いの中、私は正面に座る彼を見つめた。
アマンド ガーナー伯爵令息。
短い黒髪に、金と見紛う黄色の目を持つこの美しい人は、ガーナー伯爵家の長男であり、私の婚約者だ。
私がアマンド様と正式に婚約を結んだのは、私が12歳の頃。
3歳上のアマンド様はその時15歳だった。
幼い頃からお互いの家を行き来していたので、両家の間にいつかは婚約を、という目論見があったのかもしれない。
それなりに仲睦まじく過ごしていたし、婚約を結んだ時にはドキドキしたし嬉しかった。
婚約式で贈られた宝石は、彼の瞳の色であるイエローダイヤモンドで、本当に綺麗で・・ずっと眺めていたのを覚えている。
あちらのお父様もお母様も、私を本当の娘のように可愛がってくれて、婚約後、私はよくアマンド様のお屋敷に遊びに行った。
私が行くとアマンド様も必ず出てきてくれて、2人でピアノの練習をしたり、図書室で一緒に物語を読んだり、庭師の手伝いをしたり、ずっと一緒にいた。
あの頃から、優しくて、素敵で、大好きだった。
婚約した翌年、一足先にデビュタントを終えた彼は、騎士見習いとして騎士団に通いだし、昨年正式に騎士団に採用された。
今年、彼は騎士として2年目。
若手の中で抜きんでて強いらしく、2年目にして昇格し、彼の美丈夫ぶりも相まって、それはそれは話題らしい。
メイベルがいつも興奮しながら彼の人気の凄さを讃えていたから、私もよく知っている。
その彼は今、顔を横に向けてティーカップを傾けている。
時間通りに来たアマンド様をこの席に案内して以降、私達の間にほとんど会話はない。
正確に言うなら、会話する糸口になるものがないと言うか。
私から聞くのであれば、一番頑張っているであろう仕事の話だが、彼の仕事は仮にも騎士団だ。
そもそも彼が通常どんな仕事に就いているのかよくわからない上に、秘匿義務のようなものもあると聞く。
下手に話を聞くことで、結果、彼に迷惑をかけてしまうかもしれないと思うと、仕事の話を聞くのはためらわれた。
彼の方は、合間合間にポツリと私へ質問することもある。
このひと月はどう過ごしていたのか、とか、最近変わったことはあるか、とか。
ほとんど出かけもせず、変わり映えしない毎日を送っている私にとって、これはなかなかの難問だ。
「特に変わりありません」しか答えが浮かばない。
しかし幾らなんだって、これではまるで業務連絡だ。
「変わりあるか」「ありません」
見回りしている警ら隊じゃないんだから。
気まずい沈黙の中、私はお菓子に手を伸ばした。
あの、2段目のプレート…スミレの砂糖漬けの載っているカップケーキが食べたい。
手前の飴がけの苺が少し邪魔で、イマイチうまく掴めない。
気づいた彼が手を差し出すので、お皿を渡す。
私が食べたかったカップケーキと、それ以外の菓子を全部1つずつ盛り合わせて、彼はお皿を返してきた。
立派なデザートプレートになってしまった…
食べ切れるだろうか。
それで、と彼はお茶を飲みながら切り出した。
「このひと月、変わったことは?」
来た。定例報告。
実はつい先日あなたとの婚約解消を決意しました、と言えるはずもなく、私は曖昧に笑った。
「特には。アマンド様はいかがですか?」
「同じく、だ」
呆気なく報告が終了した。
いや、今日はあれに触れておこう。
「アマンド様は、昇格されたと聴きましたが?」
そう言うと、彼が目を上げた。
「知っていたのか」
「え?はい。」
昇格が嬉しいのか、何となく機嫌の良さそうな雰囲気が伝わってくる。
この話題なら、もう少し話を広げても良いのかもしれない。
話の糸口を見つけて私はホッとした。
「昇格されたと言うことは、ますますお忙しいのでは?」
そう聞いて顔を上げると、お怒りモードの彼が、私を睨んでいる。
え?何で?
ライラックの芳しい匂いの中、私は正面に座る彼を見つめた。
アマンド ガーナー伯爵令息。
短い黒髪に、金と見紛う黄色の目を持つこの美しい人は、ガーナー伯爵家の長男であり、私の婚約者だ。
私がアマンド様と正式に婚約を結んだのは、私が12歳の頃。
3歳上のアマンド様はその時15歳だった。
幼い頃からお互いの家を行き来していたので、両家の間にいつかは婚約を、という目論見があったのかもしれない。
それなりに仲睦まじく過ごしていたし、婚約を結んだ時にはドキドキしたし嬉しかった。
婚約式で贈られた宝石は、彼の瞳の色であるイエローダイヤモンドで、本当に綺麗で・・ずっと眺めていたのを覚えている。
あちらのお父様もお母様も、私を本当の娘のように可愛がってくれて、婚約後、私はよくアマンド様のお屋敷に遊びに行った。
私が行くとアマンド様も必ず出てきてくれて、2人でピアノの練習をしたり、図書室で一緒に物語を読んだり、庭師の手伝いをしたり、ずっと一緒にいた。
あの頃から、優しくて、素敵で、大好きだった。
婚約した翌年、一足先にデビュタントを終えた彼は、騎士見習いとして騎士団に通いだし、昨年正式に騎士団に採用された。
今年、彼は騎士として2年目。
若手の中で抜きんでて強いらしく、2年目にして昇格し、彼の美丈夫ぶりも相まって、それはそれは話題らしい。
メイベルがいつも興奮しながら彼の人気の凄さを讃えていたから、私もよく知っている。
その彼は今、顔を横に向けてティーカップを傾けている。
時間通りに来たアマンド様をこの席に案内して以降、私達の間にほとんど会話はない。
正確に言うなら、会話する糸口になるものがないと言うか。
私から聞くのであれば、一番頑張っているであろう仕事の話だが、彼の仕事は仮にも騎士団だ。
そもそも彼が通常どんな仕事に就いているのかよくわからない上に、秘匿義務のようなものもあると聞く。
下手に話を聞くことで、結果、彼に迷惑をかけてしまうかもしれないと思うと、仕事の話を聞くのはためらわれた。
彼の方は、合間合間にポツリと私へ質問することもある。
このひと月はどう過ごしていたのか、とか、最近変わったことはあるか、とか。
ほとんど出かけもせず、変わり映えしない毎日を送っている私にとって、これはなかなかの難問だ。
「特に変わりありません」しか答えが浮かばない。
しかし幾らなんだって、これではまるで業務連絡だ。
「変わりあるか」「ありません」
見回りしている警ら隊じゃないんだから。
気まずい沈黙の中、私はお菓子に手を伸ばした。
あの、2段目のプレート…スミレの砂糖漬けの載っているカップケーキが食べたい。
手前の飴がけの苺が少し邪魔で、イマイチうまく掴めない。
気づいた彼が手を差し出すので、お皿を渡す。
私が食べたかったカップケーキと、それ以外の菓子を全部1つずつ盛り合わせて、彼はお皿を返してきた。
立派なデザートプレートになってしまった…
食べ切れるだろうか。
それで、と彼はお茶を飲みながら切り出した。
「このひと月、変わったことは?」
来た。定例報告。
実はつい先日あなたとの婚約解消を決意しました、と言えるはずもなく、私は曖昧に笑った。
「特には。アマンド様はいかがですか?」
「同じく、だ」
呆気なく報告が終了した。
いや、今日はあれに触れておこう。
「アマンド様は、昇格されたと聴きましたが?」
そう言うと、彼が目を上げた。
「知っていたのか」
「え?はい。」
昇格が嬉しいのか、何となく機嫌の良さそうな雰囲気が伝わってくる。
この話題なら、もう少し話を広げても良いのかもしれない。
話の糸口を見つけて私はホッとした。
「昇格されたと言うことは、ますますお忙しいのでは?」
そう聞いて顔を上げると、お怒りモードの彼が、私を睨んでいる。
え?何で?
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