富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカ「ほんとの虎の穴」にて

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 栞の居住区に戻り、俺たちはコーヒーを飲んで一服した。

 「さっきの二体の妖魔が主にアラスカを守護しているんですよ」
 「そうなのか」

 院長はまだ現実と受け取れ切れていないようだ。
 無理も無い。
 かく言う俺だって、よくは分かっていない。
 
 「それに「クロピョン」も、常時ここを護っています」
 「ああ、お前を死なせ掛けたあの巨大な怪物か」
 「ええ。俺にも本体がどれほどの大きさなのかは分かりませんけどね。妖魔の「王」と呼ばれる連中はいろいろと桁が違う。「空の王」と呼ばれるものは、全長で数千キロはあります。「死の王」はアリンコサイズですが」
 「?」

 「死の王」モハメドは見た目は小さいが、「本体」という概念であれば、もしかしたら違うのかもしれない。
 俺は「クロピョン」が世界各地の資源を集めることが出来るのだと話した。

 「世界的な資源不足、特にロシアは壊滅的ですよ」
 「お前がやっていたのか!」
 「まーねー」

 院長が驚いた。

 「ヨーロッパはパイプラインを停められて大変なことになっているだろう!」
 「ああ、そっちは解決しました。ヴァンパイヤ一族に卸して、今は安定供給ですよ?」
 「なんだと?」

 俺は笑って「ローテス・ラント」の中枢が長命不老不死の吸血鬼一族であることを話した。

 「俺に接近しようとして不埒な真似をしやがったんで、ちょっと締めてやりましたけどね」
 
 掻い摘んで俺の店や「アドヴェロス」を襲撃し、俺たちがドイツ本国の中枢に乗り込んだ話をした。
 院長と静子さんが真剣に聞いている。
 栞や桜花たちも、一部知らない部分があったので、同じく聞いていた。
 アラブ首長国連邦でのロシア軍の侵攻や、「ローテス・ラント」の備蓄倉庫が襲われた戦闘なども話した。

 「ロシアは本格的に資源不足で、これからも対外戦争を仕掛ける可能性が高い。俺たちも今後はロシア本土へ出向くこともあるでしょう」
 「なんということだ……」
 「水面下では、もう「業」の世界侵略は始まっているんです。これから世界は二分しての戦争に突入します。その時には、院長と静子さんは、どうかここへ来て下さい」
 「ああ、分かった。大変な時代になるんだな」
 「そうです。これまでの世界大戦以上の戦乱になるでしょう」

 院長が俺を見ている。

 「石神、お前は必ず勝てよ」
 「はい」
 「頼むぞ」
 「はい」

 士王と吹雪が一緒に床に座ってじゃれ合っている。
 吹雪が笑って士王にのしかかり、士王は両足で吹雪の腰を挟んだ。
 そのまま吹雪を引っ繰り返し、吹雪の顔を撫で回している。
 そのうち二人が響子に襲い掛かり、響子が嬉しそうに悲鳴を上げていた。

 「なんで二人ともオッパイに触るのー!」
 「「ギャハハハハハ!」」

 俺の子だからだ。

 院長も俺たちも、自分のために世界を護ろうとしているのではない。
 次の世代にちゃんと世界を紡ぐためだ。

 「「業」の軍勢の脅威は、その膨大な数にあります」
 「どれほどの軍なのだ?」
 「分かりません。ただ、前哨戦で30億もぶっこんで来るんですからね。兆を超えていても驚きませんよ」
 「なんだと!」

 院長の想定を超えているだろう。
 世界人口は100億にも満たないからだ。
 
 「妖魔ですよ。俺もまさかあれほどの数を有しているとは思っていませんでした。以前から何度か妖魔は送り込まれていましたけどね。でも単体がほとんどで。ロシアから避難民を救出する作戦を実行しましたが、その時に」
 「お前たちは大丈夫だったのか!」
 「まあ、俺が死に掛けましたけどね。何とか」
 「石神! お前また無茶なことを!」

 院長が涙目になったので慌てた。
 双子が駆け寄る。

 「タカさんは絶対に死なないよ!」
 「私たちがいるもん!」

 院長が本格的に泣き出した。
 まいった。

 「そうだな。絶対に俺たちが石神を助けないとな」
 「「そうだよ!」」

 俺も安心させるために話した。

 「この蓮花がね、数の問題を何とかしようと頑張ってるんですよ」
 「蓮花さんが?」
 「ええ。院長も見ているでしょう? デュール・ゲリエですよ。これまでは群馬の研究所で創っていましたが、いよいよこのアラスカで大増産する計画でしてね。今日もそのためにアラスカへ来ているんです」

 院長が蓮花に近づき、手を握った。

 「蓮花さん、頼む! 石神を頼む!」
 「はい、お任せ下さいませ!」

 蓮花が自分の胸を叩いてちょっと咳き込んだ。
 みんなが笑った。

 「他にも「花岡」の習得や研究、対妖魔戦の武器や兵器の開発をしています」
 「そうか」
 「もう一つ、「業」の恐ろしい研究があります」
 「どういうものだ?」
 「ウイルスですよ」
 「!」
 「まだ開発中でしょうが、俺たちも掴めていない。今後はその治療薬や治療法の研究もあります」
 「俺も協力するぞ!」
 「お願いしますね」

 俺が笑って頼むと、院長がやっと嬉しそうな顔をした。
 自分が協力できることだからだ。
 院長は外科医だが、きっといろいろと力になってくれるだろう。

 「俺もいろいろ勉強しておこう」
 「はい。資料などは必要なだけ入手しますから」
 「ああ、遠慮なく頼むからな」
 「任せて下さい」

 亜紀ちゃんが「俺にまかせろー」と叫び、みんなを笑わせた。
 そろそろ夕飯の時間になっていた。

 「院長と静子さんはお疲れじゃないですか?」
 「いや、もういろいろあり過ぎて疲れも分からないぞ」
 「そうですか」
 「お前のせいだぁ!」

 静子さんが大笑いした。
 大丈夫そうだ。

 俺はみんなを「ほんとの虎の穴」に連れて行った。
 電動移送車だ。
 2台に分乗した。
 夕暮れのヘッジホッグの街を進む。
 仕事を終えた大勢の人間が通りを歩いている。

 「みんなここで頑張っているのだな」
 「ええ。いろんな国の人間がいますよ。日本やアメリカばかりでなく、世界各国から俺たちに同調して来てくれています」
 「そうか」

 静子さんが院長の手を握って、二人で車窓から眺めていた。

 「みんな笑っているな」
 「そうですね」

 やるべきことをやる人間は生き生きとしている。
 ここには、そういう生活がある。

 「サーシャという、ロシア人の女の子がいるんですよ。ロシアからの避難民の子どもなんですが、生まれて初めて学校に通い出して」
 「そうなのか」
 「こないだ俺に手紙をくれました。毎日が楽しくて仕方が無いって。小さな山中の村で暮らしていたんで、教育の機会が無かったんですけどね。でも、そこで親子三人で幸せに暮らしていた」
 「「業」にやられたのか」
 「はい。突然軍隊が来て、父親がみんなを逃がすために死んだ。母親と一緒に森を彷徨っているうちに俺たちの避難施設に辿り着いた。わけも分からずにここに移送されて、それでも今「楽しい」のだと言ってくれている」
 「そうか。俺たちも頑張らないとな」
 「そうですよね」

 手紙は英語で書かれていた。
 まだ間もない期間だが、サーシャは一生懸命に英語を習得しつつある。
 俺がドストエフスキーのロシア語と英語の全集を持って行くと、喜んでくれた。

 「ほんとの虎の穴」に着き、みんなで中に入る。

 「石神さん!」

 雑賀が出迎えてくれた。

 「今日は俺の最も大事なお二人を連れてるんです」
 「はい、お聞きしました! どうぞ中へ」

 俺たちが入ると、ホールのあちこちで叫び声と歓声が聞こえた。
 俺の顔を知っている連中が多い。

 「おい! みんな飲み過ぎて迷惑を掛けるなよ! ああ、今から一杯ずつ俺の奢りだ!」

 大歓声が沸いた。





 俺専用のVIPルームに入る。
 楽しい夕餉の始まりだ。
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