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PRISON BREAK! Ⅲ

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 翌朝。
 7時に朝食が配られた。
 パンとミルクだけだ。
 モハメドさんが喰うなと言い、俺はそのままトレイごと外へ出した。

 「おい、これを喰っとけ」

 モハメドさんがベッドの下を示した。
 覗いて見ると、でかいソーセージとエヴィアンのペットボトルがある。

 「どうしたんですか!」
 「看守たちの冷蔵庫からくすねてきた」
 「モハメドさんが?」
 「そうだよ!」
 「ありがとうございます!」
 「見つからねぇように、毛布をかぶって喰え!」
 「はい!」

 美味かった。
 ペットボトルはあと4本ある。
 どうやって運んだんだろうか。
 まあいいや。

 俺はモハメドさんの優しさを感じた。
 口調はきついが、心は優しい人だ。

 俺はソーセージの三分の一を食べ、またベッド下に仕舞った。
 今日の食事はこれだけだ。
 大事に喰わないといけない。
 俺は横になってまた眠った。



 誰かが近付いて来る気配で目を覚ました。
 看守らしき男が三人来て、俺の房を開ける。
 怒鳴っているが、何を言ってるのか分からない。
 手招いているので、鉄格子まで行った。
 いきなり頭を警棒で殴られた。

 「いってぇー!」

 外に引っ張り出された。
 シャワーの栓をひねっている。
 トイレも覗いていた。
 顔を顰めた。
 俺の流していないブツを見ていた。
 ざまぁ。

 三人で何か話し合って、俺はまた中へ入れられ、鉄格子が閉まった。
 多分だが、各房の水の使用量なんかが監視されているのだろう。
 それで全然使っていない俺の房を調べに来たという感じか。

 30分後、今度は作業着を着た男を連れて、また三人の看守が来た。
 今度はすぐに房の外へ出た。
 鉄格子から腕を通され、手錠を嵌められた。
 作業着の男が特殊な工具で何かやっている。
 修理しているようだ。
 2時間もそのまま待たされ、シャワーが出てトイレも流れるようになった。

 俺は手錠を外されて、また中へ入った。
 鉄格子が閉まる。
 外で、作業員が入念に工具のチェックをされていた。
 万一中へ忘れたでは不味いのだろう。

 「ありがとうございました!」

 俺は腰を折って礼を言った。
 作業員が笑って手を振ってくれた。
 日本語だが、礼を言っているのが伝わった。

 「モハメドさん、シャワー使いますね!」
 「バカ! 辞めろと言っただろう!」
 「あ!」
 「お前、本当にバカなのか?」
 「はい!」
 「……」

 俺はモハメドさんに言われ、エヴィアンでタオルを濡らし、全身を拭った。

 「尻も拭っとけ!」
 「ああ、もう一回やったらで」
 「……」

 エヴィアンは貴重だ。
 それにタオルもいつ取り換えてくれるのか分からない。
 尻で使ったら、それで終わりだ。





 何もすることが無く、夕方に1時間ほど外に出た。
 狭い塀の間を進むだけのものだ。
 何も無い。
 外に出たというだけのことだ。

 「なんなんだ?」

 そのまま戻るように言われ、房に戻った。
 もう眠くも無い。
 俺はベッドに横になって、ただ時間が過ぎるのを待った。
 そして午前0時になった。




 怪物が徘徊し、またアナウンスが流れた。
 俺の部屋の電灯が点滅した。

 「今の番号ってお前なんじゃないのか?」
 「え?」
 「お前! 自分の囚人番号を覚えてねぇのかよ!」
 「だって、英語で言われても」
 「アホ!」

 一度スゴイ勢いで鉄格子が閉じ、また開いた。
 どうやら、俺の番号らしい。
 俺は下へ降りた。
 通り過ぎる俺を、囚人たちが憐れんだ目で見ていた。

 下に降りると、既に二人の男が待っていた。
 怪物もいる。

 「おい、日本人か!」
 
 日本語で話し掛けられた。
 身長170センチの痩せぎすの男。
 しかし、筋肉は引き締まっていて、針金を捩ったような逞しさがあった。

 「そうです! もしかして千石さんですか!」
 「何故知ってる?」
 「あんたを探してここに来たんでさぁ」
 「何だと?」

 驚いている。

 「話は後だ! お前に俺の格闘技を使わせる!」
 「いえ! それより、千石さんは俺の格闘技を使えるようにはなりませんか?」
 「なんだと?」
 「「花岡」って言うんです」
 「「花岡」!」
 「はい、御存知で?」
 「知っている! お前、使えるのか」
 「はい!」
 「やってみろ!」

 俺は怪物に「槍雷」をぶちかました。
 プラズマの光が伸びて行き、怪物に突き刺さった。
 ダメージがある。

 「どんどんやれ!」

 千石さんと、もう一人の外人が俺の後ろへ回る。
 怪物が迫って来た。
 昨日よりも遅い。
 「槍雷」が効いているのだろう。
 俺は「螺旋花」を撃ち込んだ。
 怪物の胸部が四散する。
 右胸が大きく抉られた。

 「分かった!」

 千石さんが俺と並んだ。
 「槍雷」を撃った。
 俺も合わせて撃った。
 怪物の頭部が四散し、巨体が倒れた。
 上から大歓声が沸いた。

 サイレンが鳴った。
 大音量のアナウンスが流れる。
 房へ戻れと言っているようだった。

 不意に背後で圧力を感じた。
 一緒にいた外人が変貌していた。
 そして全ての鉄格子が閉じられた。

 「おい、名前は!」
 「東雲です!」
 「東雲、ヤバいぞ!」
 「はい! でもこいつなら一撃で」
 「違う」

 廊下のゲートが開き、先ほどの怪物が二十体ほど来た。
 反対側からサブマシンガンを持った看守たちが数十人入って来る。
 展開した看守たちが一斉に撃って来た。
 俺は「金剛花」で全身を硬化させたが、あれだけの銃弾は防ぎ切れない。
 千石さんに覆いかぶさった。

 「おい! 東雲!」

 そのまま銃弾を受ける。
 しかし、何も感じなかった。

 「あれ?」
 
 夥しく「カツンカツン……」という音が聞こえた。
 見ると、3メートル離れた場所に、大量の銃弾が落ちて行った。

 「これも「花岡」なのか!」
 「いえ、まー」

 「おい、天井に大技をぶちかませ!」
 
 モハメドさんの声が聞こえた。
 俺は迷わず天井に「ブリューナク」を撃った。
 大きな天井がぶっ飛んだ。

 「千石さん! 俺に捕まって!」
 「お、おう!」

 千石さんも迷わず俺に捕まる。
 一気に上昇した。

 「おい、下に最大出力でぶっ放せ!」
 「え、一度降りていいですか? 空中じゃちょっと」
 「使えねぇ!」

 俺は一度地上に降りて、「ブリューナク」を最大でぶちかました。
 刑務所が吹っ飛ぶ。

 「あれ? これってやっちゃいけなかったんじゃ?」

 石神さんが、お子さんたちだと全壊にするから俺なのだと聞いた気がする。

 「後で話す! 今はいいから飛べ!」
 「はい!」

 俺はまた飛んだ。
  
 「モハメドさん! どっちへ行けばいいんですか!」
 「あっちだ」
 
 モハメドさんが言った。
 指さしたらしい。

 「み、見えねぇっす!」
 
 小さすぎですよ。
 頭を殴られた。
 
 「10時の方向だ!」
 「え?」
 「てめぇ!」
 
 もう一度下に降りた。
 モハメドさんが俺の肘まで来て説明した。

 「前が12時! 1時、2時、3時! 分かったか!」
 「ああ、時計の針の向きなんですね!」
 「そうだよ! 10時だ!」
 「はい!」

 また飛んだ。
 もうちょっと分かりやすく言って欲しい。
 俺はバカなんだから。
 ロッキー山脈を越えた。




 音速を超えて飛行していたので、俺も千石さんも衣服はない。
 千石さんがぐったりしている。

 「おい、そいつ大丈夫か?」
 「はい?」
 「普通の奴は、このスピードはきついんじゃねぇのか?」
 「あ! もっと早く言って下さいよ!」

 俺はスピードを落として、一度地上に降りた。
 カナダの森林の中だ。
 寒い。

 千石さんは意識を喪っているが、何とか呼吸している。
 良かった。
 しかし、たちまち凍えそうになる。
 俺は大丈夫だが、千石さんは厳しい。

 「おい、あっちへ行け」
 
 モハメドさんの指示に従った。
 今は俺が考えても何も出来ない。

 3メートルのグリズリーがいた。
 
 「手早く殺せ!」
 「はい!」
 
 螺旋花で心臓をぶち抜いた。
 モハメドさんの言う通りにし、胸から腹まで裂いて、肋骨と内臓をむしり取った。
 
 「おし! そいつを入れろ!」
 「はい!」

 ズボ。

 まだグリズリーの体内は温かい。
 なるほど!

 アラスカの「虎の穴」に向かった。
 巨大なヘッジホッグが彼方に見えて来る。
 千石さんも安定している。
 もう、時速300キロ程度のスピードだ。

 「よくやった! このまま行け!」
 「はい!」

 暫く飛行して行くと、前方から急速に近づいて来る飛行物体があった。

 「しのちゃーん!」

 急速に近づき、それがルーさんとハーさんだと分かった。

 「ルーさん! ハーさん!」
 「バカ! 何でそのまま突っ込んでくるのよ!」
 「ヘッジホッグが攻撃するとこだったじゃん!」
 「へ?」
 
 「今のしのちゃんは認識信号持って無いんだから!」
 「危なかったわー」
 「そうなんですか! えーと、モハメドさん!」
 「……」

 返事は無かった。




 俺は無事に千石さんを「虎の穴」までお連れした。
 すぐに医療班が搬送し、その後無事を知らされた。

 特別に「虎の湯」の使用が許可され、思い切り身体を洗い、湯船に浸かった。
 ルーさんとハーさんに誘われ、「ほんとの虎の穴」の特別バーラウンジでご馳走になった。

 「タカさんがね、「ご苦労!」だって!」
 「よく頑張ったね!」
 「いえ、モハメドさんのお陰ですよ」
 
 モハメドさんは同じカウンターに並んで、「マグロ」の切り身を召し上がっていた。
 俺が言うと、片手(?)を挙げて応えてくれた。

 「でも、やっぱ俺なんかよりも、お二人の方が」
 「それは違うよ、しのちゃん。あたしたちじゃ、千石さんの信頼は得られなかったもん」
 「そうなんですか?」
 「さっき見舞いに行ったらね、一緒に来た東雲さんは大丈夫か、だって」
 「そんな」

 「あたしらは、あそこをぶっ壊すことは出来ても、「救い出す」ことは出来なかったもんね」
 「無理矢理連れて来るだけだよ」
 「はぁ」
 「しのちゃんは一緒に戦って、千石さんを守って、一緒に逃げて来たんでしょ?」
 「まあ、成り行きですけどね」
 
 お二人がニコニコ笑っていた。
 
 「タカさんが信頼するわけだ!」
 「しのちゃん、最高!」
 「え、そうです?」

 俺も笑った。

 「千石さん、仲間になってくれますかね?」
 「大丈夫だよ」
 「しのちゃんとは、少なくとも友達だもん」
 「そうですかぁ!」

 ルーさんとハーさんが、ステーキを喰えと言ってくれた。
 お二人がステーキを人に勧めるのは、最高の歓待だと知っている。
 俺は嬉しくてしょうがなかった。




 後日、石神さんが直接訪ねて来てくれた。
 それも、最高に嬉しかった。
 


 千石さんは正式に「虎」の軍に入ってくれた。
 もう、最高に嬉しいや。 
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