大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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お酒を飲みたいです。

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「だめだ。レイリアにはまだ、酒は早い。」

それまでとは違う、厳しい声音で即座にアマンド様が答える。

「私にはまだって・・私はもう、デビュタントは終えているんですよ?」 

「レイリア、そう言う問題じゃ無い。ほら、あっちにジュースがあるから、喉が渇いてるならあちらで選ぼう。」

「・・嫌です。お酒を飲みたいんです。」

アマンド様が軽くため息をついた。

「我儘を言わないでくれ。大体、酒を飲んだことなどないだろう?」

何も言い返せない代わりに、消化できない気持ちが、胸の中に溜まっていく。

「ほら、レイリア。あっちにはスイーツもあるし・・」

そこに、ウェイターが通りがかった。

お飲み物はいかがですか、と差し出されたトレイから、迷わずオレンジが飾り付けられた赤い液体のグラスを取る。

「レイリア…それは酒だぞ」

「だから飲むんじゃないですか」

私は当然、という顔をしながら口をつけた。

もちろん嘘である。

お酒は全く嗜まない。

大人になったら美味しく感じるものなのかと思っていたけれど、全然美味しくない。

なのでデビュタントを終えてからも、お酒とは、時折気が向いた時にペロッと舐めては「相変わらずまずいな」と再確認する程度の付き合いだ。

今回のお酒は果物が漬け込んであるのか、口に含んだ瞬間は甘みがあり、飲みやすいのがせめてもの救いだ。

あー、でもやっぱりまずい。

こんなもの飲むならジュース飲みたい。でもここは我慢。

息を止め止めようやく1杯飲み終えると、ウェイターを呼び止めて、すぐに新しい杯を手に取った。

1杯飲み終えたことで、アマンド様は私がお酒もいけるのだと思ったらしい。

「レイリア…いつから酒を嗜むようになったんだ?」

探るような目つきで聞かれて、それには答えずニッコリ微笑む。

「私もデビュタントを終えたのですもの。お酒の付き合いくらいありますわ」

そう言うと、はっきりと彼が顔を顰めた。

酒好きな女なんて、騎士である彼からしたら印象は最悪だろう。

でも、そう思われたっていい。

こんな形でも、アマンド様を見返してやらないと、腹の虫がおさまらない。

恋人と一緒にお酒を飲みたいのに、彼はここでもまだ、私のことを子ども扱いするんだから。

よし、今日はこの調子で、頑張って飲んでやる。

我慢我慢と心で呟きながら飲み進めるうちに、渋味にゲンナリしてきた。

本当は5.6杯飲めた方が酒好き感があるが、さすがに初心者の私はそこまで飲めそうにない。

今夜は3杯まで頑張ろう。

3杯余裕で飲める感を醸し出せば、アマンド様も、考えを改めるかもしれない。

彼が諦めたようにため息をつく。

「わかった。わかったから、少し飲むペースを落としたらどうだ?」

「お断りします。私、今日は飲みたい気分なんです。アマンド様は?一緒に飲んでくださらないの?」

「いや俺は…」

そう言えば、彼はお酒は飲むのだろうか。

夜会にも行ったことがなかったから、アマンド様と一緒にお酒を飲んだことはなかった。

「酒は飲めるが、今日はやめておく」

「でもせっかく・・」

「リア、俺は今日は飲まない。」 

少しくらい、付き合ってくれてもいいのに。

それとも、私とは飲めない、ということだろうか。

じわり、と視界が滲む。

大人の真似をして、2人で「乾杯」とジュースのグラスを合わせて遊んでいた、あの頃。

いつか本物のお酒で乾杯する日を夢見ていた。

今日こそ、それができるかと思っていたのに。

せり上がってきた涙で目が潤み、私は慌てて彼に背を向けた。

何だか急に、涙もろくなってしまった。

「飲まないのでしたら…私はここで飲んでおりますので、どうぞ、ご自由にお過ごしくださいませ」

そう言って、手近にあった席に腰を下ろした。

しばらく何も言わず立ち尽くしてから、背後のアマンド様が離れていく。

行ってしまった・・

呆れてしまったのかも。

俯いた先には、綺麗なルビー色の水面が揺れるグラスがある。

あと、半分ほど残っている。

子どもじゃないと主張したいのに、やっていることは子どもみたいだ・・





「レイリア嬢?」

聞き慣れた声がして顔を上げると、ディフィート様がこちらに近づいてきた。

「まさかここでお会いできるとは…おひとり…の訳はないですよね。アマンド君はどちらです?」

正装用の黒の騎士服を纏うディフィート様が、気遣わしげに聞いてくる。

「ディフィート様も、いらしてたんですね」

それもそうか。ディフィート様は優勝者だし、とぼんやりと思う。

「そうだ・・優勝おめでとうございます」

「ああ、ありがとうございます。レイリア嬢・・少し酔ってますか?」

ディフィート様は私の正面に腰を下ろすと、手に持っていたグラスをテーブルに下ろした。

熱心に、何か言っている。

1人では危ないとか、パートナーはどこだとか。

でも何だか、頭がふわふわしてうまく聞き取れない。

座っているのに、揺れているみたいだ。

ディフィート様が手にしているグラスを視界に捉えて、私は微笑んだ。

私と同じ、オレンジの飾りが付いている赤いお酒。

強い騎士様が、女性の好みそうなカクテルを飲んでいるのが何だか可笑しい。

「ディフィート様」

私は持っていた自分のグラスを彼のグラスにカチンと合わせた。

「おそろい、ですね」

クスクスしながら、そう言って見上げると、ディフィート様が軽く息を詰めた。

「・・これは・・参ったな」

参った?

毎年試合で優勝しているディフィート様が、「参った」?

私から顔を背け、口を押さえて横を向くディフィート様をじっと観察する。

ディフィート様の弱点を、見つけられるかもしれない・・!

アマンド様がディフィート様に勝つヒントが、きっとどこかに・・・

あら?赤いお酒を飲むと、顔まで赤く染まるのかしら。

不思議に思っていると、ディフィート様がまた私に向き直って、身を乗り出してきた。

テーブルに置いていた私の手に、彼の手が重なる。

「レイリア嬢・・いや、レイリア様。もし本当におひとりなら、私とこの後・・」

「何をしている」
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