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太陽界の女 Ⅳ

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 「早乙女くんはやっぱり警察官になったのね」
 「そうだ」
 「そっか。やっぱり私たちって結ばれる運命じゃ無かったんだね」
 「それは……」

 早乙女が暗い顔をしている。

 「来栖さん。「デミウルゴス」のことを聞かせてくれ」
 「……」

 俺は直接核心に触れた。

 「石神!」
 
 叫ぶ早乙女を手で制した。

 「来栖さん。俺たちが来たのは偶然じゃない。あなたのことは早乙女から聞いた。信頼できる人間だと」
 「早乙女くん……」

  来栖霞が早乙女を泣きそうな顔で見た。

 「早乙女くん、私を助けてくれるの?」
 「霞さんがそう望むのなら」
 「嬉しい!」

 来栖霞が静かに泣き出した。

 「祖父と父は恐ろしいことを始めてしまいました。私にももう止められません」
 「分かった。俺と石神で必ず止めるよ」
 「ありがとう」

 俺たちは彼女が落ち着くまで待った。
 テラス席には、他に客はいなかった。
 だから俺たちは核心に触れることを話した。

 「「デミウルゴス」は恐ろしい麻薬です。人間の遺伝子レベルで改変していく強力な薬物なんです」
 「過去にもそういう薬物はありましたが、ほとんどはガン化するだけのものでしたが」
 「石神さんは詳しいんですね。私にも詳細は分かりません。ロシアのマフィアから流れて来たものです。日本で効果を試したいと言っていたそうです」
 「ロシアですか」

 やはりそうだった。

 「私たちの教団は、超人を目指しています。「デミウルゴス」は、その一助になるのではないかと、祖父と父は考えたようです」
 「それは、人間の能力を拡大するということですか?」
 「その通りです。確かに「デミウルゴス」を服用すると、筋力が増強され、神経も鋭敏になって行きます。その上、精神力も絶大になり、恐怖を感じなくなります」
 「なるほど、麻薬ですね」

 「おっしゃる通りです。ただ、続けて服用すると、人間ではなくなるようです」
 「具体的には?」
 「私も知りません。でも習慣性は無いようなので、途中で服用を止めればいいのだと」
 「まさか霞さんも?」
 「いいえ。祖父たちが「デミウルゴス」のことをもっと詳しく調べてからだと思います。今は教団の人間を中心に、一般人にも流して、経過を観察しているようで」
 「そうですか」

 俺たちは一旦話を切った。
 来栖霞が眠っている三人を見た。

 「あの、石神さん。彼らにはどのような?」
 「お答え出来ません。電磁波による一時的な失神だとしか。それをどのように行なったのかは秘密です」
 「そうですか。石神さんは銃器の扱いも?」
 「もちろん。ハンドガン、ライフル、対物ライフルも携帯のロケット砲も、何でも扱えます」
 「そうですか。先ほど拝見しましたが、素手での格闘も御得意ですね?」
 「はい。どのような相手でも勝ちますよ」

 来栖霞は俺を熱っぽい目で見詰めていた。

 「一度、見せて頂くことは出来ますか?」
 「それは出来ますが、見たいんですか?」
 「是非。うちの教団も戦闘力では相当なものと思っています。私が教団を抜けるに当たり、ある程度の戦闘は免れないかと」
 「そういうことでしたら。でも、どうすればいいでしょうかね?」
 「道場へいらして頂けませんか?」
 「道場?」

 「はい。格闘技の訓練のための道場があります。そこで教団の人間と戦ってみて頂けませんか?」
 「いいですが」
 「私が見つけた、才能のある入信希望者ということに致します。それで実力を測りたいということで」
 「なるほど」

 来栖霞が隣のテーブルに振り向いた。

 「彼らを簡単に気絶させた猛者だと言います。早乙女さんの伝手で知ったということでいかがでしょうか」
 「いい絵図ですね」

 俺も驚いた。
 この短時間で、矛盾の無いストーリーを考え出した来栖霞の頭の回転は本物だ。

 「では早速」
 「え、これからですか?」
 「ご都合が悪いでしょうか?」
 「いえ、大した用事もありませんが」

 来栖霞が微笑んだ。
 電話をする。
 30分程待たされ、俺たちはワゴン車に乗せられた。
 気絶していた三人は、揺り起こされると目を覚ました。
 俺を睨んでいたが、来栖霞が彼らに何かを話し、納得したようだった。
 早乙女は俺に任せたのか、黙って同行する。

 1時間ほど走り、川崎市内の敷地に着いた。



 6人の男たちに囲まれ、俺たちは道場に入った。
 鉄筋の平屋の建物であり、百坪ほどの広さだった。
 中は板敷きだ。
 畳ではないということは、本格的な格闘訓練をしていると思われた。

 中には、コンバットスーツを来た男たちが100人程いた。
 俺たちが来るのを待っていたようだ。

 指導者と思われる男が、何人かに声を掛けていた。
 俺が玄関から上がると、10人程の男に囲まれた。

 「この男をぶちのめせばいいんですか?」
 「そうです、榊さん。結構強い方なので、そのつもりで」
 「ハハハ」

 榊と呼ばれた指導者が、男の一人を呼んだ。

 「こいつとやり合え」

 俺は男の前に歩いて行った。
 ハイキックを放って来る。
 俺は左手で軽く流し、男を宙に舞わせ、頭から床に落とした。
 男の右ひざを壊す。

 「!」

 榊が驚いていた。

 「話にならねぇな。5人くらい一編に来い」

 榊が命じた。
 五人が一斉に襲い掛かる。
 次の瞬間、全員を床に転がし、一人ずつ顔面を潰した。

 「おい、どうなってんだ? 戦闘要員を訓練してるって聞いたぞ?」

 俺は榊に向かって歩いた。
 何人かが俺にかかってくる。
 全員瞬時に床に倒した。

 榊が壁の木刀を持ち出した。
 裂帛の気合で俺の脳天に打ち込む。
 俺は右手で木刀を撃ち、粉砕した。
 
 「お前の顔面が木刀より硬いといいな?」
 
 榊は俺を見ていた。
 視線が恐怖で震えていた。

 「石神さん! そこまで!」

 来栖霞が叫んだ。

 「え、これからですよ、俺の本気は?」
 「もう結構です! 石神さんの強さはよく分かりました!」
 「だって、まだ全然実力出して無いですよ?」
 「これ以上はどうか!」

 「おい、お前はどうすんだよ?」

 榊に声を掛けた。

 「もう勘弁してくれ」
 「お前、俺を潰すって言ってたじゃん」
 「俺が悪かった」
 
 俺は榊の顔を掴んだ。
 そのまま壁まで走り、木刀を掛けた棚にぶち込んだ。

 「ふざけんな! 戦う者が「悪かった」で済ませるんじゃねぇ!」

 全員が俺を見た。

 「一度始めた喧嘩だ! てめぇら、潰れるまでやれ!」

 俺は立っている連中に襲い掛かった。
 数秒で十数人が昏倒する。
 俺に挑んでくる者はいなかった。
   
 榊が土下座した。

 「許して下さい! 俺たちの負けです!」

 半数が床に倒れる中で、榊が謝った。

 「不甲斐ねぇ連中だな」
 「石神さん、申し訳ありません!」
 
 「こんな道場まで作って、金の無駄だな。今後は俺が一人いればいいんじゃねぇか?」
 
 全員が床に座り、頭を下げていた。
 俺たちは来栖霞に案内され、応接室へ入った。

 


  
 「あんな感じで良かったですかね?」
 「十分過ぎます。まさかあれほどお強いとは」
 「実力は感じてもらえましたか?」
 「はい。石神さんたちにお任せしようと思います」

 お茶が運ばれて来た。
 
 「あの連中は、ロシアの特殊部隊の訓練を受けていたんです」
 「へぇー」
 「何度か空手の有段者やプロの格闘家ともやり合ったんですが。負けたことは無かったんですよ?」
 「あれで?」
 「うちの精鋭だったんです」
 「じゃあ、やめておいた方がいい。俺のようなプロを雇わなきゃ、使い物になりませんよ」
 「そうします」

 来栖霞が俺を真剣に観た。

 「祖父と父を殺していただけませんか?」





 来栖霞が、燃えるような瞳でそう言った。 
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