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夢の新車 《疾風怒濤篇》 Ⅱ

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 双子がカスタムカーの専門業者を買収し、その伝手のボディの製造業者も確保した。
 これで好きなデザインのボディを作ることができ、それで車体を組み立てられる。
 ボディはグラスファイバーでもアルミ合金でも鋼板でも自由に加工できる。
 タカさんの専用カーのための会社なので、時間も自由だ。

 私は早速タカさんに相談した。
 食事の後でコーヒーを飲んでいるタイミングだ。
 他の人間はいない。
 私が話すので、席を外している。
 デザイン画を入れた函をタカさんの前に持って行く。

 「あんだこりゃ?」
 「タカさん! 自由にカスタムカーが出来るんですよ!」
 「へぇー」
 「世界で一台だけの車が持てるんですって!」
 「そうなの?」

 アレ?
 あんまし乗ってこないぞ?

 「タカさん、そういうの欲しいですよね?」
 「まー、ブガッティには断られたしなー」
 「あんなの! もっと凄いのが出来ますって!」
 「そう?」

 「とにかく見て下さいよ!」

 タカさんに、皇紀のデザイン画を見せた。

 「おぉー! カッチョイイな!」
 「ですよね!」
 「これもいいな! おお、こっちもなかなか!」
 「タカさんならどれがいいです?」
 「うーん、迷うなー」

 タカさんが嬉しそうに乗って来た!

 「これなんかはさ、もうちょっと座席の部分をこうしてだな」
 「なるほど!」

 タカさんが鉛筆で手を入れ始めた。
 いいぞー!

 「これなんかも、これじゃホイールが上下するとボディにぶつかるだろ? だからもうちょっと空間を開けて……」
 「そうですね!」
 「こっちは座席の空間がもっと欲しいな。だからさ……」
 「はいはい!」

 タカさんが夢中で鉛筆を走らせた。
 私は脇で別な鉛筆を削って用意していく。
 そのうち、皇紀たちも来た。

 「なにやってるのー?」
 「今ね! タカさんがデザインに手を入れてるの!」
 「へぇ!」

 みんなで集まって、素敵だのカッコイイだのと褒め称える。

 「そうか?」
 「スゴイですよ! これなんて本当に見てみたいですよね!」
 「やっぱ、それがいいか、皇紀!」
 「はい! 最高です!」
 「そうだよなー! これがいいよなー!」
 「これ、作りましょうよ!」
 「えぇ?」

 タカさんがニコニコして皇紀に向く。

 「ルーとハーが、カスタムカーの会社を買収してるんですよ!」
 「おい、そうなのかよ!」
 「うん! 今後みんなの車を改造できるようにって思って!」
 「お前ら、最高だな!」
 「ボディのデザインも、シャーシに取りつけも全部やりますよ?」
 「なんだよ! でも、肝心のエンジンがなー」
 「それ、ファブニールとかのが使えるじゃないですか?」
 「あれか!」
 「はい! 出力はどうにでも調整できますし。「ヴォイド機関」で給油いらずですし」
 「そうだな! でも、公道の許可はどうすっかな」
 「御堂さん!」
 「おい! そんな私的なことで!」
 「いいじゃないですか! 「虎」の軍の最高司令官が乗るんですよ!」
 「亜紀ちゃん、お前、いいこと言うな!」
 「はい!」
 「俺、ちょっと偉いんだよな!」
 「そうですよ!」

 タカさんに、後のことは私たちに任せて下さいと言った。
 タカさんは大喜びで頼むと言った。

 皇紀がすぐにカスタムカーの会社に連絡し、仕様を伝えた。
 内装や追加の仕様はタカさんと話し合って決めて行った。

 私と柳さんは御堂さんに連絡し、陸運局の方を根回しした。
 タカさんの個人的なものではあったが、御堂さんは快く了承し、尽力してくれた。
 大渕さんも一緒に喜んでやってくれた。

 ルーとハーは「ヴォイド機関」と高出力モーターのセッティグを皇紀の代わりにやってくれた。
 一般の業者では扱えない部分だからだ。

 段取り良くスムーズに進み、約一か月後には富士スピードウェイを借り切ってのテスト走行にこぎつけた。




 「ほんとにもう出来ちゃったのかよ!」
 「タカさん! もうすぐトレーラーで運ばれますから!」
 「マジか!」

 タカさんが大喜びだ。
 大勢呼んでお披露目しようと言ったのだが、タカさんが言った。

 「お前たちが用意してくれたんだ。最初は家族だけで祝おうぜ」
 「「「「「タカさん!」」」」」

 ステーキと焼肉の屋台をケータリングした。
 20キロずつ肉を用意する。
 みんなでワイワイ食べながら待った。

 時間通りにトレーラーが来て、タカさんの専用マシン「タイガー・ウルティマ」が到着した。
 ゆっくりと地面に降ろされる。

 「カッコイイな!」

 タカさんが感動した。

 外観は「マクラーレン・アルティメット・ビジョン・グランツーリスモ」をもうちょっと操縦席を拡げた感じだ。
 それに後部には最高出力4万馬力の超弩級モーターと「ヴォイド機関」が積載されたスペースがある。
 前面の大きく開いたエアインテークが特徴的だ。

 「最初はタカさんお一人でどうぞ!」
 「そうか?」

 タカさんがニコニコしてドライバーズ・シートに乗った。
 ガルウィングのドアだ。

 「おお! 注文通りのコンソールだな!」

 タカさんが大喜びだ。
 カスタムカーの会社の人がタカさんに説明する。

 「モーターカーなのでクラッチはありませんから」
 「ああ、分かってる」
 「タイヤやブレーキは、まだ改善の余地があるので、今日はあまり飛ばさないで下さい」
 「分かった!」

 タカさんが待ちきれない感じだ。
 私が、まずは走ってもらおうと言った。

 「くれぐれも無理はしないで下さいね! 最高時速は論理的に800キロ以上ですけど、そこまでは車体がもちませんから!」
 
 タカさんは親指を上に上げて分かったと合図した。
 エンジンを掛けてゆっくりとコースにはいる。
 インカムを使っているので、私たちは無線機の前に集まった。

 「おお! いい感じだぞ!」

 タカさんの声が聞こえた。

 「モーターだから随分と静かだな!」

 コースを回り始める。
 最初は時速80キロ程度だ。

 「おい! スムーズだぞ!」

 みんなで喜んだ。
 
 「余裕があるな! もう少し出すぞ」
 「無理はダメですよ!」
 「ああ!」

 タカさんが時速150キロくらいで走る。
 タカさんは運転が上手いので、コースを楽々と周っている。
 皇紀がドローンを飛ばし、空中から撮影を始めた。
 コース全体が見渡せ、タカさんの走りをみんなで画面で観る。

 「いいぞ! カーブも楽勝だ!」

 車が直線に入った。

 「ちょっと踏み込むぞ!」

 タカさんの声が聞こえ、私たちの前を物凄いスピードで走り抜けた。

 「今ので時速500キロだ。直線があっという間だったな!」
 「スピードを緩めて下さい!」
 「ああ!」

 コーナーに差し掛かる。
 
 ぱーん

 「おい!」

 「タイヤが破裂した!」
 「「「「「え!」」」」」

 「ブレーキが効かねぇ!」

 タカさんの必死の声。

 どぐぁーーーん

 「「「「「「!」」」」」」

 みんなで慌てて飛んで行った。
 車がコーナーを曲がり切れずに大破していた。
 時速400キロ以上で突っ込んだためだ。

 「「「「「タカさん!」」」」」
 「おう」

 タカさんが空中から降りて来た。
 怪我は無さそうだ。

 「タイヤが破裂して、ブレーキは焼き切れたようだぞ」
 「「「「「……」」」」」
 「後ろでモーターが火花散らしてた」
 「「「「「……」」」」」




 エンジンはともかく、それを支えるタイヤとブレーキが既存のものでは無理だったようだ。
 ファブニールは車体重量があり、最高速度もそれほど出さない。
 ブレーキは、特殊な開発のものであることが後に分かった。
 モーターの制動の機構もあるそうだ。

 桁違いの出力のエンジンに、既存のものを使ったことが失敗だった。

 タカさんは笑って許してくれたが、私たちは諦めない。

 がんばるぞー。
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