守護霊は吸血鬼❤

凪子

文字の大きさ
上 下
55 / 87

54

しおりを挟む
瞳の奥に危険な光を宿し、冷たい微笑を浮かべながら、遥は錫杖を握りしめて力を込める。

そのたびに金輪が鈴のような澄んだ音を響かせ、ヴァンの身体はぎりぎりと締め上げられてゆく。

万力をこめて抵抗しようとしているが、明らかに数珠の力のほうが勝っていた。

 「こんなもの、簡単に解いてやるさ……っぐっ!」

無理に笑みを浮かべるヴァンを見て、遥は醒めた目でさらに力を込めると低い声で言った。

「好きなだけ吠えるがいい。そのうち口もきけなくなる」

ヴァンはうずくまったまま、身動きすらできずに悶え苦しんでいる。

完全に形勢逆転した遥は、そのヴァンを情け容赦なく見下ろしていた。まるで忌々しい毒虫でも見るような目で。

(どうしよう……このままじゃ……このままじゃ本当に……)

聖はおぼつかない頭で考えた。いまやヴァンの生殺与奪は、完全に遥の手によって掌握されていた。

(……このためにここへ来たんじゃないか)

と、心の中で誰かが冷静に言う。

遥は仕事を遂行しようとしているだけだ。

聖から悪しきものを祓う。そのために、人に害をなす邪悪な者の息の根を止める。

それがいったい、何の罪になるというのだろう。

感謝されこそすれ、非難されるいわれなどないはずだ。

それなのに、聖はそれを平静な気持ちで見ていることができなかった。

(だって、俺はまだ何も知らない。何も聞いてない。あいつのこと、あいつが何故俺の血を欲するのか、何で子供の姿であの場所にいたのか、あの変な性格の理由も、二百年前の契約も、全部、全部。
何も分からないまま、他の人にあいつを消してもらって、それでいいのか?)

「うぐあああっ!」

一際痛ましい叫び声があがり、ヴァンの身体が痙攣するように跳ねた。

聖は飛び上がった。

「ヴァン!」

「来ちゃ駄目だよ」

思わず一歩そちらへ踏み出した聖に、遥の諌める声が鋭い矢のように飛んでくる。

聖が見上げると、錫杖を手に振り向いた遥は、先ほどと全く変わらない穏やかさで微笑んでいた。

それが逆に聖を戦慄させた。

清らかな水のような僧衣に身を包み、聖なる錫杖を手にした姿なのに、そのときの遥はまるで全身に返り血の花を咲かせているように見えた。

蒼白い月明かりの下、屍を踏み分けて歩く、静かな狂気を帯びた殺人者の笑顔だ。

こんな異様な状況で笑えることが信じられなかった。

聖は制止を受けて立ち止まったが、瞳はヴァンの苦痛にあえぐ姿に釘づけになっていた。

喉がからからに渇いてへばりつき、言葉が上手く出てこない。

遥は全てを見越したような瞳で言った。

「情けをかけてやる必要はないよ。こいつは人間の形をした悪魔だ」

「でも……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

処理中です...