ずっと傍にいる

こうやさい

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それから

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 ただ、二人で過ごした。
 彼女は結婚せず。
 僕もそれには触れず。

 彼女の時間ときは自然にすぎて、僕の時間ときもゆるゆるすぎた。
 それでも年の差みためは親子というには少し近すぎて、兄妹には見えず、夫婦と思われる事の方が多かった。

 旅は続けていて。
 長期にとどまる場合は説明したが、そこまででない時は、無理に訂正しなかった。
 説明する方がややこしくなりそうだし、と彼女はどこかいたずらっぽく微笑う。
 そうして僕をわざとらしく名前で呼ぶ。

 僕はそれを許容した。
 正直にいえば少し楽しかった。

 それでも、関係性はあくまで親子で。
 色めいたことはなにもなく。
 けれども心は満たされた。

 時にはそれを嫌悪した。

 離れた方がいいのか。
 離れない方がいいのか。

 彼女の呪いは解けたのか。
 それとも解けていないのか。

 結論が出ないまま時間は過ぎていく。

 そんな風に曖昧な態度でいたからが当たったのかもしれない。


 またあの病だった。
 よっぽど縁があるのだろうか? それともずいぶん長く生きて何度も彼女を育てている間に、片手に満たないほどしか関わらなかったのだから、むしろ縁遠いのだろうか?
 だだし、今度罹ったのは彼女ではなかった。

 どうやっても死なないし、ほとんど弱りもしなかったので未だ自分の体調管理はおざなりだった。
 それがなくなり、肉体も老化し始めているというのにそれでもいままで無事だった方がむしろおかしいのだろう。

 流れた時間では、その病を過去には出来なかった。ただ感染うつることだけは判明した。
 看病をしてくれようとする彼女にできる限り近寄らないように言う。
 過去にかかったとはいえ、それで死んで若返ったのだから、耐性などはないだろう。もしあっても結局死んでしまうのならば救いとはいえない。
 感染らないかもという楽観視もしづらい。

 それでも彼女が僕を見捨てていけるはずがなく、他に頼れる知り合いも近くにいない。
 本当にいろいろと遅すぎだ。

 今はまだ元気そうな彼女が、かつてこんな苦しみに襲われていたのかと思うと辛く。
 きっとこの後彼女も同じ苦しみに襲われて後を追うのだろうと思うともっと辛い。

 死んで、赤子に返ったとしてももう誰も迎えに来ない。

 慣れない状況のせいもあって思考がぐちゃぐちゃだ。
 幸せになって欲しいという思いはそれでもあるはずなのに。

 それを嬉しいと思ってしまった。
 歳を取ろうとも僕は何も変わっていない。

 僕が、僕だけがそうなった彼女を迎えに行ける存在だったことが、仄暗い独占欲を満たしてゆく。
 もう彼女を連れて行く者はいない。
 ……僕も傍にはいられないわけだが。

 やはりそれは赦されないことなのかもしれない。
 不意に、肉体からだから急激に力が抜け始める。

 ああ、終わりなんだ。

 来世は望めないと結論づけた。
 仮に魂は巡ろうとも、記憶はこれっきりだろう。

 本当の意味で前世の願いは叶えてあげられなかった。
 
 会いたかったのは再び別れるためじゃない。

 けれどもそちらに関しての心残りは驚くほどない。
 それよりも今後のことが気にかかる。

 僕がいなくなるのだから彼女も解き放たれていて欲しい。
 そう思うのも独占欲の一部だろうか?

 体の苦しみも、心の苦しみも遠のいていく。
 急変に気づいた彼女が慌てて駆け寄ってくる。

 そうして、僕に向けた言葉は――。
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