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61 振り①
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目の前に、血飛沫が舞った。
その時の私は、何が起こったのか、本当にわからなかった。例えるならば、あっという間に黒い突風が部屋の中に吹き荒れた。
私は何度目かの悲鳴が聞こえたところで、これはとんでもないことになってしまったのかもしれないと思った。
目の前で何人も、呆気ないくらいに倒れて行く人たち。残念ながら、王族の一人である私を攫おうと企んでそれに失敗した時点で、彼らの行く先はこうなっていた。
ダムギュア王国側がこれをどこまで知っているのかはわからない。けれど、私はダムギュア王太子ルイ様とお茶をしている間に眠くなってしまった。
だとするならば、間違いなく彼がこの事態に関与していると思って間違いないだろう。
……彼は一体何を考えているのだろう。私を攫えばこうなることはわかっていたはずだ。それなのに。
私はそこに立ち尽くす黒い影を見て、ようやくその名前を呼んだ。
「……デューク!」
彼は黙ったままで、私の方へと振り向いた。血が散った顔の中にある昏い瞳と視線を合わせた。夜の闇よりも深く、何かを吸い込むような。
デュークは常に飄々とした態度を貫く、余裕ある彼ではなかった。私を認識しているのかも疑わしい。まるで、獲物を捕らえた飢えた肉食獣。喉を搔き切るその瞬間を待っているかのような、強い緊張感。
ああ。我を忘れてしまっている。どうして……まるで、デュークがデュークではなくなってしまったような……。
「私よ。もう敵は居なくなったわ……大丈夫。落ち着いて……」
デュークは私の元へと辿り付く、こてんと頭を寄せて目を閉じていた。
彼は誘拐した一味を倒してしまうまで、本能のみで動いていたようだ。死の危険が、今は去ったと思ったのかもしれない。
そして、私はどうしようかと思った。私の護衛騎士たちは、今は何をしているのかしら。もし、ルイ様は主犯だとすれば……彼らは今は殺されていてもおかしくはない。
王族が王族に手を出すなどと、宣戦布告に近しい。
「なるほど。あれで、殺されたんですね。我がダムギュアの数多くの兵士たちも」
私はその声が聞こえた方向を見た。そこに居たのは、ダムギュア王太子ルイ・ヴェルメリオ。やはり、私を誘拐しデュークをここに呼びだしたのは、彼だったようだ。
「……どうして。こんなことを?」
彼だってそうなるとわかっていてやったことだろうけれど、二国間で協議を重ねて時間をかけて築かれた友好関係は、もうこれで終わりだ。
国の利益を考えれば、今ダムギュア王国がユンカナン王国と事を構えて何の良い事もない。この前の戦争では大敗を期し、敗戦国として課せられた賠償金を支払わねばならないし、今では武力は圧倒的にユンカナン王国の方が勝っている。
しかも、次なる戦争は王族の私を害そうとしたことが発端となるならば、ユンカナン王国だって舐められた真似を許す訳にはいかない。
次は全面戦争になる可能性だってある。
そんな不利な状況にあると言うのに、ルイ様は私におっとりとした優しげな笑みを見せた。
その時の私は、何が起こったのか、本当にわからなかった。例えるならば、あっという間に黒い突風が部屋の中に吹き荒れた。
私は何度目かの悲鳴が聞こえたところで、これはとんでもないことになってしまったのかもしれないと思った。
目の前で何人も、呆気ないくらいに倒れて行く人たち。残念ながら、王族の一人である私を攫おうと企んでそれに失敗した時点で、彼らの行く先はこうなっていた。
ダムギュア王国側がこれをどこまで知っているのかはわからない。けれど、私はダムギュア王太子ルイ様とお茶をしている間に眠くなってしまった。
だとするならば、間違いなく彼がこの事態に関与していると思って間違いないだろう。
……彼は一体何を考えているのだろう。私を攫えばこうなることはわかっていたはずだ。それなのに。
私はそこに立ち尽くす黒い影を見て、ようやくその名前を呼んだ。
「……デューク!」
彼は黙ったままで、私の方へと振り向いた。血が散った顔の中にある昏い瞳と視線を合わせた。夜の闇よりも深く、何かを吸い込むような。
デュークは常に飄々とした態度を貫く、余裕ある彼ではなかった。私を認識しているのかも疑わしい。まるで、獲物を捕らえた飢えた肉食獣。喉を搔き切るその瞬間を待っているかのような、強い緊張感。
ああ。我を忘れてしまっている。どうして……まるで、デュークがデュークではなくなってしまったような……。
「私よ。もう敵は居なくなったわ……大丈夫。落ち着いて……」
デュークは私の元へと辿り付く、こてんと頭を寄せて目を閉じていた。
彼は誘拐した一味を倒してしまうまで、本能のみで動いていたようだ。死の危険が、今は去ったと思ったのかもしれない。
そして、私はどうしようかと思った。私の護衛騎士たちは、今は何をしているのかしら。もし、ルイ様は主犯だとすれば……彼らは今は殺されていてもおかしくはない。
王族が王族に手を出すなどと、宣戦布告に近しい。
「なるほど。あれで、殺されたんですね。我がダムギュアの数多くの兵士たちも」
私はその声が聞こえた方向を見た。そこに居たのは、ダムギュア王太子ルイ・ヴェルメリオ。やはり、私を誘拐しデュークをここに呼びだしたのは、彼だったようだ。
「……どうして。こんなことを?」
彼だってそうなるとわかっていてやったことだろうけれど、二国間で協議を重ねて時間をかけて築かれた友好関係は、もうこれで終わりだ。
国の利益を考えれば、今ダムギュア王国がユンカナン王国と事を構えて何の良い事もない。この前の戦争では大敗を期し、敗戦国として課せられた賠償金を支払わねばならないし、今では武力は圧倒的にユンカナン王国の方が勝っている。
しかも、次なる戦争は王族の私を害そうとしたことが発端となるならば、ユンカナン王国だって舐められた真似を許す訳にはいかない。
次は全面戦争になる可能性だってある。
そんな不利な状況にあると言うのに、ルイ様は私におっとりとした優しげな笑みを見せた。
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