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太陽界の女 Ⅴ

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 俺と早乙女はタクシーを呼び、帰った。
 
 「石神、引き受けて良かったのか?」
 「ああ」

 来栖霞の祖父と父親の殺害の要望を、俺は引き受けた。
 タクシーの中なので、それ以上は話さなかった。
 早乙女はまた苦しそうな顔をしていた。

 「おい、俺に任せておけよ」
 「ああ」
 
 それだけ言い、俺たちは黙って都内まで乗っていた。
 早乙女の電話が鳴った。
 早乙女が驚いた顔をして俺を見た。

 「石神、事件だ」
 「なんだ?」
 「渋谷だ」
 
 詳しいことは車内では話せないらしい。
 早乙女が運転手に渋谷に向かうように言った。
 俺も黙って任せた。




 渋谷の道玄坂でタクシーを降りた。
 足早に歩き、早乙女が説明した。

 「ビルの地下の飲食店で暴れている奴がいるらしい」
 「それで?」
 「警官が3人やられた。暴れている奴が、とにかく狂暴な上、異常な姿をしていると」
 「「デミウルゴス」か」
 「その可能性が高い。頭に何本も角が生えていると」
 
 前で警官隊がビルを取り囲んでいた。
 渋谷署の警官たちだろう。
 早乙女が上の人間と話して行く。
 俺の所へ来た。

 「今、現場の主導権をもらう。お前と俺とで行くぞ」
 「早乙女は外にいろよ」
 「一緒に行く。俺も自分の目で確かめたい」
 
 先ほど話していた刑事が来た。

 「上から言われた。あんたらに任せろと」
 「分かった」

 俺と早乙女で、地下への階段を降った。
 早乙女がその間に話して行く。

 「太い蛇のようなものに襲われたそうだ。鋭い爪が付いている。それで身体を引き裂かれた」
 「分かった。お前は俺の後ろにいろ」
 
 店のドアが破壊されていた。
 中は薄暗い。
 ダウンライトが幾つか灯っているだけだった。

 何かが這いずる音がする。
 何人かの客らしい人間が床に横たわっているのが見えた。
 全員、身体の下に血だまりがある。

 「早乙女、ドアの脇に控えていろ」
 「分かった。気を付けろ」

 気配はある。
 しかし、おかしい。
 何か所かから、俺に殺気を飛ばしている。
 それも複数の気配ではない。
 同じ人物のものだ。

 突然、後ろからプレッシャーを感じた。
 俺は「螺旋花」で迎え撃った。
 先端が尖った鋭い爪が消失した。

 動物が押し殺されたかのような悲鳴がした。
 俺がその方向を見ると、男が片腕を前に「巻いて」苦しんでいた。
 顔が人間に似ている。
 しかし、カニのような雰囲気がある。
 目が丸く見開かれ、額から目の周囲に外骨格のような突起が覆っていた。
 口周りは人間のものだった。
 両腕が恐ろしく長い。
 しかも蛇のようにうねるように動いていた。

 「プシャー!」

 化け物が何かを叫んだ。
 背中から太い何かが飛んでくる。
 速い。
 俺が避けると、木製のテーブルが粉砕された。
 そのまま俺を追って無数の攻撃を仕掛けて来る。
 俺は「震花」を放った。
 化け物の下半身が消失し、動きが緩慢になった。
 どす黒い液体が拡がっていく。
 腐臭がした。

 俺は化け物の首を掴んだ。

 「お前、喋れるか!」

 「プッシャー!」

 化け物が叫ぶと、徐々に肉体が崩れ始めた。

 「早乙女! 撮影しろ!」
 「分かった!」

 早乙女がスマホで動画を撮影する。
 化け物が完全に崩れた所で、早乙女に警官隊を入れるように言った。
 
 店内は照明を破壊され、警官たちが懐中電灯を大量に持ち込んだ。
 8人の客と5人の店の人間は全員切り裂かれて殺されていた。
 化け物は、ひき肉の塊のようになって、山を築いていた。

 俺は早乙女に、防疫対策をした上で現場を探るように言った。
 未知の病原菌があるかもしれない。
 換気扇を止めさせ、遺体もそのままにさせる。
 防疫防護服を着込んだ人間が調べるはずだ。

 俺は早乙女と現場を離れた。
 皇紀に連絡し、「洗浄」の準備をさせる。
 便利屋にハマーで迎えに来させる。

 40分で到着した。

 俺と早乙女で乗り込んで帰った。
 便利屋は電車で帰る。






 家の庭で裸になり、防護服を着た皇紀に薬品で洗浄させる。
 ブラシで俺たちをゴシゴシとこする。

 「チンコは念入りにな!」
 「アハハハハハ!」

 そのまま裏手に作った施設で紫外線を浴び、また消毒薬で全身を洗浄した。

 「これで大丈夫なはずだが、数日はお前はここにいろ。雪野さんに万一があってはいけない」
 「分かった」
 「恐らく、病原菌は無い。あれは妖魔に乗っ取られた末路だ」
 「なんだと?」
 「「デミウルゴス」は、妖魔の卵だ。体内で妖魔が育つように設計されている」
 「!」

 「どういう機構なのかは分からん。だが、間違いなく「業」の仕業だ。妖魔を人間の体内で育てるものだ」
 「そんなものが!」
 「斬の話を聞いた時から考えていた。人間が化け物になるなんて、妖魔が侵入したと考える方が自然だ」

 俺たちは地下に行った。
 亜紀ちゃんにコーヒーを淹れて持って来させる。

 「お前はどうやって現場の指揮権を貰ったんだ?」
 「西条さんが上層部を動かしてくれた。こういう事態に対応する手段は作っていたんだ」
 「じゃあ、もうすぐお前の「対妖魔部隊」が作れるんだな」
 「努力している。必ず実現させる」

 俺たちは、先ほどの渋谷のことを話した。

 「多分、あの事件も強力な後押しになる」
 
 早乙女が言った。

 「普通の警官では対応出来ないからな」
 「そうだ。日本では拳銃の使用も厳重な管理下にある。まして、発砲したとして、あんなものに通じるかどうか」
 「そうだな」
 「石神のような、超絶な技が必要だ」
 「セクションが作られれば、俺の方で武器も貸せる」
 「頼む」

 数日間、早乙女は俺の家に寝泊りした。
 雪野さんは呼ばない。
 子どもたちは、まあ俺と一蓮托生だ。
 でも、なるべく接しない生活をした。




 三日後。
 来栖霞から早乙女に連絡が来た。
 教祖である祖父と、彼女の父親が俺たちに会いたいと言ってきた。

 「祖父と会う機会は、まずありません。是非いらしていただけませんか?」
 
 早乙女に承諾するように言った。
 俺たちは金曜の晩に、「太陽界」の本部に向かった。
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