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千石と石神家本家 Ⅵ

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 鍛錬のために、みんなで山に走って登る。
 今日は千石も自分の足で走った。
 大丈夫かとは聞かなかった。
 当然、辛いに決まっている。
 今日は昨日までいなかった、若い連中も10人程一緒にいた。
 女の子も二人いた。

 山頂で、また虎白さんが千石に奥義を教えて行く。
 俺は8人の剣士と一緒にやった。
 新たな若い連中は、年配の剣士が指導している。
 次の剣士の候補なのだろう。

 昼食になり、みんなで握り飯と天ぷらを食べた。
 双子も今日はそれほど喰わない。

 午後の鍛錬を始める前に、虎白さんが千石を呼んだ。

 「千石!」
 「はい!」
 「この連中に、お前の力を見せてくれ」
 「はい?」
 「お前が会得した奥義を教えてやってくれよ」
 「はい! 分かりました!」

 千石が嬉しそうな顔をし、若い連中を自分の前に半円形に並ばせた。

 「目を閉じろ! 闇夜の満月を頭に思い浮かべろ!」

 千石が舞のような動きをし、一人ずつに両手で何かを打ち込む動作をした。
 全員にそれをし、千石が目を開けさせた。

 「虎白さん、終わりました」
 「おし!」

 虎白さんたちが一人ずつ連れて行き、奥義をやらせた。

 「あ! 出来ます!」
 「なんですか、これ!」

 若い連中が驚いていた。
 教えていた剣士たちも驚いている。

 「おい、高虎。こいつはすげぇな」
 「そうでしょう。アラスカでも、千石のお陰でソルジャーがどんどん増えてますよ」
 「おう。これで剣士は80人を超えたな」
 「そんなにですか!」
 
 今ここにいない剣士もいるらしい。
 その半分は入院中だが。
 今回は千石の能力もあったが、虎白さんたちが頑張って鍛え上げているのだ。
 
 「石神家の歴史の中で、こんだけ剣士が増えたことはねぇよ」
 「ありがとうございます!」

 俺のためにやってくれているのだ。
 でも、それはお互いに口には出さない。

 「でも、石神家ってこんなに大勢いたんですね」
 
 虎白さんが笑った。

 「まあな。でもみんなどんどん死ぬからよ。みんな子沢山だぜ。次の世代がいなくなっちまうからな」
 「そうなんですか」

 「ここだけの話な。女房以外にも女がいる奴も多いぜ」
 「へぇー」
 「虎影もよ、もしかすっと他にも生ませてるかもだぜ」
 「そうなんですかね」

 俺も笑った。
 もしそうだったら、きっと楽しい。
 俺の兄弟がいるのかと思うと、嬉しかった。
 まあ、そういうことも無いだろうが。

 「聖なんて、もしかしたら」
 「ああ、あれは違うよ」

 虎白さんが即座に否定した。
 まあ、俺も冗談のつもりだったのだが。

 「じゃあ、千石とか」
 「あー、あれは旧い時代に石神家の血が入ったのかもな」
 「え、そうなんですか?」
 「千石家はとにかく強い人間を生み出すことに傾注していたからな。石神家の血を求めた奴がいたのかもしれねぇ」
 「なるほどー」

 じゃあ聖もそうなんじゃと聞いたが、虎白さんは何も言ってくれなかった。

 昼食を食べて、双子も本調子になって来た。
 お互いに組み手を始めた。
 剣士たちが笑いながら見ていたが、段々と本格的に遣り合う双子を見て歓声を挙げ始めた。

 「高虎、ちょっと俺に付き合え」
 「はい!」

 俺と虎白さんが始めると、剣士たちが俺たちを見るようになった。
 虎白さんの剣は流石に段違いに鋭く重い。
 他の剣士とは次元が違う。

 「おい! 黒笛だ!」

 剣士が俺と虎白さんに「黒笛」を投げた。
 瞬時に互いに抜き、「黒笛」で遣り合った。

 千変万化する刀身で、互いに斬り合う。

 「高虎! お前随分と強くなったな!」
 「当主ですからぁー!」

 虎白さんが大笑いし、「黒笛」を数百の刀身にして俺に振り下ろした。
 俺は「黒笛」から無数の黒い球体を生み出して、虎白さんの刀身にぶつけた。
 虎白さんの刀身が次々に消滅していく。

 「おい、そんなことも出来んのかよ!」
 「ガハハハハハハ! 当主の力だぁー!」

 虎白さんが瞬時に俺の技を真似て繰り出した。

 「ちょっとぉー! それは洒落にならない威力があるんですよー!」
 「てめぇ! そんな技を俺に向けたのかぁー!」

 必死で相殺し、事なきを得た。
 俺は刀身に向けたのだが。
 まったく加減を知らない人たちだ。
 ふぅー。

 3時になり、俺たちはそろそろ帰る。
 虎白さんと数人の剣士が俺たちと一緒に山を降りた。
 
 虎白さんの家から荷物を運び出し、また山へ登ろうとすると、虎白さんが千石に刀を渡した。

 「千石、これを持って行け」
 「はい、ありがとうございます!」
 「虎白さん! それは「黒笛」じゃないですか!」
 「なんだよ、文句あるのか?」
 「当たり前ですよ! それは一部の人間しか渡してないんですからね!」
 「こいつも一部の人間でいいじゃねぇか」
 「そんな!」

 「黒笛」はあまりにも危険だ。
 だから俺が信頼する人間にしか渡していない。

 「千石が持っててもいいだろうよ」
 「それは、まあ」

 千石を信頼していないわけではないが。
 
 「千石。この刀の能力は分かったな?」
 「はい。通常の刀と違いますね」
 「「大黒丸」というでかい妖魔が作ったようだ。その妖魔の力がこもってる」
 「はい」
 「多分な、自分のイマジネーションが作用する」
 
 「虎白さんが英語!」
 「うるせぇ!」

 頭を殴られた。

 「千石、俺が石神家ともう一人にだけしか渡してねぇもんだ」
 「はい、石神さん」
 「まあ、お前なら使いこなせるだろうよ」
 「はい! 大切にします!」
 
 後ろから尻を蹴られた。

 「ばかやろう! 俺が千石にやったんだぁ!」
 「すみません!」

 双子が大笑いしていた。

 山に登ると、「タイガーファング」が到着していた。

 「虎白さん! みなさん! お世話になりました!」
 
 みんなが笑って「頑張れ」というようなことを言っていた。

 「おい、いつでも来いよ。また鍛えてやる」
 「はい! 虎白さんのお陰で俺は生まれ変わりました」

 「高虎、お前もなんか言え」
 「はい! みなさん、お世話になりました!」

 虎白さんが叫んだ。

 「整列!」

 剣士たちが虎白さんの後ろに並んだ。

 「当主に礼!」

 全員が深々と頭を下げた。

 「え? えぇー!」

 虎白さんが笑っていた。

 「高虎、いつでも来い!」
 「は、はい!」
 「俺たちはお前のために何でもやる! いいか、何でもだぞ!」
 「はい! お願いします!」

 訳が分からなかった。
 だが、俺たちが「タイガーファング」に乗り込んで出発するまで、剣士たちは整列していた。
 機内のスクリーンでずっと見ていた。

 「タカさん、なんだろうね?」
 「分かんねー」

 千石が気を喪い、ルーとハーが慌てて「手かざし」をした。
 アラスカに着いて、そのまま「虎病院」へ直行した。

 千石は仕上がった。
 予想以上にだ。

 三日後、俺たちはロシアで作戦行動に移る。





 千石が安らかな顔で眠っていた。
 俺と双子は一旦日本へ帰った。

 双子は夕飯を食べるとすぐに眠った。
 二人の寝顔も安らかだった。
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