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帝国歴50年
魔法使い
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現代日本では普通の女子高生だった私、市綱エリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎、主人公機ロボのAIへ転生していた。
さてこのスチームパンクな世界であるゲームSGaLにおいて、魔力の存在はあるが魔術師は存在しない。
この世界に存在する魔石炭や魔石はその魔力エネルギーを動力に変換する、いわゆる燃料としての用途でほぼ使われていて、それをこの世界の主力技術である蒸気機関やゴーレムに組み込むのは技師の仕事だ。
杖を持った魔術士が呪文を詠唱してファイヤーボールで攻撃、などというのは私のいた前世もだけど、この世界でも絵空事である。
けれど帝国に唯一、その功績から「魔法使い」としての称号を皇帝から賜り存在を認められた者がいる。それが技師、スタンドアローン男爵。
彼は複数の魔石を並べた時、魔力残量の差異が生じる事に注目した。同じく歯車を動かしても、残量の多い魔石は早く、少ないものはゆっくり動くといった具合に。
そしてその魔力差を応用して、周囲の音を短い時間単位で区切り「保存」させる事を考えた。
そうして生み出されたのが魔石蓄音機であり、その偉大な発明により彼は「音の魔法使い」と呼ばれる様になった。
そして後にこれをデータの蓄積手段として天才技師イーヴァルディが応用、ゴーレムや私の様なAI技術が生み出されたという訳で。
「つまり我輩の技術は、ヴェスタの発明あってこそ。
その一点のみ、我輩は彼を尊敬するね」
「その一点のみってどういう事ですかね、エド」
エドワード・イーヴァルディ。
シルヴェスター・スタンドアローン。
それが天才技師と魔法使いのフルネームであった。
どうも二人は王宮幼児園時代からの幼馴染みであるらしい。なんか私の周り多いな幼馴染。
「モンちゃん、今のエドの発言どう思いました?」
魔法使いのヴェスタさんが左右の色が赤青と違うオッドアイの瞳でそう尋ねるけど……ええと、モンちゃんって私の事かな?
どうと言われても、この我輩技師が残念イケメンなのは疑いようもない事実ですが。
「誰が残念イケメンだよ。
うちの娘が生みの父に厳しい件について……」
「残念な不細工って言われるよりマシでしょう?
本当、彼って顔だけは良いんですけどねえ」
「馬鹿にするな!我輩、頭も良いわ」
「本当に頭の良い人は、自分で頭が良いなんて言わないんですよ?」
まるで漫才の様に仲良い会話のキャッチボールを行う二人の技師。
もう二人とも結婚してしまえ、男同士だけど。
「ところでヴェスタ、今日は何の用で来たのだ?
まさか多忙な魔法使い様が、うちの娘に会いに来ただけではあるまい」
「え、そのつもりですけど。
少なくともエド、今日はあなたに用はないですねえ」
「……」
あまりにもあっさり魔法使いがそういうもんだから、私の生みの親である我輩技師は絶句した。
「それよりエドこそ、こうして話をしてる余裕があるんですか?」
「ん、どういう事だ」
「宰相様から依頼された件の報告書が未提出なんでしょう?
早く出さないと、また研究予算を減らされますよ?」
「そ、それは困る!
モンステラ、ちょっとヴェスタの相手をしててくれ!」
そう言って自称頭の良い技師が退散する。おい残念イケメン、そういうとこだぞ?
「さーてモンちゃん?
エドが居なくなった所で魔法使いとして色々聞きたいのですが」
と魔法使いヴェスタ。
うーむ雰囲気からして、あまり楽しそうな話じゃなさそうだなあと思っていると、彼は机の上に見覚えのある製品を二つ取り出した。
一つは帝国第一皇女経由で貴族の子供に大人気のクマのゴーレムぬいぐるみ。
もう一つは、辺境の村救出作戦に使ったVRゴーグルと手袋もどき。
いやいや、ぬいぐるみはともかくVRもどきをどこから入手した!?
そしてこの二つを私の目の前に置いたという事は。
「このゴーレムぬいぐるみ、表向きは帝国第三皇子ヴァーリ殿下の婚約者、マグノリア様の考案という事になってるみたいですが大元の発案はモンちゃん、あなたですよね?」
ええっと、何故そう思いましたが魔法使い様?
「だってこんなものを作れる可能性なんて、二つしか考えられないですから」
と魔法使い。
「超天才か、元々似た様なものがあった世界からの転生者か」
いや待って、いま転生者って言った!?
「そう、私の本名は立花朔と言いまして、ゲーム世界外からの転生者です」
そう魔法使い、いや立花さんが私に自己紹介した。
「前世では音響関係のメーカーのエンジニアをやっていましてねえ。
ちなみにいま、魔石蓄音機に繋げるヘッドホンを開発中です」
電気機器のないこの世界で可能か、それ?
ああでも、飛行機のイヤホンとか昔チューブ式だった気がするし出来なくもないのか。
「それと、このVRもどきを入手した経緯ですけどね、いるんですよ。
転生者の一人が選帝侯の中に」
なな何ですと!?
「近いうちに接触を試みてくると思いますが、今は内緒という事で」
うわーめっちゃ気になるんですけど。
そして黒幕が選帝侯と踏んでる私の推理も、見直す必要があるのだろうか。
さてこのスチームパンクな世界であるゲームSGaLにおいて、魔力の存在はあるが魔術師は存在しない。
この世界に存在する魔石炭や魔石はその魔力エネルギーを動力に変換する、いわゆる燃料としての用途でほぼ使われていて、それをこの世界の主力技術である蒸気機関やゴーレムに組み込むのは技師の仕事だ。
杖を持った魔術士が呪文を詠唱してファイヤーボールで攻撃、などというのは私のいた前世もだけど、この世界でも絵空事である。
けれど帝国に唯一、その功績から「魔法使い」としての称号を皇帝から賜り存在を認められた者がいる。それが技師、スタンドアローン男爵。
彼は複数の魔石を並べた時、魔力残量の差異が生じる事に注目した。同じく歯車を動かしても、残量の多い魔石は早く、少ないものはゆっくり動くといった具合に。
そしてその魔力差を応用して、周囲の音を短い時間単位で区切り「保存」させる事を考えた。
そうして生み出されたのが魔石蓄音機であり、その偉大な発明により彼は「音の魔法使い」と呼ばれる様になった。
そして後にこれをデータの蓄積手段として天才技師イーヴァルディが応用、ゴーレムや私の様なAI技術が生み出されたという訳で。
「つまり我輩の技術は、ヴェスタの発明あってこそ。
その一点のみ、我輩は彼を尊敬するね」
「その一点のみってどういう事ですかね、エド」
エドワード・イーヴァルディ。
シルヴェスター・スタンドアローン。
それが天才技師と魔法使いのフルネームであった。
どうも二人は王宮幼児園時代からの幼馴染みであるらしい。なんか私の周り多いな幼馴染。
「モンちゃん、今のエドの発言どう思いました?」
魔法使いのヴェスタさんが左右の色が赤青と違うオッドアイの瞳でそう尋ねるけど……ええと、モンちゃんって私の事かな?
どうと言われても、この我輩技師が残念イケメンなのは疑いようもない事実ですが。
「誰が残念イケメンだよ。
うちの娘が生みの父に厳しい件について……」
「残念な不細工って言われるよりマシでしょう?
本当、彼って顔だけは良いんですけどねえ」
「馬鹿にするな!我輩、頭も良いわ」
「本当に頭の良い人は、自分で頭が良いなんて言わないんですよ?」
まるで漫才の様に仲良い会話のキャッチボールを行う二人の技師。
もう二人とも結婚してしまえ、男同士だけど。
「ところでヴェスタ、今日は何の用で来たのだ?
まさか多忙な魔法使い様が、うちの娘に会いに来ただけではあるまい」
「え、そのつもりですけど。
少なくともエド、今日はあなたに用はないですねえ」
「……」
あまりにもあっさり魔法使いがそういうもんだから、私の生みの親である我輩技師は絶句した。
「それよりエドこそ、こうして話をしてる余裕があるんですか?」
「ん、どういう事だ」
「宰相様から依頼された件の報告書が未提出なんでしょう?
早く出さないと、また研究予算を減らされますよ?」
「そ、それは困る!
モンステラ、ちょっとヴェスタの相手をしててくれ!」
そう言って自称頭の良い技師が退散する。おい残念イケメン、そういうとこだぞ?
「さーてモンちゃん?
エドが居なくなった所で魔法使いとして色々聞きたいのですが」
と魔法使いヴェスタ。
うーむ雰囲気からして、あまり楽しそうな話じゃなさそうだなあと思っていると、彼は机の上に見覚えのある製品を二つ取り出した。
一つは帝国第一皇女経由で貴族の子供に大人気のクマのゴーレムぬいぐるみ。
もう一つは、辺境の村救出作戦に使ったVRゴーグルと手袋もどき。
いやいや、ぬいぐるみはともかくVRもどきをどこから入手した!?
そしてこの二つを私の目の前に置いたという事は。
「このゴーレムぬいぐるみ、表向きは帝国第三皇子ヴァーリ殿下の婚約者、マグノリア様の考案という事になってるみたいですが大元の発案はモンちゃん、あなたですよね?」
ええっと、何故そう思いましたが魔法使い様?
「だってこんなものを作れる可能性なんて、二つしか考えられないですから」
と魔法使い。
「超天才か、元々似た様なものがあった世界からの転生者か」
いや待って、いま転生者って言った!?
「そう、私の本名は立花朔と言いまして、ゲーム世界外からの転生者です」
そう魔法使い、いや立花さんが私に自己紹介した。
「前世では音響関係のメーカーのエンジニアをやっていましてねえ。
ちなみにいま、魔石蓄音機に繋げるヘッドホンを開発中です」
電気機器のないこの世界で可能か、それ?
ああでも、飛行機のイヤホンとか昔チューブ式だった気がするし出来なくもないのか。
「それと、このVRもどきを入手した経緯ですけどね、いるんですよ。
転生者の一人が選帝侯の中に」
なな何ですと!?
「近いうちに接触を試みてくると思いますが、今は内緒という事で」
うわーめっちゃ気になるんですけど。
そして黒幕が選帝侯と踏んでる私の推理も、見直す必要があるのだろうか。
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