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60 信頼②
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◇◆◇
テラスでお茶を飲んでいた私と傍で給仕していたクウェンティンは、今では剣の稽古まで出来てしまえるようにまでなったアーロンを見ていた。
「そうね……サムには、本当に感謝しているわ」
あの時、サムは村に住んでいる息子夫婦の家に遊びに来ていて……本当に奇跡だったのだ。
「奥様がエタンセル伯爵夫人のような人であれば、彼も助けなかったと思います。奥様は旦那様が亡くなったと聞いても、キーブルグ侯爵家を支えねばと頑張っていらした。サムもそれは……ええ。奥様がどれだけ辛い状況に居ても使用人に当たるようなお方ではない事を知っていましたので」
私はその時、庭園に鋏を置き忘れたサムを怒ろうとしたお義母様のことを知っているような気がしたけれど……もう良いかと肩を竦めた。
あの時は本当に義母を恐れていたけれど、今では何も思わない。どうしてあんなにも恐れていたのかと、不思議に思って仕舞うほどだ。
「アーロンの命が助かったのだから、サムにはいくらでも支払って良いと思っているわ」
「ええ……本当に、あの怪我でここまで動けるようになる事は、奇跡的なことだったんですが……」
アーロンの怪我はかなり深刻だったようで、連れて行った医者が血相を変えて処置する事態になったのだけど、三ヶ月後には歩けるくらいにまで驚異的な速さで回復し、半年経てば日常の生活を送れるようになっていた。
アーロンはあの発言が、大体の国民も笑い話になっていると知っても特に気にせずに面白そうに笑っていた。
自分が死んだ事にしても自軍に有利に働く状況を作り出す人なのだから、妻と初夜を過ごさずに死んでしまうかもしれないと大怪我をした時に嘆いたって言われたって……きっと、どうでも良いのね。
「アーロンがそうしたいと言うのなら、きっと大丈夫でしょう」
私はまだ夫を怪我人扱いしている執事クウェンティンにそう言った。
「やけに信頼されているんですね。医者はまだ安静にしろと、この前に指示されておりましたが」
「……アーロンほど、信頼出来る人なんて居ないわ。貴方もそう思うでしょう?」
少々怒りっぽいところがあるのだって、彼の意志の強さを表していた。多くの軍人を纏めるのならば、舐められてはいけないと常に気を張っているところだって。
「……奥様。旦那様と結婚出来て、良かったでしょう? 結婚式後の一年間は大変でしたが」
無表情のままのクウェンティンは、これまでにそうは見せずにキーブルグ侯爵家に嫁いだ私が、アーロンと結婚したことについてどう思って居るか、気になってしまっていたに違いない。
クウェンティンにとってアーロンは自慢出来るほどにとても大事な主人なので、妻の希望を最優先にしろと指示されていたから、出会ったばかりの私の願いだってすべて叶えてくれた。
……今では何もかもが、理解出来る。
「ええ。とても幸せよ。アーロンと出会えて……結婚出来て、本当に良かったわ。彼以上の人なんて、どこにも居ないもの」
「それが聞けて……本当に安心しました。ただ、領地経営については無理なさらないでください。奥様」
クウェンティンは未だに私がキーブルグ家の領地経営を、夫の代わりに全部してしまっていることについて、あまり良く思っていない。
きっと他の貴婦人のように、お茶会や夜会に出て優雅に遊んで暮らせと言いたいのだろう。
「まあ……領地経営って、面白いのよ。改善して行けば上手くいくのも楽しいわ。クウェンティン。けれど、それもアーロンと結婚してから知ったわ。私、アーロンに見初められて、本当に幸運だったわね」
「そう言っていただけて、僕も旦那様にお仕えしている僕も良かったと思います……ですが、深夜まで執務されることについてはですね……僕も……なので……」
クウェンティンはキーブルグ侯爵の未亡人をしていた一年間の時のように説教を始めたけれど、あの時とは違って私は聞き流し、剣の稽古に汗を流す夫に目を向けた。
テラスでお茶を飲んでいた私と傍で給仕していたクウェンティンは、今では剣の稽古まで出来てしまえるようにまでなったアーロンを見ていた。
「そうね……サムには、本当に感謝しているわ」
あの時、サムは村に住んでいる息子夫婦の家に遊びに来ていて……本当に奇跡だったのだ。
「奥様がエタンセル伯爵夫人のような人であれば、彼も助けなかったと思います。奥様は旦那様が亡くなったと聞いても、キーブルグ侯爵家を支えねばと頑張っていらした。サムもそれは……ええ。奥様がどれだけ辛い状況に居ても使用人に当たるようなお方ではない事を知っていましたので」
私はその時、庭園に鋏を置き忘れたサムを怒ろうとしたお義母様のことを知っているような気がしたけれど……もう良いかと肩を竦めた。
あの時は本当に義母を恐れていたけれど、今では何も思わない。どうしてあんなにも恐れていたのかと、不思議に思って仕舞うほどだ。
「アーロンの命が助かったのだから、サムにはいくらでも支払って良いと思っているわ」
「ええ……本当に、あの怪我でここまで動けるようになる事は、奇跡的なことだったんですが……」
アーロンの怪我はかなり深刻だったようで、連れて行った医者が血相を変えて処置する事態になったのだけど、三ヶ月後には歩けるくらいにまで驚異的な速さで回復し、半年経てば日常の生活を送れるようになっていた。
アーロンはあの発言が、大体の国民も笑い話になっていると知っても特に気にせずに面白そうに笑っていた。
自分が死んだ事にしても自軍に有利に働く状況を作り出す人なのだから、妻と初夜を過ごさずに死んでしまうかもしれないと大怪我をした時に嘆いたって言われたって……きっと、どうでも良いのね。
「アーロンがそうしたいと言うのなら、きっと大丈夫でしょう」
私はまだ夫を怪我人扱いしている執事クウェンティンにそう言った。
「やけに信頼されているんですね。医者はまだ安静にしろと、この前に指示されておりましたが」
「……アーロンほど、信頼出来る人なんて居ないわ。貴方もそう思うでしょう?」
少々怒りっぽいところがあるのだって、彼の意志の強さを表していた。多くの軍人を纏めるのならば、舐められてはいけないと常に気を張っているところだって。
「……奥様。旦那様と結婚出来て、良かったでしょう? 結婚式後の一年間は大変でしたが」
無表情のままのクウェンティンは、これまでにそうは見せずにキーブルグ侯爵家に嫁いだ私が、アーロンと結婚したことについてどう思って居るか、気になってしまっていたに違いない。
クウェンティンにとってアーロンは自慢出来るほどにとても大事な主人なので、妻の希望を最優先にしろと指示されていたから、出会ったばかりの私の願いだってすべて叶えてくれた。
……今では何もかもが、理解出来る。
「ええ。とても幸せよ。アーロンと出会えて……結婚出来て、本当に良かったわ。彼以上の人なんて、どこにも居ないもの」
「それが聞けて……本当に安心しました。ただ、領地経営については無理なさらないでください。奥様」
クウェンティンは未だに私がキーブルグ家の領地経営を、夫の代わりに全部してしまっていることについて、あまり良く思っていない。
きっと他の貴婦人のように、お茶会や夜会に出て優雅に遊んで暮らせと言いたいのだろう。
「まあ……領地経営って、面白いのよ。改善して行けば上手くいくのも楽しいわ。クウェンティン。けれど、それもアーロンと結婚してから知ったわ。私、アーロンに見初められて、本当に幸運だったわね」
「そう言っていただけて、僕も旦那様にお仕えしている僕も良かったと思います……ですが、深夜まで執務されることについてはですね……僕も……なので……」
クウェンティンはキーブルグ侯爵の未亡人をしていた一年間の時のように説教を始めたけれど、あの時とは違って私は聞き流し、剣の稽古に汗を流す夫に目を向けた。
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