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聖はこぼれんばかりに目を見開き、慌てて鞄の中からスマホを取り出した。
おぼつかない手つきで操作し、由宇に電話をかける。延々と続く平坦なコール音がもどかしい。
十回呼び出し音が続いたあと、ぶつっという音と共に、無機質な電子音声が聞こえてきた。
『ただいま、電話に出ることができません。ピーッと鳴りましたら、お名前と、ご用件をお話しください』
「くそっ!」
聖は携帯を切ると鞄に放り込み、全速力で走り出した。全ての考えも悩みも頭から吹っ飛んでゆく。
ぐんぐんと凄まじい速さで周りの景色が流線型に遠ざかる。
「どっちだ!由宇はどこにいる!?」
「さあな。それより、あの下僕はお前の足のことを随分気遣っていたようだが、そんなふうに走ってもいいのか?」
ヴァンはわざとのように悠長に言った。
「そんなことはどうでもいい!由宇の場所を言えよ!」
「やれやれ。仕方のない奴だ。所有物は所有物らしく、大人しくしていればいいものを」
と、ヴァンは呆れたように言って聖の手を取った。
その途端ぐるん、と世界が反転したような感覚があって、気がついたら辺りの風景はがらりと一変していた。
「……んぐっ……!」
奇妙な浮遊感に胃がぐらぐらし、軽い吐き気を覚えた。
「どうした、真っ青だぞ?」
「うるさい……」
息も絶え絶えに言って、聖は額の汗をぬぐった。こんなところで気分を悪くしている場合ではない。
(由宇……何で由宇が……本当に?)
品行方正というわけではないにせよ、普段の由宇は喧嘩を売る不良でも買う馬鹿でもない。
ヴァンは嘘をついているのだろうか、とちらりと疑う。
だが、そうだとしても目的が分からない。それに、わざわざ親切にここまで連れてきてくれたことも気にかかる。
この冷酷無比な男が、何の目論見もなくそんなことをするとは思えない。
ともかく由宇を見つけ出さなければと思ったそのとき、
「調子に乗んな!」
野卑な怒号と、肉を殴りつける鈍い音が響き渡った。
聖は慄然として、音のした方へ走ってゆく。そして、死角となった物陰で棒立ちになった。
ちらりと覗いた通路の奥、凄惨な光景が広がっていた。
五、六人が輪になり、取り囲むようにして一人の人間を殴ったり蹴りつけたりして袋叩きにしている。
中心で腹を抱えてうずくまっているのは、何ということだろう、笹倉由宇その人だった。
(由宇!)
悲鳴はかすれた息だけになって喉をこする。聖は凍りついた。
男たちは抵抗すらできない由宇の髪を掴んで引っ張っては殴りつけ、蹴り上げ、靴底で指先を踏みにじり、執拗にいたぶっている。
それは周到で陰湿な集団での暴力だった。
おぼつかない手つきで操作し、由宇に電話をかける。延々と続く平坦なコール音がもどかしい。
十回呼び出し音が続いたあと、ぶつっという音と共に、無機質な電子音声が聞こえてきた。
『ただいま、電話に出ることができません。ピーッと鳴りましたら、お名前と、ご用件をお話しください』
「くそっ!」
聖は携帯を切ると鞄に放り込み、全速力で走り出した。全ての考えも悩みも頭から吹っ飛んでゆく。
ぐんぐんと凄まじい速さで周りの景色が流線型に遠ざかる。
「どっちだ!由宇はどこにいる!?」
「さあな。それより、あの下僕はお前の足のことを随分気遣っていたようだが、そんなふうに走ってもいいのか?」
ヴァンはわざとのように悠長に言った。
「そんなことはどうでもいい!由宇の場所を言えよ!」
「やれやれ。仕方のない奴だ。所有物は所有物らしく、大人しくしていればいいものを」
と、ヴァンは呆れたように言って聖の手を取った。
その途端ぐるん、と世界が反転したような感覚があって、気がついたら辺りの風景はがらりと一変していた。
「……んぐっ……!」
奇妙な浮遊感に胃がぐらぐらし、軽い吐き気を覚えた。
「どうした、真っ青だぞ?」
「うるさい……」
息も絶え絶えに言って、聖は額の汗をぬぐった。こんなところで気分を悪くしている場合ではない。
(由宇……何で由宇が……本当に?)
品行方正というわけではないにせよ、普段の由宇は喧嘩を売る不良でも買う馬鹿でもない。
ヴァンは嘘をついているのだろうか、とちらりと疑う。
だが、そうだとしても目的が分からない。それに、わざわざ親切にここまで連れてきてくれたことも気にかかる。
この冷酷無比な男が、何の目論見もなくそんなことをするとは思えない。
ともかく由宇を見つけ出さなければと思ったそのとき、
「調子に乗んな!」
野卑な怒号と、肉を殴りつける鈍い音が響き渡った。
聖は慄然として、音のした方へ走ってゆく。そして、死角となった物陰で棒立ちになった。
ちらりと覗いた通路の奥、凄惨な光景が広がっていた。
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中心で腹を抱えてうずくまっているのは、何ということだろう、笹倉由宇その人だった。
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悲鳴はかすれた息だけになって喉をこする。聖は凍りついた。
男たちは抵抗すらできない由宇の髪を掴んで引っ張っては殴りつけ、蹴り上げ、靴底で指先を踏みにじり、執拗にいたぶっている。
それは周到で陰湿な集団での暴力だった。
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