56 / 87
55
しおりを挟む
「悪いが、邪魔はさせないよ。君を奴から解放するのが僕の役目だからね」
そう言われて、聖ははっと気づいた。
結界がガラスの障壁のように硬度を増し、いまや完全に聖を閉じ込めていた。
拳で叩いても、鈍く跳ね返ってくる。かなりの強度があることが窺われた。
自分が堅固な牢獄の中にいると自覚したとき、聖は稲妻に打たれたようにして理解した。
(これは俺を守るための結界じゃない。俺に、ヴァンを殺す邪魔をさせないための檻だったんだ)
きっと遥は、最初からこの事態を予想していたに違いない。
土壇場にきて意思を翻し、聖が止めに入るという事態を。
全ては計算ずくだったのだ。
「待ってください、月代さん!」
聖は無駄と分かりつつ結界の壁をたたき、叫んだ。
「俺、やっぱりできません!ヴァンのことを殺すのは待ってください」
「そう言うと思ったよ。優しいね、君は」
遥は生徒を見守る教師のような、寛容で慈悲深い微笑を投げかける。
それでも、手にしている錫杖には揺るぎない力がこもってゆく。
「あああ……!ぐっ……」
ヴァンの悲痛な叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。
聖に背を向け、ヴァンを見下ろすと、遥は光る刃のような横顔で言った。
「聖君が手を下す必要はないよ。僕が今、全てを終わらせてあげる。何も心配せずに見ておいで」
抗うように口を開きかけた聖を制して、遥は深遠を見つめる目で告げる。
「可哀想だと思うのなら、最後の言葉をかけてやればいい。こいつにそんな言葉を贈る価値などないと思うけれどね」
辛辣な台詞に、ヴァンが目を尖らせる。だがもはや、身体に溜め込んだ力を根こそぎ奪われてしまったようだった。
聖は結界を解こうとして、がむしゃらにかきわけるようにして爪を立てて引っかいたが、結界はびくともせず、屈強に立ちはだかっている。
もどかしくてじれったくて、わけもなく泣きそうになりながら、聖は叫び声をあげた。
「ヴァン!!」
ヴァンの瞳がこちらを見た。
その瞳は凄まじく強い力で聖の奥底を真っすぐに貫き、何かを雄弁に伝えていた。
言葉は泉のように溢れて、涙のようにこぼれ落ちてきた。
「お前……っ、お前はこんなんで消えちゃうのかよ!!あんなに余裕綽々だったくせに!俺のこと特別だって、一生血を吸うって言ってたくせに!俺の前でそんなカッコ悪い姿見せんなよ!!」
(何言ってるんだ、俺)
口走ってから聖はうろたえた。
遥の瞳が糸のように細くなる。
そう言われて、聖ははっと気づいた。
結界がガラスの障壁のように硬度を増し、いまや完全に聖を閉じ込めていた。
拳で叩いても、鈍く跳ね返ってくる。かなりの強度があることが窺われた。
自分が堅固な牢獄の中にいると自覚したとき、聖は稲妻に打たれたようにして理解した。
(これは俺を守るための結界じゃない。俺に、ヴァンを殺す邪魔をさせないための檻だったんだ)
きっと遥は、最初からこの事態を予想していたに違いない。
土壇場にきて意思を翻し、聖が止めに入るという事態を。
全ては計算ずくだったのだ。
「待ってください、月代さん!」
聖は無駄と分かりつつ結界の壁をたたき、叫んだ。
「俺、やっぱりできません!ヴァンのことを殺すのは待ってください」
「そう言うと思ったよ。優しいね、君は」
遥は生徒を見守る教師のような、寛容で慈悲深い微笑を投げかける。
それでも、手にしている錫杖には揺るぎない力がこもってゆく。
「あああ……!ぐっ……」
ヴァンの悲痛な叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。
聖に背を向け、ヴァンを見下ろすと、遥は光る刃のような横顔で言った。
「聖君が手を下す必要はないよ。僕が今、全てを終わらせてあげる。何も心配せずに見ておいで」
抗うように口を開きかけた聖を制して、遥は深遠を見つめる目で告げる。
「可哀想だと思うのなら、最後の言葉をかけてやればいい。こいつにそんな言葉を贈る価値などないと思うけれどね」
辛辣な台詞に、ヴァンが目を尖らせる。だがもはや、身体に溜め込んだ力を根こそぎ奪われてしまったようだった。
聖は結界を解こうとして、がむしゃらにかきわけるようにして爪を立てて引っかいたが、結界はびくともせず、屈強に立ちはだかっている。
もどかしくてじれったくて、わけもなく泣きそうになりながら、聖は叫び声をあげた。
「ヴァン!!」
ヴァンの瞳がこちらを見た。
その瞳は凄まじく強い力で聖の奥底を真っすぐに貫き、何かを雄弁に伝えていた。
言葉は泉のように溢れて、涙のようにこぼれ落ちてきた。
「お前……っ、お前はこんなんで消えちゃうのかよ!!あんなに余裕綽々だったくせに!俺のこと特別だって、一生血を吸うって言ってたくせに!俺の前でそんなカッコ悪い姿見せんなよ!!」
(何言ってるんだ、俺)
口走ってから聖はうろたえた。
遥の瞳が糸のように細くなる。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
[BL]デキソコナイ
明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる