守護霊は吸血鬼❤

凪子

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「おい、しっかりしろよ。ヴァン……ヴァン!」

ヴァンは海のような紺碧の目を薄く開く。

間近で見たせいなのか、死にそうに弱っているからなのか、その相貌は寒気がするほど美しく儚かった。

かろうじて息を吹き返したヴァンは、力のない手つきで聖を抱き寄せた。

聖でも突き飛ばせる程度の弱々しい抱擁だったが、そのまま逆らわなかった。

(消えればいいって、ずっと思ってたのに)

自分でも何が何だか分からずに混乱してきて、聖はヴァンの冷たい腕の中で煩悶した。

もしかしたら、今ヴァンを助けたことを後悔する日が来るかもしれない。

こんなふうに仕事を妨害した自分を、月代遥は決してよくは思わないだろう。

もしそうなったら、普通の生活を取り戻すことはできなくなってしまうかもしれない。

(馬鹿だ……俺は一体何をやって)

「聖」

そのとき、聖の肩に頭を乗せてぐったりともたれかかっていたヴァンが、かすれた声で言った。

「な、何だよ」

「お前の血を貰うぞ」

ヴァンは言うと、返事も聞かず聖の首元に歯を立てた。

「んっ……!」

聖は眉根を寄せて歯を食いしばる。痛みにではなく、押し寄せてくるもっと別のものに。

ヴァンは奪われた力を取り戻すようにして、必死で血を吸い上げてくる。

「あ…………っ」

ヴァンの喉の動く音、ごくごくと血を飲み下す音が聞こえてくる。互いの鼓動が伝わる距離で。

夢うつつになった透明な意識の中で、聖はぼんやりと思った。

(ほんと……俺は何がしたいんだろう)

罪悪感とも後ろめたさとも言えない複雑な感情が胸にわだかまる。

こんな情けないことになるくらいなら、中途半端な決意でここへ来るべきではなかったのだ。

かなり長い間そうしていたと思ったが、実際は三十秒ほどだった。

ヴァンは水から上がったときのように深く息を吸うと、生き返ったような表情になって聖に呼びかけた。

「聖」

聖はなぜか激烈な羞恥心がこみ上げてきて、ヴァンの目を直視することができなかった。

「何だよ。まだ足りないって言うのか」

憎まれ口を言い終わらないうちから、聖の唇はヴァンの唇に塞がれる。

「……!!!」

頭が真っ白になって硬直しているうちに、ほんのりと血の味のするキスはめまぐるしく終わっていた。

「な……な……!」

金魚のように口をパクパクさせている聖を見つめ、ヴァンは優しく甘く呟いた。

「愛している」

頭が真っ白になった聖の前で、ヴァンは少年のように悪戯っぽく笑うと、軽く肩をひるがえした。

その動作を終えたと思った瞬間、ヴァンの姿は居間から忽然と消えうせていた。

素早く目を凝らしても、もうどこにも見当たらず、気配すら失われていた。

「……っ!」

呆気に取られている聖の背後に、すっと高く細い影が差す。

遥は散らばった数珠と破られた結界、それから聖の首筋に残る花弁のような紅い痣を睨みつけると、忌々しく息をついた。

やがて、苦笑まじりに呟く。

「まったく。無自覚なのも困りものだな」

その声が耳に入らないのか、聖はヴァンが消えた虚空の彼方をいつまでも目で追い続けるのだった。




















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