上 下
1,110 / 2,808

太陽界の女 Ⅴ

しおりを挟む
 俺と早乙女はタクシーを呼び、帰った。
 
 「石神、引き受けて良かったのか?」
 「ああ」

 来栖霞の祖父と父親の殺害の要望を、俺は引き受けた。
 タクシーの中なので、それ以上は話さなかった。
 早乙女はまた苦しそうな顔をしていた。

 「おい、俺に任せておけよ」
 「ああ」
 
 それだけ言い、俺たちは黙って都内まで乗っていた。
 早乙女の電話が鳴った。
 早乙女が驚いた顔をして俺を見た。

 「石神、事件だ」
 「なんだ?」
 「渋谷だ」
 
 詳しいことは車内では話せないらしい。
 早乙女が運転手に渋谷に向かうように言った。
 俺も黙って任せた。




 渋谷の道玄坂でタクシーを降りた。
 足早に歩き、早乙女が説明した。

 「ビルの地下の飲食店で暴れている奴がいるらしい」
 「それで?」
 「警官が3人やられた。暴れている奴が、とにかく狂暴な上、異常な姿をしていると」
 「「デミウルゴス」か」
 「その可能性が高い。頭に何本も角が生えていると」
 
 前で警官隊がビルを取り囲んでいた。
 渋谷署の警官たちだろう。
 早乙女が上の人間と話して行く。
 俺の所へ来た。

 「今、現場の主導権をもらう。お前と俺とで行くぞ」
 「早乙女は外にいろよ」
 「一緒に行く。俺も自分の目で確かめたい」
 
 先ほど話していた刑事が来た。

 「上から言われた。あんたらに任せろと」
 「分かった」

 俺と早乙女で、地下への階段を降った。
 早乙女がその間に話して行く。

 「太い蛇のようなものに襲われたそうだ。鋭い爪が付いている。それで身体を引き裂かれた」
 「分かった。お前は俺の後ろにいろ」
 
 店のドアが破壊されていた。
 中は薄暗い。
 ダウンライトが幾つか灯っているだけだった。

 何かが這いずる音がする。
 何人かの客らしい人間が床に横たわっているのが見えた。
 全員、身体の下に血だまりがある。

 「早乙女、ドアの脇に控えていろ」
 「分かった。気を付けろ」

 気配はある。
 しかし、おかしい。
 何か所かから、俺に殺気を飛ばしている。
 それも複数の気配ではない。
 同じ人物のものだ。

 突然、後ろからプレッシャーを感じた。
 俺は「螺旋花」で迎え撃った。
 先端が尖った鋭い爪が消失した。

 動物が押し殺されたかのような悲鳴がした。
 俺がその方向を見ると、男が片腕を前に「巻いて」苦しんでいた。
 顔が人間に似ている。
 しかし、カニのような雰囲気がある。
 目が丸く見開かれ、額から目の周囲に外骨格のような突起が覆っていた。
 口周りは人間のものだった。
 両腕が恐ろしく長い。
 しかも蛇のようにうねるように動いていた。

 「プシャー!」

 化け物が何かを叫んだ。
 背中から太い何かが飛んでくる。
 速い。
 俺が避けると、木製のテーブルが粉砕された。
 そのまま俺を追って無数の攻撃を仕掛けて来る。
 俺は「震花」を放った。
 化け物の下半身が消失し、動きが緩慢になった。
 どす黒い液体が拡がっていく。
 腐臭がした。

 俺は化け物の首を掴んだ。

 「お前、喋れるか!」

 「プッシャー!」

 化け物が叫ぶと、徐々に肉体が崩れ始めた。

 「早乙女! 撮影しろ!」
 「分かった!」

 早乙女がスマホで動画を撮影する。
 化け物が完全に崩れた所で、早乙女に警官隊を入れるように言った。
 
 店内は照明を破壊され、警官たちが懐中電灯を大量に持ち込んだ。
 8人の客と5人の店の人間は全員切り裂かれて殺されていた。
 化け物は、ひき肉の塊のようになって、山を築いていた。

 俺は早乙女に、防疫対策をした上で現場を探るように言った。
 未知の病原菌があるかもしれない。
 換気扇を止めさせ、遺体もそのままにさせる。
 防疫防護服を着込んだ人間が調べるはずだ。

 俺は早乙女と現場を離れた。
 皇紀に連絡し、「洗浄」の準備をさせる。
 便利屋にハマーで迎えに来させる。

 40分で到着した。

 俺と早乙女で乗り込んで帰った。
 便利屋は電車で帰る。






 家の庭で裸になり、防護服を着た皇紀に薬品で洗浄させる。
 ブラシで俺たちをゴシゴシとこする。

 「チンコは念入りにな!」
 「アハハハハハ!」

 そのまま裏手に作った施設で紫外線を浴び、また消毒薬で全身を洗浄した。

 「これで大丈夫なはずだが、数日はお前はここにいろ。雪野さんに万一があってはいけない」
 「分かった」
 「恐らく、病原菌は無い。あれは妖魔に乗っ取られた末路だ」
 「なんだと?」
 「「デミウルゴス」は、妖魔の卵だ。体内で妖魔が育つように設計されている」
 「!」

 「どういう機構なのかは分からん。だが、間違いなく「業」の仕業だ。妖魔を人間の体内で育てるものだ」
 「そんなものが!」
 「斬の話を聞いた時から考えていた。人間が化け物になるなんて、妖魔が侵入したと考える方が自然だ」

 俺たちは地下に行った。
 亜紀ちゃんにコーヒーを淹れて持って来させる。

 「お前はどうやって現場の指揮権を貰ったんだ?」
 「西条さんが上層部を動かしてくれた。こういう事態に対応する手段は作っていたんだ」
 「じゃあ、もうすぐお前の「対妖魔部隊」が作れるんだな」
 「努力している。必ず実現させる」

 俺たちは、先ほどの渋谷のことを話した。

 「多分、あの事件も強力な後押しになる」
 
 早乙女が言った。

 「普通の警官では対応出来ないからな」
 「そうだ。日本では拳銃の使用も厳重な管理下にある。まして、発砲したとして、あんなものに通じるかどうか」
 「そうだな」
 「石神のような、超絶な技が必要だ」
 「セクションが作られれば、俺の方で武器も貸せる」
 「頼む」

 数日間、早乙女は俺の家に寝泊りした。
 雪野さんは呼ばない。
 子どもたちは、まあ俺と一蓮托生だ。
 でも、なるべく接しない生活をした。




 三日後。
 来栖霞から早乙女に連絡が来た。
 教祖である祖父と、彼女の父親が俺たちに会いたいと言ってきた。

 「祖父と会う機会は、まずありません。是非いらしていただけませんか?」
 
 早乙女に承諾するように言った。
 俺たちは金曜の晩に、「太陽界」の本部に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...