守護霊は吸血鬼❤

凪子

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病院を出て歩き出した聖は、後ろをついてくるヴァンのことを何度か振り返った。

まるで、母親がついてきてくれているのを確認したがる子供のように。

「何だ?俺がいないと不安か?」

からかうように尋ねられて行動を自覚し、聖はそっぽを向いた。

「そんなわけあるか。ただ、俺はお前が」

「お前が?」

「……」

ヴァンは漆黒の衣のポケットに両手を突っ込み、いつの間にか聖の隣に回りこんで覗き込む。

「その除霊師って人には、お前の姿が見えるのかな」

由宇ははっきりとヴァンの存在を霊的なものだと認定していたが、聖は未だに半信半疑だった。

何せ、生まれてこの方、霊などお目にかかったことがないのだ。霊感も第六感も持ち合わせていない。

吸血鬼という特殊な存在がいることが本当だとしても、それを自分だけが目視できるというのはどうにも解せなかった。

(うまく言いくるめられて、精神病院にでも連れていかれたらどうしよう)

その男はお前の狂った妄想だ、ありもしない幻想におびえているだけだ。

そんなふうに言われてしまったら、聖はもう立ち直れる自信がなかった。

首筋の痛みやふらつく身体さえもまやかしのものなのだとしたら、自分はもう何を信じて生きていけばいいのか分からなくなってしまうだろう。

ヴァンは聖の思考を読み取って、浅く笑い声を立てた。

「本当にくだらないことを気に病むな、人間という生き物は。理解されないのがそんなに怖いか」

「……、お前なんかに分かるもんか」

聖は辛辣に言い放ったが、その声色はいささか精彩を欠いていた。

突きつけた刃の切っ先が鈍り、小さく震えるように。

ヴァンはそれに気づいているのかいないのか、飄々としている。

聖は電車を降り、道を確かめながら除霊師のいるという神社を目指した。

歩いている途中、足の感触がいつもと全然違うことに気づく。

いつもなら、ふくらはぎに一枚板が入っているような感じがするし、すぐに疲労が蓄積するのに、今日はいくら歩いても痛くならない。

やはり、先ほどの『まじない』とやらの効用なのだろうか。

「あのさ、」

聖はヴァンを見つめ、おずおずと窺うように言った。

「お前がさっきやったまじないって、どういうものなんだ?」

ヴァンはああ、と大して興味もなさそうに、

「吸血鬼の身体能力と生命力は人間をはるかに凌駕する。さっきはお前にその生命力を分け与えてやったのさ」

「じゃあ、俺の怪我はもう」

「どんな怪我なのか知らんが、大抵のものは癒されただろう」

あっさりと断言するヴァンに、聖は身を乗り出した。

「ほんとか?じゃあ俺もう走れるのか?!」

筋肉と骨が複雑に損傷しており、医者からは「普通に暮らす分には問題ないですが、激しい運動は避けてください」と言われたこの足が、完治したというのだろうか。

聖の瞳に宿った美しい希望の光に、ヴァンは一瞬見とれた。

花がほころぶような笑顔をしていることに、本人だけが気づいていない。


「お前を守るためなら何でもするさ。俺にとってお前は生命線だからな」

聖はその言葉に、一瞬ぴくりと立ち止まる。

なぜだろう、胸騒ぎがした。嫌な感覚がじわじわと身体の中に広がっていく。

その正体をいちはやく突き止めて、聖は肩を落とした。

(何で俺がこいつに、罪悪感なんか覚えなきゃならないんだ)

だが、こんなに自分勝手で残酷な吸血鬼でも、自分と由宇を助けてくれたことに変わりはない。

その事実が、聖の心を楔のように強くつなぎ止めていた。
















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