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蓮花さんの愛

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 亜紀ちゃんと作った「カタ研(カタストロフィ研究会)」は、幾つかの進展があった。
 5月のゴールデンウィークの合宿以降、石神さんと相談しながら、「虎」の軍の活動を一部、メンバーに公開した。
 実物はもちろん見せられないが、兵器や武器の性能などはある程度話している。
 それを材料にして、「業」の軍との戦いを模索している。

 「「ジェヴォーダン」は厄介だな」
 
 坂上君が言った。
 「ジェヴォーダン」のサイズと能力は話している。
 日本でも私の実家を襲った事件がマスコミに流されているので、隠すようなことは少ない。

 「レールガンでも難しいのよね?」
 「そうなんです、上坂さん。問題はあの時速400キロにもなるスピードなんですよ」
 「硬い装甲でビルも粉砕してしまうんです」
 「狙って撃つのは難しいってことね」

 私は実家の映像を見せた。

 「この時には、広範囲の攻撃で敵勢力を「ジェヴォーダン」を含めて殲滅しました」
 「なるほど。「虎」の軍にはそういう兵器もあるんだね」
 「でも、被害も広範囲に及ぶので、都市部では難しいと思います」
 「そうよね。何とか一体ずつ撃破出来るようにしたいわね」

 いつものように、部室(高級マンション)でお茶を飲みながら話している。
 今日は大学生のメンバーだけで、ルーちゃんとハーちゃんは、中学校で「人生研究会」の総会を開いている。
 みんなパティスリー ラトリエ・トーマのマカロンを食べている。
 私と亜紀ちゃんはそれとは別に、木下食堂の赤魚セットをテイクアウトしていた。
 パレボレはパンの耳だ。
 袋に一杯入っている。

 「おい、パレボレ。耳は3本までな」
 「はい! 残りは夕飯ですね!」

 最近、亜紀ちゃんにちょっと素直だ。

 「聖さんは「面の攻撃」が必要だって言ってたなー」
 「面?」
 「はい。強い人は点や線の攻撃は回避してしまうので、回避できないように面で制圧するんだって言ってました」
 「なるほど! じゃあレールガンの砲身を沢山つければいいんじゃない?」
 「いいですね!」
 「でも、あれは一つの威力が大き過ぎるよ。都市部で使ったら、外れた弾頭でとんでもないことになるんじゃない?」
 「そうかー」

 砲身の自動追尾などの案も出たが、皇紀くんが実際に作っていると聞いた。
 ニューヨークのロックハート家で実装しているそうだ。
 だけど、ここではまだ話せない。

 「地面に埋めたらどうかな? ほら、空中に向けて発射するんだよ」
 「なるほど! 接近する「ジェヴォーダン」に向けて撃てばいいんですね」
 
 絵の上手い平くんがみんなのアイデアを聞きながら、スケッチブックにイラストを描いた。

 「いいんじゃない!」

 みんなで喜んだ。





 家に帰って、亜紀ちゃんと一緒に石神さんにイラストを見せた。

 「ほう、若い連中は頭が柔軟でいいな」
 「そうですよね! 石神さん、これ使えませんか?」
 「ああ、これな」
 「はい!」
 「いやぁ、もうあるから」
 「へ?」
 「アラスカで実装しているよ。「虎の穴」でも「アヴァロン」でもな。都市の周囲に何重にも設置している。「ジェヴォーダン」が近付いたら稼働するようになってるよ」
 「そうなんですか!」
 「外壁の上にももちろんあるけどさ。それを使うと地面が爆発するから視認しにくくなるんだよな。だからそういうものも取り付けたんだ」
 「なんだぁ」
 「やっぱりタカさんには敵わないかぁー」

 石神さんは笑って私と亜紀ちゃんの頭を撫でてくれた。

 「まだ始まったばかりだ。いろいろ考えて意見をくれよ。そのうちに本当に助かるようなものも出て来るだろう」
 「そうですね! 向かって進むことが大事ですもんね!」
 「そういうことだ」

 石神さんはその夜、全員を集めて話をしてくれた。
 「幻想空間」で、全員でフルーツポンチを食べながら。




 「今日は「カタ研」で面白いアイデアが生まれたからな。まあ、既にあるものだったので参考程度のことだけど、こういうアイデアはどんどん欲しい。皇紀もそう思うよな?」
 「はい、本当に! やっぱり一人で考えているとどうしても行き詰ってしまいます。誰かと話していて、アイデアが浮かぶことがほとんどですよ」
 「そうだな。まあ、皇紀にはいろんなものを作ってもらっているけどな」
 「ほとんどタカさんのアイデアですけどね」
 「そんなことはない。俺も皇紀や他の人間と話していたり、お前らを見ているうちに思いつくことも多いんだ」
 
 石神さんはそう言って、蓮花さんの話を始めた。

 「皇紀と双璧は、何と言っても蓮花だよな」
 「蓮花さんにはとても敵わないですよ」
 
 石神さんは、皇紀くんの頭を撫でる。

 「まあ、蓮花は兵器を作っていないんだ」
 「「「「「え?」」」」」

 だって、蓮花さんはデュール・ゲリエの開発者だし、最近では「武神」というとんでもない決戦兵器も作っていると聞いた。
 プロトタイプが早乙女さんの家に置いてあるが、凄まじい戦力だと聞いている。

 「確かにデュール・ゲリエは優秀だし強いよ。今後もっと成長する可能性は高い」
 「でも、兵器じゃないんですか?」

 「そうだ、柳。お前も蓮花の趣味を知っているだろう?」
 「はい、あの「自動走行ロボ」ですよね! カワイイですよ!」
 「そうだよな。蓮花がやっているのは、全部あれなんだよ」
 「え?」
 「蓮花はな、命を持った「仲間」を作っているんだ」

 「「「「「!」」」」」

 石神さんが言っていることが分かった。
 破壊する兵器ではなく、私たちと一緒に戦ってくれる仲間なんだ。

 「デュール・ゲリエには感情があるんだ。人間とはちょっと違うけどな。でも、あいつらは第一に俺たちを守り、そして同時に仲間のデュール・ゲリエも守ろうとする。だから合理的な行動ではない場合もある」
 「自分の命を自分以外のために使うということですね」
 「その通りだ、柳。デュール・ゲリエには自爆機能もある。でもそれは必ず仲間のために使うんだ。それは乾さんのディディにもある。自爆装置だけではない。戦いそのものが、仲間を守るためのものなんだよ。蓮花の作るものは全て、そういう優しさがあるんだ」
 
 みんなが押し黙っている。
 そういう考え方は、誰もしていなかった。

 「そして蓮花は、本当は生み出したデュール・ゲリエたちには死んで欲しくないんだ。そういうことが出来るかは分からんが、いつか戦いが終わったら、あいつはデュール・ゲリエたちに静かに幸せに暮らして欲しいと思っている」
 「蓮花さん!」

 「今は無理だ。ひたすら戦うために明け暮れている。それは蓮花を悲しませてもいるが、あいつは俺たちのために心を鬼にしてそうしてくれている。だからな、みんな。蓮花の心を知っておいてくれ」

 石神さんが立ち上がって私たちに頭を下げた。
 私たちも立ち上がって、石神さんに頭を下げた。

 「タカさん! 分かりました! きっといつか平和な時代に、蓮花さんを安心させるようにします!」
 「頼むな!」

 亜紀ちゃんが言い、全員が同じことを誓った。

 「蓮花の夢の一つは、自分が生み出したデュール・ゲリエの一体ずつに名前を付けたいということなんだ」
 「いいですね!」
 「今は戦闘の処理のために二進法の通番しかないけどな。将来は全員に素敵な名前を付けたいんだって言ってるよ」
 「絶対に実現したいですね」
 「そうだよな。まあ、俺に協力しろって言ってるんで困ってるんだけどな」

 みんなで笑った。

 「お前らも頼むな」
 「「「「「はい!」」」」」
 
 石神さんも嬉しそうに笑った。

 「これはついでの話なんだけどな。俺なんかの不安のために、お前らは一生懸命に俺の血について調べてくれた。蓮花もな」
 
 蓮花さんとルーちゃんとハーちゃんが中心になって、いろいろやっていたことは知っている。

 「それでシャドウが生まれた。俺はあいつに申し訳ないと思いながら、やっぱり警戒していた」
 「タカさん!」

 石神さんが亜紀ちゃんを手で制した。

 「俺の勘は、あいつが優しいいい奴だと思ってはいたが、それでもな。増して俺の傍には置けないから、蓮花たちに押し付けてしまった」
 「それはしょうがないですよ!」
 「万一があれば、俺はシャドウをすぐに処分するつもりだった。あいつには申し訳ないけどな」
 「それは……」

 「だけどな。蓮花はそうじゃなかった。自分が生み出したものだったからな。あいつはやっぱりシャドウを大事にしたがった。俺に何度も頼み込んで、シャドウに会いに行った。あいつだって怖かったはずなんだけどな」
 「蓮花さん……」

 石神さんが微笑んだ。

 「まあ、今は俺も少しも疑ってはいない。あいつは正真正銘いい奴だ。蓮花を守ってくれるナイトだ。でもそれは、俺の血なんかじゃない。蓮花の愛情だ」

 全員が、石神さんが話そうとしていたことが分かった。

 「いいか、物は物じゃない。その人間が大事にしようとした時に、その物には何かが入る」
 「タカさんはそういう物を一杯持ってますよね!」
 「そうだ、亜紀ちゃん。俺たちが使う物は全てそうだ。そう思って、大事にしていってくれ」
 「「「「「はい!」」」」」

 「いつか、フェラーリも取り戻しましょうね!」
 「柳さん!」

 亜紀ちゃんに怒鳴られた。
 石神さんが泣きそうな顔になってる。

 「すいません!」
 「いいよ……」

 ルーちゃんとハーちゃんが両脇から抱き締め、亜紀ちゃんが背中をさすっていた。





 ほんとうに、すみません。
 私、いつも余計なことを……

 「じゃー! 元気になる、ヒモダンス! やるよ!」

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン……》

 石神さんも楽しそうに踊り出した。
 石神家は不思議だ。
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