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兄弟闘争編
❖甘蕉と通訳と鶏頭
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アタワルパは慢心していた。
それが故の捕縛という不名誉な失態を犯した。
まだアタワルパが一介の将軍だった頃。士官してきた若者アトクと手合わせしたことがある。
その時は「素早いだけで弱い兵士」であり、当然部下としては使えないと判断し不採用にした。
その雑魚兵士が今回敵軍将軍になったと聞きアタワルパは自分一人でも十分、と有能で猛者の将軍たちの同行を断った。
その結果が、これである。
不様だな、とアタワルパはその場に座り込み頭を垂れる。
このまま自分は処刑されてしまうのだろうか、無駄に生き恥を晒すくらいならそれもアリか、と思い始めたその刹那。
「よっこい、しょっと」
囚われている石壁の部屋の、その壁の一部が外れたかと思うと、そこから少女の尻が生えてきて。
「おわああっ!」
と部屋の中にその少女が、背中から落下した。
「あ痛たたっ……もー、一介の通訳にさせる仕事じゃないっすよコレ」
何が起こったか分からず、その光景を呆然と見つめるアタワルパの前で、少女は鞄から黄色い皮がついた棒状の謎の食べ物の皮を剥いて、中の白い果肉をほおばった。
「ああこれ、甘蕉っす。
鶏冠様も食べるっすか?」
バナナの原産は東南アジアであるが、同じような熱帯地方である中南米でも西洋経由で持ち込まれ、栽培が始まっていた。
アタワルパにとっては初見の食べ物であり。
「いらん」
と首を横に振った。
「そうっすか、甘くて美味しいのに」
「というか、お前は何者だ。
ワシの事を知っているようだが」
「ああそうだ、自己紹介がまだだったっすね。
あっしはフィリピージョ。
トゥンベスの出身で、今はフランコ様の通訳をしてるっす」
トゥンベスは知っている、インカ帝国の北端の都市だ。
しかしフランコという名前は知らない。
眼の前のフィリピージョを名乗る少女は通訳と言ったが、とすると外国の……そうだ。
「そのフランコという男、もしやイスパニア国の者であるか?」
「ご明察!そのフランコ様の命で、鶏冠様を助けに来たっす」
もっとも現在フランコはイスパニアに出張中であり、救出を依頼したのは部下で片目眼帯のディエゴ・デ・アルマグロの方であったが。
「ここで試合終了はつまらないっすからね。鶏冠様にはもうひと働きしてもらわないと」
「イスパニア国が、ワシを支援してくれると?」
「ええそりゃもう、あの偽皇帝なんかより、貴方様がこの国を統治するのが適任と思ってるっす」
「そうだろう、そうだろう!」
アタワルパはフィリピージョの煽てにすっかり載せられていた。
噂通りの鶏頭だな、と彼女はほくそ笑む。
「ささ、そうと決まればここから逃げるっすよ」
「逃げる、って何処から?」
「そりゃ当然」
そう言ってフィリピージョは自分が通って来た穴を指差し、
「ここ以外にないでしょ」
「なっ、なにい!」
かくしてアタワルパは、狭い穴を泥だらけになりながら何とか、囚われの身から脱出に成功するのだった。
それだけでなく北都に戻ったアタワルパの元にイスパニアからの武器、数丁の銃と1門の大砲が届けられる。
それを見たアタワルパは今度こその勝利をと気合をいれるのだった。
「いいんすか、ディエゴ副官」
「何がだ、フィリピージョ」
通訳の少女フィリピージョの問いに答える、片目眼帯の副官ディエゴ。
「いや大事な武器を渡しちゃったじゃないですか」
「こっちの持ち数を考えたら微々たる数だ」
「そりゃそうっすけど副官、我が隊も裕福じないすからね」
「なあフィリピージョ、フランコが戻って来るまでに一方が勝つのは得策じゃない。
双方で出来る限り削り合ってくれないと」
「……そんなに怖いすか、あの仮面の皇妃に成りすましてる日本の姫様が」
皮肉混じりに通訳の少女、フィリピージョがそう言うが。
「……ああ、怖いな。
ああいう怖い物知らずなのが一番厄介だ」
本気で警戒した表情で、ディエゴがそう答えるのだった。
それが故の捕縛という不名誉な失態を犯した。
まだアタワルパが一介の将軍だった頃。士官してきた若者アトクと手合わせしたことがある。
その時は「素早いだけで弱い兵士」であり、当然部下としては使えないと判断し不採用にした。
その雑魚兵士が今回敵軍将軍になったと聞きアタワルパは自分一人でも十分、と有能で猛者の将軍たちの同行を断った。
その結果が、これである。
不様だな、とアタワルパはその場に座り込み頭を垂れる。
このまま自分は処刑されてしまうのだろうか、無駄に生き恥を晒すくらいならそれもアリか、と思い始めたその刹那。
「よっこい、しょっと」
囚われている石壁の部屋の、その壁の一部が外れたかと思うと、そこから少女の尻が生えてきて。
「おわああっ!」
と部屋の中にその少女が、背中から落下した。
「あ痛たたっ……もー、一介の通訳にさせる仕事じゃないっすよコレ」
何が起こったか分からず、その光景を呆然と見つめるアタワルパの前で、少女は鞄から黄色い皮がついた棒状の謎の食べ物の皮を剥いて、中の白い果肉をほおばった。
「ああこれ、甘蕉っす。
鶏冠様も食べるっすか?」
バナナの原産は東南アジアであるが、同じような熱帯地方である中南米でも西洋経由で持ち込まれ、栽培が始まっていた。
アタワルパにとっては初見の食べ物であり。
「いらん」
と首を横に振った。
「そうっすか、甘くて美味しいのに」
「というか、お前は何者だ。
ワシの事を知っているようだが」
「ああそうだ、自己紹介がまだだったっすね。
あっしはフィリピージョ。
トゥンベスの出身で、今はフランコ様の通訳をしてるっす」
トゥンベスは知っている、インカ帝国の北端の都市だ。
しかしフランコという名前は知らない。
眼の前のフィリピージョを名乗る少女は通訳と言ったが、とすると外国の……そうだ。
「そのフランコという男、もしやイスパニア国の者であるか?」
「ご明察!そのフランコ様の命で、鶏冠様を助けに来たっす」
もっとも現在フランコはイスパニアに出張中であり、救出を依頼したのは部下で片目眼帯のディエゴ・デ・アルマグロの方であったが。
「ここで試合終了はつまらないっすからね。鶏冠様にはもうひと働きしてもらわないと」
「イスパニア国が、ワシを支援してくれると?」
「ええそりゃもう、あの偽皇帝なんかより、貴方様がこの国を統治するのが適任と思ってるっす」
「そうだろう、そうだろう!」
アタワルパはフィリピージョの煽てにすっかり載せられていた。
噂通りの鶏頭だな、と彼女はほくそ笑む。
「ささ、そうと決まればここから逃げるっすよ」
「逃げる、って何処から?」
「そりゃ当然」
そう言ってフィリピージョは自分が通って来た穴を指差し、
「ここ以外にないでしょ」
「なっ、なにい!」
かくしてアタワルパは、狭い穴を泥だらけになりながら何とか、囚われの身から脱出に成功するのだった。
それだけでなく北都に戻ったアタワルパの元にイスパニアからの武器、数丁の銃と1門の大砲が届けられる。
それを見たアタワルパは今度こその勝利をと気合をいれるのだった。
「いいんすか、ディエゴ副官」
「何がだ、フィリピージョ」
通訳の少女フィリピージョの問いに答える、片目眼帯の副官ディエゴ。
「いや大事な武器を渡しちゃったじゃないですか」
「こっちの持ち数を考えたら微々たる数だ」
「そりゃそうっすけど副官、我が隊も裕福じないすからね」
「なあフィリピージョ、フランコが戻って来るまでに一方が勝つのは得策じゃない。
双方で出来る限り削り合ってくれないと」
「……そんなに怖いすか、あの仮面の皇妃に成りすましてる日本の姫様が」
皮肉混じりに通訳の少女、フィリピージョがそう言うが。
「……ああ、怖いな。
ああいう怖い物知らずなのが一番厄介だ」
本気で警戒した表情で、ディエゴがそう答えるのだった。
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