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北海道「無差別憑依」事件 Ⅳ
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石神からの要請があり、俺たち「アドヴェロス」もすぐに出動した。
「タイガーファング」が来てくれ、俺たちは専用の「ファブニール」である《ザンザス》ごと運んでもらった。
石神たちと連携するためには、共通の量子AIを積み込んだ《ザンザス》が必要だったからだ。
先ほど、石神から柏木さんを送って欲しいと言われた。
すぐに「タイガーファング」が来て柏木さんを乗せた。
どうやら、今回のライカンスロープはまだ人間の意識を残している者がいるらしい。
もしかしたら、元に戻せる可能性を石神は考えていた。
本当にそれが出来たらどんなに素晴らしいことか!
でも、これまでも石神と蓮花さんたちが散々研究し、試していたことだ。
石神の友の槙野さんを死なせてしまったことで、石神も必死にその方策を模索した。
しかし、失敗したと聞いている。
石神の嘆きは大きかった。
「早乙女さん! また集団が来ます!」
「分かった! 磯良、愛鈴! 頼む!」
「「はい!」」
青函トンネルは磯良と愛鈴に任せ、早霧たちは海上を飛んで来る連中を任せていた。
獅子丸は俺たちの傍にいて、もしもの場合の援護要員だ。
羽入と紅は逆に遊撃的に敵に対応していた。
青函トンネルが主力だったが、海上を飛んで来るライカンスロープも結構いた。
成瀬は「虎」の軍のデータとリンクして、本土へ向かってくる敵を把握していく。
大きく迂回するライカンスロープもいる可能性もあったが、石神はそれは別な部隊にやらせていると言った。
成瀬が端末を見ながら言った。
「早乙女さん、道内の状況はまだ混乱しているようです」
「そうか」
成瀬が見ている画面には、敵の数を示す多くの光点がまだまだ多い。
色分けされているのは、「憑依型」の妖魔とそれによって怪物化したライカンスロープのものだ。
「憑依型」の妖魔を示す赤の光点はまだ無数にある。
北海道の全域にそれは拡がっており、石神たちも奮戦しているはずだが、まだ犠牲者は増えそうだった。
通信が入った。
「どうした、羽入!」
「早乙女さん、俺たちの所へはほとんど敵が来ません!」
「そうか」
「俺たちも北海道へ渡らせて下さい!」
「なんだと!」
「紅が言ってます。現場はまだまだ人手が必要らしいって」
「それはそうだろうが」
「お願いします! 少しでも救える人間を!」
「……」
みんな同じ気持ちだ。
成瀬が通信を聞いていて俺に向かってうなずいた。
「分かった! 「虎」の軍に連絡して、お前たちも道内へ行ってくれ!」
「ありがとうございます!」
こっちは何とかなりそうだ。
羽入の言う通り、少しでも救える人間が増えればと思った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「業」様、状況は上手く行っています」
「業」様はお顔に笑顔を作られた。
今回は怪物化しても、しばらくは人間の意識を残すように「憑依」を調整しているものが大半だ。
そうすることで、石神たちは手をこまねき、より大きな被害を得られるはずだ。
数日もすれば妖魔が完全に乗っ取るのだが、甘い石神は保護を考えるかもしれない。
それに、即座に妖魔が意識を乗っ取る者も少数混ぜている。
きっと大混乱に陥るだろう。
ああ、笑いが止まらない。
しかし、「業」様が肩で大きく息をしている。
あの「業」様が疲弊しているとは!
「「業」様、もうお休み下さい」
「あと一手だ」
「でも、もう十分に」
「いや、あと二つゲートを開く。「神」と《地獄の悪魔》を送り出せ」
「二つもですか?」
「ああ、北海道には石神の足止めで「神」を送る。青森にはあの目障りな警察たちがいる」
「はい、でもあのような小者たちを」
「石神を苦しめるためだ。いいから準備しろ」
「はっ!」
ゲートを作るのは「業」様にとっても相当な御負担になる。
特に今回は無数のゲートを広範囲に作ったのだ。
そして最後に大型のゲートを作ると仰った。
この作戦は「業」様にとって重要なものなのだろう。
嫌がらせのようなものではあったが、確実に石神たちを苦しめている。
日本でこれほどの被害が出たのならば、「虎」の軍への信頼は大きく失墜する。
御堂と共に日本中から歓迎されている石神たちに、一矢を報いることになるだろう。
私は「業」様の御命令に従い、「神」と《地獄の悪魔》の召喚の準備をした。
石神は「神」を降すだろうが、その間に《地獄の悪魔》が警官たちを皆殺しにする。
《デモノイド》に手をあぐねていた奴らに、《地獄の悪魔》は斃せない。
見ていろ、石神。
お前の大事な者たちを皆殺しにしてやる。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺と紅は江別市に飛んだ。
紅に抱えてもらって移動する。
「羽入、作戦に大きな変更があった」
飛行中に紅が俺に言った。
「なんだ?」
「ライカンスロープの中に、まだ人間の意識を残している者が多いそうだ。そういう者は釧路に移送し、隔離することになった」
「そうなのか!」
敵の殲滅作戦ではなくなった。
でもそれは、俺にも喜ばしいことだった。
「じゃあ、元に戻せるってことか!」
「いや、それはまだ不明だ。これから研究して行くんだろう、でもきっと石神様ならば」
「そうなのか」
紅が言った。
「羽入、油断するな。時間が経過すれば本来のライカンスロープになる可能性が高い。それに擬態する連中もいるに違いない」
「ああ、分かった」
「いや、お前は甘い所がある。だから心配なんだ」
「大丈夫だよ。お前がちゃんと守ってくれるんだろう?」
「もちろんだ!」
二人で笑った。
数分後、俺たちは江別市に降りた。
江別市でも、「虎」の軍のソルジャーやデュールゲリエたちが戦闘を展開している。
だが、敵の数が多く、しかも散開しているのでなかなか進んでいない。
どこも同じ状況なのだろう。
俺と紅はすぐに「憑依型」の妖魔の索敵に入った。
紅が霊素観測レーダーからのデータを受け取って、敵の位置を探っていく。
俺は周囲の凶暴なライカンスロープを撃破しつつ、紅が指示する人間の意志を残した者をデュールゲリエに引き渡す。
「憑依型」の妖魔は結界を張る別な妖魔がいるらしく、発見は困難を極めた。
「羽入! 《ウラノス》が解析した! 結界内の「憑依型」も分かるようになったぞ!」
いい知らせだった。
俺たちはデータを受け取りながら、どんどん移動して「憑依型」の妖魔を狩って行った。
少し後で、また《ウラノス》が新たな解析を終え、人間の意識を残したライカンスロープも餞別出来るようになった。
紅が俺に指示を飛ばし、どんどん作業は進んで行った。
「紅、いい感じだな!」
「ああ、臨界ポイントも随分と伸びた!」
「そうか!」
俺たちは必死で狩りと撃破と収容を続けて行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「早乙女さん、視認撃破数は100%です!」
「おお、そうか!」
《ザンザス》の中で俺たちは喜んでいた。
磯良と愛鈴は青函トンネルを守り切り、早霧たちも広い範囲を防衛している。
早霧たちの移動はデュールゲリエが運んでいるので、高速で処理出来ている。
青森の霊素観測レーダーで、大きく迂回するライカンスロープが、石神の言う別な部隊が全て撃破していることが分かった。
「徐々に本土に渡るライカンスロープの数が減少してます」
「石神たちが頑張っているんだろう」
「ええ、でもまだまだ道内は相当数が残ってますよ」
「とにかく俺たちはここでの防衛だ。気を抜かずに頑張ろう」
戦闘が始まって既に2時間が経過している。
そろそろ交代で休憩をさせようと思った。
その時、成瀬が叫んだ。
「霊素観測レーダーに大きな反応! ゲートが開きます!」
「なに!」
「北海道で展開したものとは全然違います! 大きな妖魔が来るかも!」
「全員を呼び戻せ! 羽入と紅もだ!」
「はい!」
俺の後ろで控えていた十河さんが俺の肩に手を置いた。
「早乙女さん、いよいよ私の出番ですかね」
何の気負いも無かった。
十河さんはいつでも、自分が出るつもりだったのだ。
「はい、その時には宜しくお願いします」
「分かりました」
俺は前に向き直った。
情けなくも、涙が零れそうになったのだ。
十河さんをまだ死なせたくない。
俺はそのために全力を傾けるつもりだった。
「タイガーファング」が来てくれ、俺たちは専用の「ファブニール」である《ザンザス》ごと運んでもらった。
石神たちと連携するためには、共通の量子AIを積み込んだ《ザンザス》が必要だったからだ。
先ほど、石神から柏木さんを送って欲しいと言われた。
すぐに「タイガーファング」が来て柏木さんを乗せた。
どうやら、今回のライカンスロープはまだ人間の意識を残している者がいるらしい。
もしかしたら、元に戻せる可能性を石神は考えていた。
本当にそれが出来たらどんなに素晴らしいことか!
でも、これまでも石神と蓮花さんたちが散々研究し、試していたことだ。
石神の友の槙野さんを死なせてしまったことで、石神も必死にその方策を模索した。
しかし、失敗したと聞いている。
石神の嘆きは大きかった。
「早乙女さん! また集団が来ます!」
「分かった! 磯良、愛鈴! 頼む!」
「「はい!」」
青函トンネルは磯良と愛鈴に任せ、早霧たちは海上を飛んで来る連中を任せていた。
獅子丸は俺たちの傍にいて、もしもの場合の援護要員だ。
羽入と紅は逆に遊撃的に敵に対応していた。
青函トンネルが主力だったが、海上を飛んで来るライカンスロープも結構いた。
成瀬は「虎」の軍のデータとリンクして、本土へ向かってくる敵を把握していく。
大きく迂回するライカンスロープもいる可能性もあったが、石神はそれは別な部隊にやらせていると言った。
成瀬が端末を見ながら言った。
「早乙女さん、道内の状況はまだ混乱しているようです」
「そうか」
成瀬が見ている画面には、敵の数を示す多くの光点がまだまだ多い。
色分けされているのは、「憑依型」の妖魔とそれによって怪物化したライカンスロープのものだ。
「憑依型」の妖魔を示す赤の光点はまだ無数にある。
北海道の全域にそれは拡がっており、石神たちも奮戦しているはずだが、まだ犠牲者は増えそうだった。
通信が入った。
「どうした、羽入!」
「早乙女さん、俺たちの所へはほとんど敵が来ません!」
「そうか」
「俺たちも北海道へ渡らせて下さい!」
「なんだと!」
「紅が言ってます。現場はまだまだ人手が必要らしいって」
「それはそうだろうが」
「お願いします! 少しでも救える人間を!」
「……」
みんな同じ気持ちだ。
成瀬が通信を聞いていて俺に向かってうなずいた。
「分かった! 「虎」の軍に連絡して、お前たちも道内へ行ってくれ!」
「ありがとうございます!」
こっちは何とかなりそうだ。
羽入の言う通り、少しでも救える人間が増えればと思った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「業」様、状況は上手く行っています」
「業」様はお顔に笑顔を作られた。
今回は怪物化しても、しばらくは人間の意識を残すように「憑依」を調整しているものが大半だ。
そうすることで、石神たちは手をこまねき、より大きな被害を得られるはずだ。
数日もすれば妖魔が完全に乗っ取るのだが、甘い石神は保護を考えるかもしれない。
それに、即座に妖魔が意識を乗っ取る者も少数混ぜている。
きっと大混乱に陥るだろう。
ああ、笑いが止まらない。
しかし、「業」様が肩で大きく息をしている。
あの「業」様が疲弊しているとは!
「「業」様、もうお休み下さい」
「あと一手だ」
「でも、もう十分に」
「いや、あと二つゲートを開く。「神」と《地獄の悪魔》を送り出せ」
「二つもですか?」
「ああ、北海道には石神の足止めで「神」を送る。青森にはあの目障りな警察たちがいる」
「はい、でもあのような小者たちを」
「石神を苦しめるためだ。いいから準備しろ」
「はっ!」
ゲートを作るのは「業」様にとっても相当な御負担になる。
特に今回は無数のゲートを広範囲に作ったのだ。
そして最後に大型のゲートを作ると仰った。
この作戦は「業」様にとって重要なものなのだろう。
嫌がらせのようなものではあったが、確実に石神たちを苦しめている。
日本でこれほどの被害が出たのならば、「虎」の軍への信頼は大きく失墜する。
御堂と共に日本中から歓迎されている石神たちに、一矢を報いることになるだろう。
私は「業」様の御命令に従い、「神」と《地獄の悪魔》の召喚の準備をした。
石神は「神」を降すだろうが、その間に《地獄の悪魔》が警官たちを皆殺しにする。
《デモノイド》に手をあぐねていた奴らに、《地獄の悪魔》は斃せない。
見ていろ、石神。
お前の大事な者たちを皆殺しにしてやる。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺と紅は江別市に飛んだ。
紅に抱えてもらって移動する。
「羽入、作戦に大きな変更があった」
飛行中に紅が俺に言った。
「なんだ?」
「ライカンスロープの中に、まだ人間の意識を残している者が多いそうだ。そういう者は釧路に移送し、隔離することになった」
「そうなのか!」
敵の殲滅作戦ではなくなった。
でもそれは、俺にも喜ばしいことだった。
「じゃあ、元に戻せるってことか!」
「いや、それはまだ不明だ。これから研究して行くんだろう、でもきっと石神様ならば」
「そうなのか」
紅が言った。
「羽入、油断するな。時間が経過すれば本来のライカンスロープになる可能性が高い。それに擬態する連中もいるに違いない」
「ああ、分かった」
「いや、お前は甘い所がある。だから心配なんだ」
「大丈夫だよ。お前がちゃんと守ってくれるんだろう?」
「もちろんだ!」
二人で笑った。
数分後、俺たちは江別市に降りた。
江別市でも、「虎」の軍のソルジャーやデュールゲリエたちが戦闘を展開している。
だが、敵の数が多く、しかも散開しているのでなかなか進んでいない。
どこも同じ状況なのだろう。
俺と紅はすぐに「憑依型」の妖魔の索敵に入った。
紅が霊素観測レーダーからのデータを受け取って、敵の位置を探っていく。
俺は周囲の凶暴なライカンスロープを撃破しつつ、紅が指示する人間の意志を残した者をデュールゲリエに引き渡す。
「憑依型」の妖魔は結界を張る別な妖魔がいるらしく、発見は困難を極めた。
「羽入! 《ウラノス》が解析した! 結界内の「憑依型」も分かるようになったぞ!」
いい知らせだった。
俺たちはデータを受け取りながら、どんどん移動して「憑依型」の妖魔を狩って行った。
少し後で、また《ウラノス》が新たな解析を終え、人間の意識を残したライカンスロープも餞別出来るようになった。
紅が俺に指示を飛ばし、どんどん作業は進んで行った。
「紅、いい感じだな!」
「ああ、臨界ポイントも随分と伸びた!」
「そうか!」
俺たちは必死で狩りと撃破と収容を続けて行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「早乙女さん、視認撃破数は100%です!」
「おお、そうか!」
《ザンザス》の中で俺たちは喜んでいた。
磯良と愛鈴は青函トンネルを守り切り、早霧たちも広い範囲を防衛している。
早霧たちの移動はデュールゲリエが運んでいるので、高速で処理出来ている。
青森の霊素観測レーダーで、大きく迂回するライカンスロープが、石神の言う別な部隊が全て撃破していることが分かった。
「徐々に本土に渡るライカンスロープの数が減少してます」
「石神たちが頑張っているんだろう」
「ええ、でもまだまだ道内は相当数が残ってますよ」
「とにかく俺たちはここでの防衛だ。気を抜かずに頑張ろう」
戦闘が始まって既に2時間が経過している。
そろそろ交代で休憩をさせようと思った。
その時、成瀬が叫んだ。
「霊素観測レーダーに大きな反応! ゲートが開きます!」
「なに!」
「北海道で展開したものとは全然違います! 大きな妖魔が来るかも!」
「全員を呼び戻せ! 羽入と紅もだ!」
「はい!」
俺の後ろで控えていた十河さんが俺の肩に手を置いた。
「早乙女さん、いよいよ私の出番ですかね」
何の気負いも無かった。
十河さんはいつでも、自分が出るつもりだったのだ。
「はい、その時には宜しくお願いします」
「分かりました」
俺は前に向き直った。
情けなくも、涙が零れそうになったのだ。
十河さんをまだ死なせたくない。
俺はそのために全力を傾けるつもりだった。
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