重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
62 / 73

62 振り②

しおりを挟む
「ええ。そうですね。理由を知りたいでしょう。ですから、教えて差し上げましょう。そこの黒獅子に僕は親友を殺されたんですよ。身分はない騎士でしたが、僕にとってはかけがえのない存在で……ユンカナン王国に行った時に見て驚きました。強い強いと言われているのに、姿は痩せた長身の男だ」

「……戦争にはそういうことが付きものだと思うわ。それを言うならば、我が国に戦争を仕掛けなければ良かったのではないの? お父様を止めることは、貴方ならば出来たでしょうに!」

 結局のところ戦争というのは、戦闘員は使って両国の王族が戦っているのだ。ダムギュア王国が戦闘員を使って攻め込むのならば、我が国だって応戦せざるをえない。

「僕だって……僕だって、戦争は止めたさ! ユンカナンには獣人という化け物が居るんだから、手を出さない方が良いんだと! 父は何を言っても、聞かなかったんだ!」

 声を荒げて叫び出したルイ様を見て、私は今ある状況を冷静に考えていた。デュークさえ目覚めてくれれば、私がさっき香炉を投げ捨てた窓から飛び降りて貰えるはず。

「化け物ではないわ。失礼なことを言わないで。私にとっては、大事な自国民よ。けれど、別にその意識を正すつもりもないわ。だって、ダムギュアで起こることは、私の責任の範疇にはないもの」

「獣にその身を変えることが出来るなどと……結局のところ、獣の姿が本性なのだ。気味の悪い化け物だ」

 眉を顰めてそう言われても、彼とは違う教育を受けてきた私には、全くわかってあげられない気持ちだわ。

 あの興奮状態で我を忘れていたデュークに変貌してしまった理由が、私にはわからない。あのお香のせいであるならば、すっかり空気が入れ替わった今では効果はなくなってしまっているはず。

 けれど、別の理由であれば、すぐに意識を取り戻すことは難しいかもしれない。

 何かで話を引き延ばして、時間稼ぎが必要なのかしら。

「……私はこの国に残るから、私の護衛騎士たちとデュークを解放してちょうだい」

「なんだと?」

 ルイ様は私が何を言い出したのか、すぐに理解は出来なかったようだ。

「あら。以前にお会いした時に、私に結婚を申し込みに来たことを忘れたのかしら? つまり、婚約者候補として私の希望でダムギュア王国へ留まってあげるから、彼らを解放しろと言っているの」

 もちろん。ルイ様と結婚する気なんて、毛頭ないけれど、今この場をどうにかしようと思ったら、それしかない。

 私の身には利用価値がある。けれど、彼らはすぐに殺されてしまうかもしれない。

「アリエル姫の護衛騎士は確かに、全員捕らえている。近くの部屋に居る」

「……そう」

 やはり交渉道具にしようと命は助けていたらしい。私はほっとした。自分のせいで誰かが死んでしまったと思えば、あまり気持ちは良くないものだ。

「護衛騎士は、解放しても良いだろう。だが、黒獅子は駄目だ」

「あら。どうして?」

 私は内心とても焦った。実際のところ、私が自分の身を引き換えにしてでも、一番に逃がしたい人物がデュークなのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

処理中です...