女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子

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02 緊急事態

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 良くわからないけど、見回りに行っていた全員が集まっているし、私もそれとなく流れで着いてきた。けど、別に自分の仕事に戻れとも言われてないので、素知らぬ顔をして見守るしかない。

 多分、ここに居ることすら、緊急事態過ぎて気が付かれてないだけだけど。

「……どうしたもんかね。とにかく接触しなければ、大丈夫なんだろう? ひと月の間、ルドルフが遠方に逃げるというのは?」

 色っぽい未亡人と対面しなければ惚れ薬の効果が発動しないなら、物理的な距離を取ってはどうかというレギウス副団長のもっともな提案に、悲壮な顔をしたルドルフ団長は首を横に振った。

「駄目だ。こんな時に限って、王への年一度ある定例報告会が迫っている。団長の役職では、出席は逃れられん。王への報告も不可だ。立場上、惚れ薬を飲まされた不用意な俺が悪いで終わるだろう」

「あー……そうか。それは、確かにそうだな」

「ましてや、万が一逃亡先であの女と会ったらどうする? 王都であれば、周囲に見知った人もあり、俺の様子がおかしいと思う者も居て助けてくれるだろうが、それもなく女の言いなりになり、定期的に惚れ薬を飲まされ、良いように扱われるなど絶対にごめんだ」

 惚れ薬を飲まされた被害者、美々しい顔に苦悩の表情を浮かべているルドルフ団長は、王都を守る王都騎士団の団長である。

 三十路を迎えたばかりだけど、若くして王都騎士団の団長。

 私が何の変哲もないただの町娘の時から、王都に住む女性の憧れの存在だった。

 金髪碧眼で、容姿端麗。正統派の美形に、今まさに渋みが加わろうとしている絶妙なお年頃。見る人が見れば美味しそうな食べ頃の騎士団長である。

 こうした美形をジャッジする際には、異様に点が厳しくなるうら若い乙女の目で近くから見ても、欠点らしい欠点が見つからない。

 容姿が良い、役職も凄い、仕事だって出来る。けど、何故か独身。つい憧れてしまう存在だけど、きっとなんかあるわよ……と現実主義者の姉から口酸っぱくして、ルドルフ団長に憧れていた私は言われていた。

 そして、こうして部下として彼に近づくことになれば、団長が独身を続ける訳はすぐに判明した。

 ルドルフ団長は、極度の女嫌いだったのだ。

 その理由は騎士団内部にも知られてない。私も知りたいような、知りたくないような。いやでも、別に知らなくても特に問題ないなら、それでいっか。

「くそ。俺の飲んだ惚れ薬の効果はあの女と会った時に発揮されるだけなのだろうが、一時的にでも惚れているなど、絶対に嫌だ。そんな屈辱に耐えるくらいなら、いっそ死を選ぶ」

 ルドルフ団長は悲壮な表情で、腰に下げられた長剣の柄に手を掛けた。
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