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瞳の奥に危険な光を宿し、冷たい微笑を浮かべながら、遥は錫杖を握りしめて力を込める。
そのたびに金輪が鈴のような澄んだ音を響かせ、ヴァンの身体はぎりぎりと締め上げられてゆく。
万力をこめて抵抗しようとしているが、明らかに数珠の力のほうが勝っていた。
「こんなもの、簡単に解いてやるさ……っぐっ!」
無理に笑みを浮かべるヴァンを見て、遥は醒めた目でさらに力を込めると低い声で言った。
「好きなだけ吠えるがいい。そのうち口もきけなくなる」
ヴァンはうずくまったまま、身動きすらできずに悶え苦しんでいる。
完全に形勢逆転した遥は、そのヴァンを情け容赦なく見下ろしていた。まるで忌々しい毒虫でも見るような目で。
(どうしよう……このままじゃ……このままじゃ本当に……)
聖はおぼつかない頭で考えた。いまやヴァンの生殺与奪は、完全に遥の手によって掌握されていた。
(……このためにここへ来たんじゃないか)
と、心の中で誰かが冷静に言う。
遥は仕事を遂行しようとしているだけだ。
聖から悪しきものを祓う。そのために、人に害をなす邪悪な者の息の根を止める。
それがいったい、何の罪になるというのだろう。
感謝されこそすれ、非難されるいわれなどないはずだ。
それなのに、聖はそれを平静な気持ちで見ていることができなかった。
(だって、俺はまだ何も知らない。何も聞いてない。あいつのこと、あいつが何故俺の血を欲するのか、何で子供の姿であの場所にいたのか、あの変な性格の理由も、二百年前の契約も、全部、全部。
何も分からないまま、他の人にあいつを消してもらって、それでいいのか?)
「うぐあああっ!」
一際痛ましい叫び声があがり、ヴァンの身体が痙攣するように跳ねた。
聖は飛び上がった。
「ヴァン!」
「来ちゃ駄目だよ」
思わず一歩そちらへ踏み出した聖に、遥の諌める声が鋭い矢のように飛んでくる。
聖が見上げると、錫杖を手に振り向いた遥は、先ほどと全く変わらない穏やかさで微笑んでいた。
それが逆に聖を戦慄させた。
清らかな水のような僧衣に身を包み、聖なる錫杖を手にした姿なのに、そのときの遥はまるで全身に返り血の花を咲かせているように見えた。
蒼白い月明かりの下、屍を踏み分けて歩く、静かな狂気を帯びた殺人者の笑顔だ。
こんな異様な状況で笑えることが信じられなかった。
聖は制止を受けて立ち止まったが、瞳はヴァンの苦痛にあえぐ姿に釘づけになっていた。
喉がからからに渇いてへばりつき、言葉が上手く出てこない。
遥は全てを見越したような瞳で言った。
「情けをかけてやる必要はないよ。こいつは人間の形をした悪魔だ」
「でも……!」
そのたびに金輪が鈴のような澄んだ音を響かせ、ヴァンの身体はぎりぎりと締め上げられてゆく。
万力をこめて抵抗しようとしているが、明らかに数珠の力のほうが勝っていた。
「こんなもの、簡単に解いてやるさ……っぐっ!」
無理に笑みを浮かべるヴァンを見て、遥は醒めた目でさらに力を込めると低い声で言った。
「好きなだけ吠えるがいい。そのうち口もきけなくなる」
ヴァンはうずくまったまま、身動きすらできずに悶え苦しんでいる。
完全に形勢逆転した遥は、そのヴァンを情け容赦なく見下ろしていた。まるで忌々しい毒虫でも見るような目で。
(どうしよう……このままじゃ……このままじゃ本当に……)
聖はおぼつかない頭で考えた。いまやヴァンの生殺与奪は、完全に遥の手によって掌握されていた。
(……このためにここへ来たんじゃないか)
と、心の中で誰かが冷静に言う。
遥は仕事を遂行しようとしているだけだ。
聖から悪しきものを祓う。そのために、人に害をなす邪悪な者の息の根を止める。
それがいったい、何の罪になるというのだろう。
感謝されこそすれ、非難されるいわれなどないはずだ。
それなのに、聖はそれを平静な気持ちで見ていることができなかった。
(だって、俺はまだ何も知らない。何も聞いてない。あいつのこと、あいつが何故俺の血を欲するのか、何で子供の姿であの場所にいたのか、あの変な性格の理由も、二百年前の契約も、全部、全部。
何も分からないまま、他の人にあいつを消してもらって、それでいいのか?)
「うぐあああっ!」
一際痛ましい叫び声があがり、ヴァンの身体が痙攣するように跳ねた。
聖は飛び上がった。
「ヴァン!」
「来ちゃ駄目だよ」
思わず一歩そちらへ踏み出した聖に、遥の諌める声が鋭い矢のように飛んでくる。
聖が見上げると、錫杖を手に振り向いた遥は、先ほどと全く変わらない穏やかさで微笑んでいた。
それが逆に聖を戦慄させた。
清らかな水のような僧衣に身を包み、聖なる錫杖を手にした姿なのに、そのときの遥はまるで全身に返り血の花を咲かせているように見えた。
蒼白い月明かりの下、屍を踏み分けて歩く、静かな狂気を帯びた殺人者の笑顔だ。
こんな異様な状況で笑えることが信じられなかった。
聖は制止を受けて立ち止まったが、瞳はヴァンの苦痛にあえぐ姿に釘づけになっていた。
喉がからからに渇いてへばりつき、言葉が上手く出てこない。
遥は全てを見越したような瞳で言った。
「情けをかけてやる必要はないよ。こいつは人間の形をした悪魔だ」
「でも……!」
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