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蓮花研究所・訓練 Ⅴ

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 千両の屋敷から戻り、俺はまた子どもたちに集団戦をやらせた。

 「十分に時間は与えた。お前ら、今度こそはいい所を見せろ!」
 「「「「はい!」」」」

 麗星が乱入したり、俺があちこち連れ歩いたりした。
 だが、それを言い訳にする奴はいない。
 時間が無かったので負けました、では戦場では通じない。

 最初にアナイアレーターたちとやらせた。
 亜紀ちゃんが初撃で、アナイアレーターたちの前の地面を大きく抉った。
 そのために前へ出ることを一瞬躊躇した。
 双子と柳が飛び出し、亜紀ちゃんは二撃目を撃つ。
 抉れた地面を更にぶっ飛ばした。
 アナイアレーターたちは左右に跳ぶ。
 そこを双子と柳が襲い掛かった。
 外周にいた人間から駆逐される。
 主にハーが防御を担当し、ルーと柳で攻撃するスリーマンセルだ。
 ハーの負担は大きいが、ハーは亜紀ちゃん以上の格闘戦の天才だ。
 ルーも天才だが、ルーはより作戦立案能力に傾く。
 だから二人が揃っての悪魔的狡猾な攻撃が恐ろしい。
 亜紀ちゃんは攻撃力は強大だが、まだ千変万化する格闘戦では一段落ちる。
 他の子どもたちを遙かに上回る力とスピードで圧倒するが、今回のような出力の上限がある場合、スピードだけでは回し切れない。

 羅刹が飛び出して来た。
 奇襲的な子どもらの作戦も限界に達し、アナイアレーターたちが態勢を整えた証拠だ。
 亜紀ちゃんが移動し、羅刹が追う。

 突然、羅刹の身体が消えた。

 「ガァーッハッハッハッハァー!」

 亜紀ちゃんが獰猛に笑った。
 俺も笑った。
 落とし穴だった。
 あいつら、事前に仕込んでやがった。
 亜紀ちゃんは穴の上方を「震花」で崩し、羅刹を埋めた。
 他のアナイアレーターたちが驚愕している。
 その隙に双子と柳が猛攻し、亜紀ちゃんも加わって全員を倒した。
 ようやく穴から這い出して来た羅刹を、四人でフルボッコにする。

 「お前ら! ようやく「戦場」が分かって来たようだな!」
 「「「「はい!」」」」

 アナイアレーターたちも笑った。
 発想にないことで負けた。
 
 「戦場では「寡兵よく大軍を破る」と言う。少数の兵力は必死に戦う。だから思いもよらぬ作戦を思いつき、各々が死力を尽くして挑む。大軍はそれに比較すると、甘くなるんだな。先日、一度手の内を見せているのにまた同じ姿勢でやろうとしたことが、アナイアレーターの今日の敗北だ」
 『はい!』

 全員が大声で返事した。
 身に染みたのだろう。

 「お前たち! よくやった!」
 「「「「はい!」」」」

 「では次にミユキ、前鬼、後鬼と対戦だ。また作戦はあるのか?」
 「いえ。三人には実力に圧倒的な差があります。胸をお借りするつもりです!」

 亜紀ちゃんが応えた。

 「そうか! 存分にやれ!」
 
 何か作戦があるらしい。
 まあ、俺がそれに乗ってやった。
 俺は蓮花を背中に回した。
 圧を感じる。

 開始と同時に、亜紀ちゃんたちは空中へ舞い上がった。
 両者で「震花」を撃ち合うが、亜紀ちゃんたちが移動し、地面へ近づく。
 ミユキたちが追って来る。
 亜紀ちゃんが地面に「轟雷」を撃った。
 爆発する。
 RDX(高性能爆薬)だ。
 ミユキたちは前鬼がガードして二人を爆風と破片から守った。
 その瞬間、三人は一斉に襲われて倒された。

 「「「「ガァーッハッハッハッハァー!!!!」」」」

 四人が大笑いしていた。
 訓練場には、直径20メートルの大穴が空いた。
 俺はアナイアレーターとミユキたちに訓練場の整地を命じ、亜紀ちゃんに他の仕掛けを言わせた。
 20の落とし穴があり、もう一か所に地雷原を作っていた。
 整地の間、亜紀ちゃんたちに紅茶とケーキを振る舞った。
 
 「午後の訓練では、もう仕掛けは使わせないぞ」
 「はい、大丈夫ですよ」

 亜紀ちゃんが笑って言った。
 四人でロボと遊び、ティーグフに乗って楽しんだ。

 ミユキたちとアナイアレーターは格闘訓練をしたが、俺と子どもたちは昼食の支度をする。
 ハンバーグ大会だ。
 俺はバスサミコソースとワサビソースで蔦模様を全員の皿に描いた。
 大量に作られるハンバーグに、蓮花が嬉しそうに笑っていた。
 全員が大食堂に集まる。

 「皿の模様は、悪いが最初のものだけだ。俺が面倒だからな! ハンバーグは幾らでもある! 存分に喰ってくれ!」
 『はい!』
 「「「「はい!」」」」

 賑やかな食事が始まる。
 ブランたちは、皿の模様を大事に使って行った。

 「お前ら、まさか食事にまで何か仕込んでねぇだろうなぁ」
 「あ!」
 「あるのかよ!」

 俺は止めようとした。

 「いえ! その発想が無かったので」
 「タカさんって、本当に悪人だよねー」

 亜紀ちゃんとルーが言った。

 「俺は訓練場にRDXなんか仕込まねぇ!」
 「「「「アハハハハハ!」」」」

 俺も笑った。

 「ルーの発案か?」
 「はい!」

 俺がルーに親指を立ててやると、ルーが喜んだ。

 「まあ、仕込める戦場は少ないけどな。でも都市防衛では、ああいう発想は重要だ」
 「でも、出来ることはどんどんやってもいいんだよね?」

 ルーが言う。

 「その通りだ。戦略は全て「仕込み」だ。相手の意表を突くこと、相手が嫌がることをやるのが戦闘だ。初日の戦闘では、お前らがその「仕込み」に負けたということだな」
 「うん。真っ当に考えすぎてた」
 「それとな。お前らが個体だったということが大きい。集団が一つの機構として動けないから、大きな機構に負けたわけだ。ルーを中心に動けるようになったお前らは、あそこまで強くなったということだ」
 
 「タカさん」

 亜紀ちゃんが言った。

 「午後も期待して下さいね!」

 全員に聞こえるような大きな声で言った。





 
 
 午後も同じ訓練場で格闘戦をやる。
 
 最初にまた、アナイアレーターと子どもらを対戦させる。
 アナイアレーターたちの動きが鈍い。
 罠を警戒している。
 
 亜紀ちゃんと双子が突っ込み、柳が後ろから砲撃した。
 集団が拡がり、三人を取り囲もうとする。
 中央から羅刹が向かっていく。
 柳が「槍雷」を放ち、亜紀ちゃんが身体を移動した。
 「槍雷」が羅刹に突き刺さる。
 射線を亜紀ちゃんが隠していたのだ。
 蹲る羅刹に、一挙に三人が襲い掛かった。
 他のアナイアレーターたちの攻撃はほとんどかわさない。
 攻撃を受けながら、最初に羅刹を潰した。

 三人への攻撃は、柳が支援射撃で防いでいく。
 有効打はほとんどなく、三人はまた周囲の連中を潰して行った。
 柳は帝釈と大黒を中心に砲撃する。
 徐々にアナイアレーターたちは少なくなり、やがて全員が沈んだ。


 「「「「ガァーッハッハッハッハァー」」」」

 四人が大笑いしていた。


 一旦、休憩を挟んだ。

 子どもらにも、結構なダメージがあったためだ。
 蓮花が特別なスムージーを作って全員に飲ませた。
 全員がたちまち復活する。

 「何が入ってんだよ、アレ?」
 「秘密でございます」
 「聞かない方がいい系?」
 「はい」

 蓮花は漢方と薬学の達人だ。
 俺も飲むこともあるだろうから、聞かないでおいた。

 続いて、ミユキたちと子どもたちで対戦する。
 アナイアレーターたちとの対戦は、俺と聖の戦闘スタイルだった。
 突っ込む俺が亜紀ちゃんたちで、後方支援の聖の担当を柳がやった。

 基本的に同じスタイルで亜紀ちゃんたちが挑んだ。
 しかし、今回は双子が途中で残り、亜紀ちゃんが単身で突っ込む。
 だが回転数が足りず、亜紀ちゃんの劣勢が明白になる。
 三人の支援砲撃でダメージは軽微だが。
 ハーがルーの指示で突っ込む。
 二人のアタッカーに、二人の後方支援だ。
 ましになったが、今度はダメージを受け始めた。
 ミユキたちもダメージを負っているが、防御プレートを着込んでいる分、亜紀ちゃんたちが不利だった。

 「桜花!」

 ルーが叫んだ。
 亜紀ちゃんと双子がスピードを上げて一人一人に突っ込んで行く。
 防御を捨てている。
 その代わりに、強烈な攻撃で圧倒していく。

 三組が離れた位置で倒れた。
 六人とも動かない。

 「や、やったぁー!」

 柳が手を挙げて飛び跳ねた。
 その時、ミユキがよろけながら立ち上がった。
 ルーの攻撃が少し足りなかった。

 「やだぁーやだぁーやだぁー!」

 柳が「槍雷」で集中攻撃する。
 ミユキが倒れた。

 「石神さーん!」

 柳は半泣きだ。
 怖かったのだろう。

 「よし! それまで!」

 六人を俺が処置し、蓮花はまた別なスムージーを作って来て飲ませた。





 全員を広間に集める。
 蓮花が画像データを整理している。

 「帝釈! 今日の午前の戦闘で感じたことを言え!」
 「はい! 午前のトラップは見事でした。あれはまったく予想外のことで、対応が出来ませんでした」
 「そうだな。最初の地面の爆破し、お前たちに「安全な場所」を想定させた。どこに立てばいいのか、ということだ。それに誘導され、羅刹が穴に落ちた。そこからはお前たちの連携がボロボロになって負けた」
 「はい!」

 「ミユキ! お前はどう見た?」
 「はい! 最初にトラップを警戒しました!」
 「そうだな。それで若干の動きの鈍さを呈した」
 「はい! ですがそれも勝手に落とし穴やその展開の範囲だと思い込んでいました! まさかあんな大規模な爆発物を仕込んでいたとは」
 「アハハハハハ! その通りだな」
 「あの爆発で、一挙に混乱し、瞬時にやられました」
 「ああ、そうだ」
 「あれが「業」との戦闘であったらと、背筋が寒くなります。亜紀様たちには、感謝しております」
 「分かった」

 ミユキが子どもらに頭を下げた。
 全員がそれに倣う。

 「大黒! 午後の戦闘はどうだった!」
 「はい! まず最初にトラップを警戒しました」
 「なぜだ! 俺がお前らに整地させ、子どもらにもトラップの場所を白状させただろう?」
 「はい! 食堂で亜紀様が「午後も期待して下さい」とおっしゃっていました。ですので、まだ何かあるのかもしれないと」
 「それは、子どもらが考えたディス・インフォメーションだ。偽の情報、混乱させる情報を相手に渡したんだな。あそこからもう戦闘は始まっていたんだ」
 「なるほど!」
 「指揮官が騙され、お前たちは行動を制限され、結果として敗北した。離れた砲台を撃破すれば優位になったが、お前たちはトラップを警戒し、目の前の三人しか攻撃しなかった。砲撃を自在に撃たせてしまった」
 「はい!」
 「それと、あのスタイルは俺のスタイルなんだ。優秀な後方支援を利用しながら特攻していく、というな。その戦略で、最初に羅刹を潰されたのが、お前たちの最大の敗因だ」
 「はい! 分かりました!」

 「後鬼! 午後の戦闘を講評しろ!」
 「はい! 我々もトラップについては警戒していました」
 「なるほど」
 「そのために、最初に既に戦闘の主導権を握られてしまいました。そのことで、亜紀様たちの思うままの展開に。戦闘力では劣っていなかったつもりですが、主導権のために敗北しました」
 「そうだな、お前たちは終始振り回された。最後の特攻で相打ちになったが、柳が生き残った。お前たちの敗北だ」
 「はい!」

 「戦争は、何をやってはいけないということはない! 勝てば全てだ。負ければ間違っていた、ということだな。そのためには、実際の戦闘以外でも有効だ。情報は特に重要だ。様々な戦史と戦略を頭に叩き込め!」
 『はい!』

 「それと、最後の戦いは勝利条件を示したものだ。最後に立っている者がいた方の勝利になる。全てが死に絶え、焼け野原になってもな。だがそれは最終手段だ。そうだな、ルー!」
 「はい! 最初はあの作戦で勝つつもりでした。ミユキさんたちが予想以上に硬かったので、仕方なく」
 
 「見事だった! 褒美に俺のオチンチンをやろう!」
 「え、いいです」

 みんなが笑った。

 「わ、私、欲しいです!」

 柳が言った。
 
 「冗談だ、バカ!」

 またみんなが笑った。

 柳が真っ赤になって座った。 
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