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「散々利用しておいて、用済みになればボロ切れのように使い捨てるのか。これはいい、実に痛快だ。
聖、お前がここまで面白い奴だったとは思わなかったぞ。さしずめ悪の姫君といったところか」
ヴァンは歌うような口調で軽やかに言い、ますます上機嫌になってゆく。
彼にとっては、こんな修羅場など取るに足らないことなのだろう。
まるで朝食後のティータイムのように平和で穏やかな顔をしている。
(くそっ……畜生っ!!!)
決断を迷う数秒が、永遠のように長く引き延ばされて感じられた。
聖は赤い痕のついた拳を開き、ほぼ直角にうなだれると、やがて消え入るような声で言った。
「血を……吸ってくれ」
ささやかな、蚊の鳴くような呟きに、ヴァンは禍々しい笑みを浮かべる。
「何だ?聞こえないな」
ためらっている時間はない。
聖はきっと顔を上げると、なりふり構わず口走った。
「俺の血なら、いくらでも吸えばいい。その代わりに由宇を助けてくれ。頼む」
ヴァンは腕組みをしながら聞いていたかと思うと、刃を含んだ怜悧な眼差しで言い放った。
「違うだろう?聖。教えてやったはずだぞ」
言われた意味が分からず、聖は首を傾げる。
焦りと困惑が滲む、途方に暮れた顔を見つめ、ヴァンは冷徹な声で告げる。
「『ヴァン様、俺の血を吸ってください』だ」
唐突な理解が頬をしたたか打った。
聖はまるでこのうえなく嫌らしい言葉を投げかけられたかのように、かっと顔を赤らめる。
ヴァンは酷薄なせせら笑いを浮かべたまま、じっと聖の一挙手一投足を凝視していた。
まだわずかに残っているプライドが、こんな奴にそんなことできるか、と喚き声をあげて抵抗する。
だが理性の声が『一刻を争う事態だ』と警告する。『こんなところで逡巡している場合ではないのだ』と。
そんな迷いや戸惑いを見透かしたように、ヴァンは背筋が寒くなるような言葉を投げかける。
「嫌なら取引をやめてもいいんだぞ?その代わり、あの男の肉体は、まず間違いなく致命的な損傷をこうむることになるがな」
「駄目だ!そんなこと!」
何を迷ってるんだ、俺は。聖は唇をかみ締めた。
(親友を助けることもできず裏切るような人間に、生きている資格なんかない!)
聖は覚悟を決めると、潔くヴァンの前にひざまずいた。
深くこうべを垂れ、硬く強張った唇を、かき集めた力を総動員して何とか動かす。
「俺の血を吸ってください。……ヴァン様」
それを聞いたヴァンは今まで見た中で一番凶悪に笑うと、低く言った。
「いい子だ」
そして聖を荒々しく壁に押しつけて肩に口づけ、思う存分に蹂躙した。
「んんっ……!」
血を吸われていたのはせいぜい十秒かそこらのことだったが、聖にとってその時間は目まいがするほど果てしなく長かった。
聖、お前がここまで面白い奴だったとは思わなかったぞ。さしずめ悪の姫君といったところか」
ヴァンは歌うような口調で軽やかに言い、ますます上機嫌になってゆく。
彼にとっては、こんな修羅場など取るに足らないことなのだろう。
まるで朝食後のティータイムのように平和で穏やかな顔をしている。
(くそっ……畜生っ!!!)
決断を迷う数秒が、永遠のように長く引き延ばされて感じられた。
聖は赤い痕のついた拳を開き、ほぼ直角にうなだれると、やがて消え入るような声で言った。
「血を……吸ってくれ」
ささやかな、蚊の鳴くような呟きに、ヴァンは禍々しい笑みを浮かべる。
「何だ?聞こえないな」
ためらっている時間はない。
聖はきっと顔を上げると、なりふり構わず口走った。
「俺の血なら、いくらでも吸えばいい。その代わりに由宇を助けてくれ。頼む」
ヴァンは腕組みをしながら聞いていたかと思うと、刃を含んだ怜悧な眼差しで言い放った。
「違うだろう?聖。教えてやったはずだぞ」
言われた意味が分からず、聖は首を傾げる。
焦りと困惑が滲む、途方に暮れた顔を見つめ、ヴァンは冷徹な声で告げる。
「『ヴァン様、俺の血を吸ってください』だ」
唐突な理解が頬をしたたか打った。
聖はまるでこのうえなく嫌らしい言葉を投げかけられたかのように、かっと顔を赤らめる。
ヴァンは酷薄なせせら笑いを浮かべたまま、じっと聖の一挙手一投足を凝視していた。
まだわずかに残っているプライドが、こんな奴にそんなことできるか、と喚き声をあげて抵抗する。
だが理性の声が『一刻を争う事態だ』と警告する。『こんなところで逡巡している場合ではないのだ』と。
そんな迷いや戸惑いを見透かしたように、ヴァンは背筋が寒くなるような言葉を投げかける。
「嫌なら取引をやめてもいいんだぞ?その代わり、あの男の肉体は、まず間違いなく致命的な損傷をこうむることになるがな」
「駄目だ!そんなこと!」
何を迷ってるんだ、俺は。聖は唇をかみ締めた。
(親友を助けることもできず裏切るような人間に、生きている資格なんかない!)
聖は覚悟を決めると、潔くヴァンの前にひざまずいた。
深くこうべを垂れ、硬く強張った唇を、かき集めた力を総動員して何とか動かす。
「俺の血を吸ってください。……ヴァン様」
それを聞いたヴァンは今まで見た中で一番凶悪に笑うと、低く言った。
「いい子だ」
そして聖を荒々しく壁に押しつけて肩に口づけ、思う存分に蹂躙した。
「んんっ……!」
血を吸われていたのはせいぜい十秒かそこらのことだったが、聖にとってその時間は目まいがするほど果てしなく長かった。
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