守護霊は吸血鬼❤

凪子

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散らばった硝子片を片付け、数珠を拾い集め、砕けた湯のみを掃除する遥を聖は手伝った。

あんなに凄い術のようなものが使えるのに、掃除は手で行わなければならないのが滑稽でもあり、かえってほっとするようでもあった。

「大丈夫?手、切らなかった?」

遥は心配そうに尋ねてくる。和やかな目つきは、優しいお兄さんそのものだ。

綺麗に清められた居間に向かい合って座ると、先ほどまでの非日常が限りなく遠く思えた。

改めて淹れてもらった緑茶の湯のみを両手でくるみ、聖はおそるおそる切り出した。

「あの、月代さん」

「遥でいいよ。何?」

と、遥は穏和な笑みで優しく促した。

聖はテーブルに額がつくほど深く頭を下げて、

「さっきは本当にすみませんでした。祓ってもらいたいなんて言っておいて、俺」

言葉が喉につっかえる。胸の奥が苦い。叱責と罵倒が待ち受けているかと身を硬くする。

「いいんだよ。顔を上げて」

思いがけず柔らかな遥の反応に、聖は救われた思いがした。

遥は茶を飲みながら、にこにこと目を細めて笑っている。

そこに先ほどまでの酷薄な面影は微塵も見当たらなかった。

「僕も事を急ぎすぎたな、とは思っているんだよ。最初にいろんなことをちゃんと説明しておけばよかったね」

(お、大人だ……!)

聖は尊敬と羨望の眼差しで遥を見上げた。感動を通り越して、神々しくさえ見える。

「あの男は君に何も話さなかったんだね」

年少者を扱い慣れている刑事のような口ぶりで、彼は言った。

聖はヴァンと出会ってからの数日間のことを思い起こしながら、

「名前と、自分は吸血鬼だとしか。俺、最初はみんなにも視えてると思ったんですけど、兄も友達も視えなくて。それで由宇が、遥さんのところへ行けって言ってくれたんです」

「あの男が初めて君の前に現れたのは、君たちの学校の裏の小高い丘にある祠じゃなかったかい?」

聖は驚きながら何度も首を縦に振った。

「はい。そうです。そのとおりです」

「そのとき彼は、最初どんな姿をしていたか教えてもらえるかな」

「小さな子供でした。口に布みたいなのを巻かれていて、そこに文字だか数字だかがびっしり並んでいて。俺、子供が口をふさがれてるんだと思って、何も考えずにそれを剥がしたら……」

「子供は成長し、彼の姿になった……と」

遥は自然に言葉を引き取り、聖は頷いた。

「はい」

経緯を説明している間、遥はしっかりと聖の目を見て頷き、相づちを打って聞いてくれた。

聖は久しぶりにまともな会話をした、と思った。
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