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帝国歴52年

策略

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 現代日本では普通の女子高生だった私、市綱いちずなエリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎スチームナイト、主人公機ロボのAIへ転生していた。

 さてVRでゴーレムを動かすロボット、「離騎ファーナイト」の試験運用により、選帝侯の一人であるストロベリー大司教の長女ヨーグルが、両足が動かなくなる程の重症を負った。

「このシステムの発案者は確かマグノリア、貴様であったな」

 帝国第一皇子、すなわち皇太子であるバルドルが責任を取れと詰め寄る、けど。
「元はと言えば功を焦った殿下の問題ではありませんか」

 名指しされたマグノリアはそう言い返し、取り付く島もない。

「なんだと!」

 バルドルは声を荒げるが、実はマグノリアの言い分にも一利ある。

 そもそも、今回教会側が強引な手段を用いてまで今回の試験運用を行う必要があったか、それは目の前のバルドルもその一因でもあった。
 彼女の婚約者でありストロベリー大司教の長女でもあるヨーグルは良く言えば控えめ、悪く言えば消極的な女性で、聖女候補と言われながらも次女のショーコに比べて実績が乏しい。
 離騎の実用化は、そんな彼女に活躍の場を与えよう、という意向もあったのだ。

「おやめ下さい殿下、彼女の言う通りですわ」

 それが分かってるからこそ、ヨーグル本人がバルドルを嗜める。
 動かなくなった両足を車椅子で動く姿は、たとえ自分ので見慣れていたとはいえ彼女の心情を考えるといたたまれない気分になる。

「ヨーグル……」
「きっとこれはわたくしに身の丈にあわないことをするな、と言う神の思し召しです」
「そんな悲しい事を言わないでくれ」

 バルドルが力無く言う。
 ともあれ、彼の怒りが収まった事で今回の件は一件落着、と思っていたのも束の間。


 数日後、今度は第三皇子のヴァーリと末っ子マーガレットの母親にあたる皇帝側室、リンダが行方不明になる

「兄上の仕業か!」

 そう言って第一皇子バルドルの部屋に駆け込んでくる第三皇子ヴァーリ。

「我が許嫁マギーへの恨みに対する仕返しか」
「いや違う、俺も心当たりがなく困ってる所だ」

 詰め寄るヴァーリに、バルドルも困惑気味だ。

「まあ待ったヴァーリ、そして兄上」

 第二皇子であるヴィザールが間に割って入る。

「仕返しにしてはお粗末だし、兄上も本当に心当たりがない様子。
 多分、これは罠だと思う」

 罠?

「冷静に考えてみてよ。
 皇子同士のいがみ合いなんて本来国益を損なう行為だけど、それで得をする者も出てくると思わないかい?」

 第二皇子ヴィザールはそう自論を述べる。

「国の混乱を喜ぶ輩……そうか旧共和国勢力か!」

 第一皇子バルドルが合点がいったと手を叩く。

 そう言えば私も以前商会のトップに、旧共和国の勢力に気をつけろとか言われてた気がするなあ。

「きっとヨーグル殿の事故も、旧共和国側が関わってるに違いありません」
「確かに、そう考えれば腑に落ちる。
 ……おのれ、旧共和国め!」

 ……うん?
 事故は事故じゃないかな、そこまで旧共和国側の所為にするのは無理筋なような。

 あっ、第二皇子が悪そうな笑みを浮かべた。やはり何かの策略か。

「思えばあの土地は前から帝国に不敬な、調子に乗っている様子が見受けられた。
 よし陛下に討伐の要請をしてくる」
「お待ち下さい兄上、まだ相手がそうと決まった訳では……」
「ええい止めるなヴァーリ!」

 そう言えば商会のボスは、もう一つ警戒しろって忠告してたような

「た、大変であります殿下!」

 そう言って金ピカの全身甲冑が部屋に飛び込んでくる。

「ええい、またギルか空気を読め!」

 この金ピカさんはどうも毎回、間の悪い所に飛び込んでくる。本人に罪はないんだけど。
 いや、今回に至っては良い仕事をしたのか?

「何事だ?」
「はっ、帝都沿岸で魔物の大量発生が起きたそうであります!」
「「「何だって!?」」」

 あ、そうだ思い出した。
 確か商会ボスの忠告で「辺境の村の魔物は人為的に発生した可能性が高い」だったっけ。
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