守護霊は吸血鬼❤

凪子

文字の大きさ
上 下
58 / 87

57

しおりを挟む
「おい、しっかりしろよ。ヴァン……ヴァン!」

ヴァンは海のような紺碧の目を薄く開く。

間近で見たせいなのか、死にそうに弱っているからなのか、その相貌は寒気がするほど美しく儚かった。

かろうじて息を吹き返したヴァンは、力のない手つきで聖を抱き寄せた。

聖でも突き飛ばせる程度の弱々しい抱擁だったが、そのまま逆らわなかった。

(消えればいいって、ずっと思ってたのに)

自分でも何が何だか分からずに混乱してきて、聖はヴァンの冷たい腕の中で煩悶した。

もしかしたら、今ヴァンを助けたことを後悔する日が来るかもしれない。

こんなふうに仕事を妨害した自分を、月代遥は決してよくは思わないだろう。

もしそうなったら、普通の生活を取り戻すことはできなくなってしまうかもしれない。

(馬鹿だ……俺は一体何をやって)

「聖」

そのとき、聖の肩に頭を乗せてぐったりともたれかかっていたヴァンが、かすれた声で言った。

「な、何だよ」

「お前の血を貰うぞ」

ヴァンは言うと、返事も聞かず聖の首元に歯を立てた。

「んっ……!」

聖は眉根を寄せて歯を食いしばる。痛みにではなく、押し寄せてくるもっと別のものに。

ヴァンは奪われた力を取り戻すようにして、必死で血を吸い上げてくる。

「あ…………っ」

ヴァンの喉の動く音、ごくごくと血を飲み下す音が聞こえてくる。互いの鼓動が伝わる距離で。

夢うつつになった透明な意識の中で、聖はぼんやりと思った。

(ほんと……俺は何がしたいんだろう)

罪悪感とも後ろめたさとも言えない複雑な感情が胸にわだかまる。

こんな情けないことになるくらいなら、中途半端な決意でここへ来るべきではなかったのだ。

かなり長い間そうしていたと思ったが、実際は三十秒ほどだった。

ヴァンは水から上がったときのように深く息を吸うと、生き返ったような表情になって聖に呼びかけた。

「聖」

聖はなぜか激烈な羞恥心がこみ上げてきて、ヴァンの目を直視することができなかった。

「何だよ。まだ足りないって言うのか」

憎まれ口を言い終わらないうちから、聖の唇はヴァンの唇に塞がれる。

「……!!!」

頭が真っ白になって硬直しているうちに、ほんのりと血の味のするキスはめまぐるしく終わっていた。

「な……な……!」

金魚のように口をパクパクさせている聖を見つめ、ヴァンは優しく甘く呟いた。

「愛している」

頭が真っ白になった聖の前で、ヴァンは少年のように悪戯っぽく笑うと、軽く肩をひるがえした。

その動作を終えたと思った瞬間、ヴァンの姿は居間から忽然と消えうせていた。

素早く目を凝らしても、もうどこにも見当たらず、気配すら失われていた。

「……っ!」

呆気に取られている聖の背後に、すっと高く細い影が差す。

遥は散らばった数珠と破られた結界、それから聖の首筋に残る花弁のような紅い痣を睨みつけると、忌々しく息をついた。

やがて、苦笑まじりに呟く。

「まったく。無自覚なのも困りものだな」

その声が耳に入らないのか、聖はヴァンが消えた虚空の彼方をいつまでも目で追い続けるのだった。




















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

処理中です...