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連城十五 Ⅲ
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俺は連城十五について興味を持った。
もう既に死んでいる人間だったが、俺と似た部分があるようで、探偵事務所や様々な伝手を辿って連城の経歴を調べて行った。
後から思えば、俺の中で何かの予感があったのかもしれない。
思いがけず、とんでもないことを知ることになった。
「まいったな。まさかこんなことだったとは……」
その名前から、俺が引っ掛かっていたことに気付く。
「竹流の父親だったのか」
少し考えたが、俺はよしこに連絡し、竹流に会いに行った。
「竹流、お前の父親はそういう立派な人間だったんだ」
俺が話し終えると、竹流は拳を握りしめて黙っていた。
様々な感情がその胸の中を去来しているのだろう。
「自衛官としては最高の人だった。人間としても大変立派な人だった。日本のために、全てを擲って死んだ。お前は俺がそういう人間を尊敬することを知っているよな?」
「はい」
「お前には、そういう立派な人間の血が流れている。お母さんの愛情と、連城十五という男の愛情でお前は生まれた。忘れるな」
「はい!」
俺は、これは予想だと断って、竹流に話した。
「お前の名前は最初にそう思ったんだけど、やっぱりヤマトタケルから取られたんだと思うよ」
「そうなんですか?」
ヤマトタケルの戦いに明け暮れ、深い愛情で女たちを愛した生涯を話した。
長い話になったが、何故か俺の中で、竹流に話しておきたかった。
竹流は黙って聞いていた。
「お前はその名前の通り、優しい人間になったな」
「……」
涙を零す竹流を抱き締めた。
「神様、ありがとうございました」
「いいんだ。偶然知ったことだしな」
「はい」
「お前に知って欲しいという思いが、この世界のどこかにあったんだろう。だから俺が知ることになったんだと思うぞ」
「はい!」
竹流がまた泣き出した。
「神様」
「ああ」
「僕は一人だけど、一人じゃないんですね」
「その通りだ」
竹流は俺に無理に笑って見せた。
7月30日。
秋田の「業」の施設は案外簡単に見つかった。
周辺のある程度の規模の建物を調査していったが、土地柄幾つもなかったためだ。
ある企業の所有になっていた建物が、「太陽界」の系列企業であることが分かってからは一気だった。
「アドヴェロス」から早乙女、磯良、愛鈴、早霧、そして成瀬。
自衛隊「対特殊生物部隊」全隊員500名。
そして念のために仮面を装着した俺、亜紀ちゃん、双子、柳。
俺たちは部隊とは離れた場所で待機していた。
なるべく早乙女や左門たちにやらせたかった。
広い敷地の中に、白い鉄筋4階建ての建物がある。
建物はおよそ300坪といったところか。
建物に併設して、大きな倉庫があった。
「アドヴェロス」が攻撃チームで、左門たちは後方支援だ。
ガンモードでの「カサンドラ」で砲撃する。
早乙女と左門は、先に倉庫部分から制圧することにした。
「タカさん、嫌な感じだよ」
「強い奴がいるよ」
「そうか」
俺も強いプレッシャーを感じていた。
恐らく羽入たちが遭遇したレベルの奴が複数いる。
それ以上の奴もいると、俺は踏んでいた。
作戦行動が始まり、磯良を先頭に、「アドヴェロス」の攻撃チームが先行した。
その上を、左門たちの砲撃が通過していく。
倉庫の大きなドアが吹っ飛び、壁が破壊されて行く。
事前通告も何もない強襲だ。
破壊されたドアから、何体かの巨大なライカンスロープが出て来た。
磯良だけが反応し、攻撃していく。
出て来た3体のうち2体が磯良に切り刻まれる。
しかし残る1体が攻撃を逃れ、左門たちに迫った。
高速移動で、恐らく左門たちは正確には視認出来ていない。
「ファランクス!」
左門が号令を掛けた。
すぐに集結した300人がロングソードモードで「カサンドラ」を展開した。
ハリネズミのようにプラズマが伸び、一瞬で高熱の空間が出来る。
ライカンスロープは避け切れずに燃え尽きた。
左門たちが歓声を上げた。
「油断するな! まだいるぞ!」
俺が無線で怒鳴ると、左門とリーがすぐに陣形を整えた。
「カサンドラ」は数に余裕がある。
また撃ち漏れた敵が来ても対抗出来るだろう。
次の瞬間、倉庫部分が爆散した。
爆発物ではない。
四面の壁が、それぞれに四方に飛び散った。
子どもたちが身構える。
「亜紀ちゃん! 行け!」
「はい!」
俺は亜紀ちゃんだけ出撃させた。
15体のライカンスロープが見えた。
人狼型10、他はオーガタイプに見えたがサイズが少し小さい。
それに、全身が輝いている。
その中の一人は大きかったが、そいつは全身が金色に輝いていた。
あいつはヤバい。
亜紀ちゃんのインカムに、金色の奴を優先して叩くように伝えた。
磯良の前で、人狼型が次々に撃破される。
左門たちは全員で砲撃していく。
何体かの人狼型を潰した。
しかし、磯良は輝くオーガタイプに苦戦しているようだった。
あいつの「無影刀」が通じていないようだった。
亜紀ちゃんが金色に突撃していく。
「アドヴェロス」がいるので、大技は使わない。
「亜紀ちゃんでもダメだよ!」
「俺がやる! お前たちは他の奴らをやれ!」
「「「はい!」」」
双子と柳が一緒に飛ぶ。
「どけ! 俺がやる!」
「はい!」
亜紀ちゃんが俺に金色を明け渡し、他の輝く連中に向かった。
攻撃の通じない磯良を、愛鈴と早霧が守っている。
早乙女は左門たちと一緒だったが、あのバカは走って向かって来た。
信じられないことが起きた。
金色が磯良たちを襲っていたライカンスロープを破壊したのだ。
どういうことか全く分からない。
金色が俺に向き直った。
「お前、面白いな!」
金色が喋った。
日本語だった。
「お前、意識があるのか!」
「ある。お前のような戦士と戦えるのは嬉しいぞ」
「元は日本人か!」
「忘れた。俺は「業」様の僕でしかない」
俺は金色に「螺旋花」を撃ち込んだ。
防御した左腕が吹っ飛ぶ。
「ほう! この身体を壊せるか!」
「ほざけ!」
右足の腿にも撃ち込んだが、それは破壊出来なかった。
何らかの防御法を一瞬で構築したらしい。
「てめぇ!」
俺は連続して金色の体表を撃った。
ほとんどがかわされ、金色の凄まじいブロウが俺を狙う。
俺も「流れ」でかわしていく。
大分硬いが、人体の構造を俺は見て取った。
「いくぜ!」
左脇腹に鍵突き。
そこから俺は「奈落」を金色へ撃ち込んで行った。
金色は徐々に身体を破壊され、崩れて行った。
両腕を喪い、胸から上だけが残る。
青黒い血が地面に拡がっていた。
「ふう、見事だ」
「とどめだ」
「ああ、頼む」
金色が笑っていた。
《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》
「なに!」
金色は笑ったまま、目を閉じた。
俺は「虚震花」で全てを消した。
亜紀ちゃんたちも他のライカンスロープを斃していた。
磯良も、一体を撃破した。
特殊な技を使ったらしい。
磯良を守っていた愛鈴と早霧は満身創痍だった。
俺は双子に言って「Ω」の粉末を使わせ、「手かざし」をさせた。
磯良に抱き着いた早乙女の頭を引っぱたいた。
「てめぇは気軽に来るんじゃねぇ!」
「すまない! 磯良たちが危ないと思ったんだ」
「俺たちがいるだろう!」
尻を蹴ろうとすると磯良が両手を拡げているのでやめた。
早乙女と左門、うちの子どもたちで鉄筋の建物に入った。
何もなく、ここで何をしていたのかは分からなかった。
俺は全員を建物の捜索に当たらせ、倉庫部分にタマを呼んだ。
「なんだ、主」
「タマ。金色の奴の記憶を探れるか?」
僅かに破片だけが残ったものを示し、タマに聞いた。
「やってみよう」
タマが目を閉じて何かを探った。
タマが読み取れたことを知り、俺は驚愕した。
「業」はここで新たに創り上げたライカンスロープの運用実験をしていたようだ。
「アドヴェロス」が来ることは分かっていたので、それを襲いながらライカンスロープの性能を試すつもりだった。
もっと長く実験が出来ると考えていたようだったが、生憎と羽入が人狼型を撃破したため、俺たちの一斉攻撃を喰らった。
「金色の奴は、元自衛官だったようだな」
「なんだと?」
「ロシアに潜入したところを「業」に捕らえられ、逆に実験台にされたようだ」
「それは……」
「まあ、その程度しか分からない。済まない、主」
「いや、十分だ。ありがとう、タマ」
「礼など。また呼んでくれ」
「ああ、じゃあな」
タマが消えた。
後日、俺はまた竹流と話した。
夜になっていたが、「紫苑六花公園」で二人でベンチに座った。
「おい、お前は男だよな」
「はい!」
「お前の父親は立派な男だった」
「え?」
竹流に話すことは出来なかった。
だが、俺が抱き締めると、竹流が泣いた。
声を押し殺し、震えながら俺の胸で泣いた。
《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》
その死に際し、ヤマトタケルは自分の愛した女のことを思った。
置いて来た自分の分身の大刀が、もう戦うことなく、愛する女の傍にあることを思った。
恐らく、唯一の心残りであり、最大の愛であった竹流に、あいつは何かが残っていると思いたがったに違いない。
俺は、そう思う。
もう既に死んでいる人間だったが、俺と似た部分があるようで、探偵事務所や様々な伝手を辿って連城の経歴を調べて行った。
後から思えば、俺の中で何かの予感があったのかもしれない。
思いがけず、とんでもないことを知ることになった。
「まいったな。まさかこんなことだったとは……」
その名前から、俺が引っ掛かっていたことに気付く。
「竹流の父親だったのか」
少し考えたが、俺はよしこに連絡し、竹流に会いに行った。
「竹流、お前の父親はそういう立派な人間だったんだ」
俺が話し終えると、竹流は拳を握りしめて黙っていた。
様々な感情がその胸の中を去来しているのだろう。
「自衛官としては最高の人だった。人間としても大変立派な人だった。日本のために、全てを擲って死んだ。お前は俺がそういう人間を尊敬することを知っているよな?」
「はい」
「お前には、そういう立派な人間の血が流れている。お母さんの愛情と、連城十五という男の愛情でお前は生まれた。忘れるな」
「はい!」
俺は、これは予想だと断って、竹流に話した。
「お前の名前は最初にそう思ったんだけど、やっぱりヤマトタケルから取られたんだと思うよ」
「そうなんですか?」
ヤマトタケルの戦いに明け暮れ、深い愛情で女たちを愛した生涯を話した。
長い話になったが、何故か俺の中で、竹流に話しておきたかった。
竹流は黙って聞いていた。
「お前はその名前の通り、優しい人間になったな」
「……」
涙を零す竹流を抱き締めた。
「神様、ありがとうございました」
「いいんだ。偶然知ったことだしな」
「はい」
「お前に知って欲しいという思いが、この世界のどこかにあったんだろう。だから俺が知ることになったんだと思うぞ」
「はい!」
竹流がまた泣き出した。
「神様」
「ああ」
「僕は一人だけど、一人じゃないんですね」
「その通りだ」
竹流は俺に無理に笑って見せた。
7月30日。
秋田の「業」の施設は案外簡単に見つかった。
周辺のある程度の規模の建物を調査していったが、土地柄幾つもなかったためだ。
ある企業の所有になっていた建物が、「太陽界」の系列企業であることが分かってからは一気だった。
「アドヴェロス」から早乙女、磯良、愛鈴、早霧、そして成瀬。
自衛隊「対特殊生物部隊」全隊員500名。
そして念のために仮面を装着した俺、亜紀ちゃん、双子、柳。
俺たちは部隊とは離れた場所で待機していた。
なるべく早乙女や左門たちにやらせたかった。
広い敷地の中に、白い鉄筋4階建ての建物がある。
建物はおよそ300坪といったところか。
建物に併設して、大きな倉庫があった。
「アドヴェロス」が攻撃チームで、左門たちは後方支援だ。
ガンモードでの「カサンドラ」で砲撃する。
早乙女と左門は、先に倉庫部分から制圧することにした。
「タカさん、嫌な感じだよ」
「強い奴がいるよ」
「そうか」
俺も強いプレッシャーを感じていた。
恐らく羽入たちが遭遇したレベルの奴が複数いる。
それ以上の奴もいると、俺は踏んでいた。
作戦行動が始まり、磯良を先頭に、「アドヴェロス」の攻撃チームが先行した。
その上を、左門たちの砲撃が通過していく。
倉庫の大きなドアが吹っ飛び、壁が破壊されて行く。
事前通告も何もない強襲だ。
破壊されたドアから、何体かの巨大なライカンスロープが出て来た。
磯良だけが反応し、攻撃していく。
出て来た3体のうち2体が磯良に切り刻まれる。
しかし残る1体が攻撃を逃れ、左門たちに迫った。
高速移動で、恐らく左門たちは正確には視認出来ていない。
「ファランクス!」
左門が号令を掛けた。
すぐに集結した300人がロングソードモードで「カサンドラ」を展開した。
ハリネズミのようにプラズマが伸び、一瞬で高熱の空間が出来る。
ライカンスロープは避け切れずに燃え尽きた。
左門たちが歓声を上げた。
「油断するな! まだいるぞ!」
俺が無線で怒鳴ると、左門とリーがすぐに陣形を整えた。
「カサンドラ」は数に余裕がある。
また撃ち漏れた敵が来ても対抗出来るだろう。
次の瞬間、倉庫部分が爆散した。
爆発物ではない。
四面の壁が、それぞれに四方に飛び散った。
子どもたちが身構える。
「亜紀ちゃん! 行け!」
「はい!」
俺は亜紀ちゃんだけ出撃させた。
15体のライカンスロープが見えた。
人狼型10、他はオーガタイプに見えたがサイズが少し小さい。
それに、全身が輝いている。
その中の一人は大きかったが、そいつは全身が金色に輝いていた。
あいつはヤバい。
亜紀ちゃんのインカムに、金色の奴を優先して叩くように伝えた。
磯良の前で、人狼型が次々に撃破される。
左門たちは全員で砲撃していく。
何体かの人狼型を潰した。
しかし、磯良は輝くオーガタイプに苦戦しているようだった。
あいつの「無影刀」が通じていないようだった。
亜紀ちゃんが金色に突撃していく。
「アドヴェロス」がいるので、大技は使わない。
「亜紀ちゃんでもダメだよ!」
「俺がやる! お前たちは他の奴らをやれ!」
「「「はい!」」」
双子と柳が一緒に飛ぶ。
「どけ! 俺がやる!」
「はい!」
亜紀ちゃんが俺に金色を明け渡し、他の輝く連中に向かった。
攻撃の通じない磯良を、愛鈴と早霧が守っている。
早乙女は左門たちと一緒だったが、あのバカは走って向かって来た。
信じられないことが起きた。
金色が磯良たちを襲っていたライカンスロープを破壊したのだ。
どういうことか全く分からない。
金色が俺に向き直った。
「お前、面白いな!」
金色が喋った。
日本語だった。
「お前、意識があるのか!」
「ある。お前のような戦士と戦えるのは嬉しいぞ」
「元は日本人か!」
「忘れた。俺は「業」様の僕でしかない」
俺は金色に「螺旋花」を撃ち込んだ。
防御した左腕が吹っ飛ぶ。
「ほう! この身体を壊せるか!」
「ほざけ!」
右足の腿にも撃ち込んだが、それは破壊出来なかった。
何らかの防御法を一瞬で構築したらしい。
「てめぇ!」
俺は連続して金色の体表を撃った。
ほとんどがかわされ、金色の凄まじいブロウが俺を狙う。
俺も「流れ」でかわしていく。
大分硬いが、人体の構造を俺は見て取った。
「いくぜ!」
左脇腹に鍵突き。
そこから俺は「奈落」を金色へ撃ち込んで行った。
金色は徐々に身体を破壊され、崩れて行った。
両腕を喪い、胸から上だけが残る。
青黒い血が地面に拡がっていた。
「ふう、見事だ」
「とどめだ」
「ああ、頼む」
金色が笑っていた。
《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》
「なに!」
金色は笑ったまま、目を閉じた。
俺は「虚震花」で全てを消した。
亜紀ちゃんたちも他のライカンスロープを斃していた。
磯良も、一体を撃破した。
特殊な技を使ったらしい。
磯良を守っていた愛鈴と早霧は満身創痍だった。
俺は双子に言って「Ω」の粉末を使わせ、「手かざし」をさせた。
磯良に抱き着いた早乙女の頭を引っぱたいた。
「てめぇは気軽に来るんじゃねぇ!」
「すまない! 磯良たちが危ないと思ったんだ」
「俺たちがいるだろう!」
尻を蹴ろうとすると磯良が両手を拡げているのでやめた。
早乙女と左門、うちの子どもたちで鉄筋の建物に入った。
何もなく、ここで何をしていたのかは分からなかった。
俺は全員を建物の捜索に当たらせ、倉庫部分にタマを呼んだ。
「なんだ、主」
「タマ。金色の奴の記憶を探れるか?」
僅かに破片だけが残ったものを示し、タマに聞いた。
「やってみよう」
タマが目を閉じて何かを探った。
タマが読み取れたことを知り、俺は驚愕した。
「業」はここで新たに創り上げたライカンスロープの運用実験をしていたようだ。
「アドヴェロス」が来ることは分かっていたので、それを襲いながらライカンスロープの性能を試すつもりだった。
もっと長く実験が出来ると考えていたようだったが、生憎と羽入が人狼型を撃破したため、俺たちの一斉攻撃を喰らった。
「金色の奴は、元自衛官だったようだな」
「なんだと?」
「ロシアに潜入したところを「業」に捕らえられ、逆に実験台にされたようだ」
「それは……」
「まあ、その程度しか分からない。済まない、主」
「いや、十分だ。ありがとう、タマ」
「礼など。また呼んでくれ」
「ああ、じゃあな」
タマが消えた。
後日、俺はまた竹流と話した。
夜になっていたが、「紫苑六花公園」で二人でベンチに座った。
「おい、お前は男だよな」
「はい!」
「お前の父親は立派な男だった」
「え?」
竹流に話すことは出来なかった。
だが、俺が抱き締めると、竹流が泣いた。
声を押し殺し、震えながら俺の胸で泣いた。
《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》
その死に際し、ヤマトタケルは自分の愛した女のことを思った。
置いて来た自分の分身の大刀が、もう戦うことなく、愛する女の傍にあることを思った。
恐らく、唯一の心残りであり、最大の愛であった竹流に、あいつは何かが残っていると思いたがったに違いない。
俺は、そう思う。
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