女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子

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01 気になる結末

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「あの女が俺に飲ませた惚れ薬を売った魔女が言うには、効果はひと月は続くそうだ。そして、効果をなくす方法は、ただひとつ。効果が切れるまでの時間が経つしかないと」

 王都騎士団屯所の団長室には、先ほど起こった信じ難い事態をどう対処すべきかと、難しい顔をした面々が揃っていた。

 本日、王都騎士団の面々は色好みと有名な未亡人に、午後の見回り中偶然出くわした。

 彼女を見るなり女嫌いなはずの団長が、とろっと蕩けた表情になり、意味ありげな笑みを浮かべ去っていく彼女に追いすがり、周囲の目もはばからずに待ってくれと追いかけそうになったのだ。

 うちのルドルフ団長の女嫌いで有名で、しかも彼が一番嫌いそうな、色気ムンムンな悪女にそんなことをするわけがない。

 どう考えても、何かに操られている。

 これは絶対おかしいと踏んだ周囲の部下何人かで、必死で追い縋る団長を取り押さえて、暴れ回る彼を屯所まで苦労して連れて帰ってきたのだ。

 正気に戻っての団長は、先ほどの自分の行動が信じられなかったのか、しばし呆然としていた。

 そうよね。当然のことだろうと思う。うん。惚れ薬を飲まされたことがないけど、何となく想像つく。

 あ。私は書類を届けに行くついでに、なんとなく団長の見回りにくっついて行っていた騎士団事務担当している新人ローラです。よろしくお願いします。

 ちなみに現在の状況は優秀な団員たちが総出で原因究明に乗り出し、あの未亡人が惚れ薬を買った魔女のお店までは判明しております。

「あの女……確か、王に言われて出席した昨夜の夜会でも居た。そうか……その前に給仕に渡されたワインを飲んで……その後ですれ違ったんだ。給仕は買収されていて……俺は薬を盛られたのかもしれない。失態だ」

「味では、気がつかなかったのか」

「……渋みのある年代物のワインだったんだ。迂闊だった」

 団長と副団長は、同時に大きなため息をついた。

 治安維持を受け持つ王都騎士団なので、王都にある怪しげな店も把握済だ。すぐに惚れ薬を売った魔女の店も特定されていた。私ももし将来怪しい店を持つ時は、騎士団へ平身低頭でいようと思う。

 悲しいかな欲深い人間は、清いものだけでは生きてはいけない。真っ黒は流石に取り締まるけどグレーな部分を保つため、決定的な違法行為があるまで泳がせているケースも多い。

 事務担当として王都騎士団に入団したばかりの私は、なんとなく流れで団長室へと入り澄ました顔で混じって「これは、すごい事になって来ました!」と、脳内では色めきだった多くの私の分身が手を叩いてはやし立て、お祭り騒ぎが始まっていた。

 どうなる。どうする。気になる結末。

 手に汗握る展開希望。女嫌いの騎士団長、一番嫌っている女に惚れ薬飲まされました事件!
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