守護霊は吸血鬼❤

43

素早く血を吸い終えたヴァンは、くるりと向きを変えると、

「ここにいろ。すぐに終わらせてやる」

と言って、男たちのほうへ向かって手を振り上げた。

すると、今まで由宇を取り囲んで殴りつけていた連中の服が突然、肌までぱっくりと裂け、紅い華が咲いたようにして鮮血が噴き出した。

一方的なリンチが、一瞬にして不条理な惨劇に変わる。

「うぎゃあああああ！」

「腕が！腕があああ！」

腕や足を押さえてもだえ、もんどりうって悲鳴をあげている男たちを見下ろし、ヴァンはつまらなそうに鼻白んだ。

「手ごたえのない奴らだ」

聖は茫然と目を見開いたまま、その凄惨たる光景を見つめていた。

（カマイタチ……）

真空状態の気圧の変化によって起こると言われている、珍しい自然現象だ。

この男は、それを難なくやってのけたのだ。それもあんな一瞬で、由宇と聖だけを標的から除外して。

畏怖の念に、全身がぞわりと総毛立つのが分かった。

どうやら自分は、とんでもない化け物に憑りつかれてしまったらしい。

「う……」

そのとき、ホースで撒き散らしたかのように赤く濡れているアスファルトの上で、由宇が両手をついて身を起こそうとしているのが見えた。

何が起こったのか分からず、呆けたような表情をしている。唇の端が切れ、殴られた痕は青紫色に鬱血していた。

「由宇！！」

聖はなりふり構わず、弾かれたように走り出した。

もどかしい思いで由宇の傍へ駆け寄ろうとする。

「馬鹿、やめろ！」

ヴァンの珍しく焦ったような声が聞こえるのとほぼ同時に、聖はその場に突き倒されていた。

誰かが足首をつかんで、転ばせたらしかった。

転倒の痛みよりも、衝撃のほうが勝っていた。

（まだ動ける奴がいたのか！）

不覚を悟ったときには、聖は不良の一人に馬乗りになって取り押さえられていた。

男は卑しげな目を真っ赤に血走らせて、懐から光るナイフを取り出している。

「殺してやる！」

ナイフが振りおろされ、聖が思わず目をつむったとき、ぼぐっと骨の砕けるような音がして、男が前方へ吹っ飛ばされていた。今度こそ完全に失神している。

殴り飛ばした張本人であるヴァンは、その男を見おろして言った。

「こいつを押し倒していいのは、俺だけなんだよ」

「お前にもそんなこと許可した覚えはねえよ！」

聖は立ち上がり、真っ赤になって言い返した。だがすぐに、足から力が抜けて地面にへたり込む。

（どうして。今日はまだ、そこまで血を吸われていないはずなのに）　

「足が痛むのか」

と問われて、聖はようやく思い出したように足の痛みが襲ってくるのを感じた。

じりじりと追い詰めるようなうずきは、やがて激痛へと変わることを予兆していた。