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蓮花研究所・訓練 Ⅳ

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 翌朝。
 みんなで食堂で朝食を食べる。
 蓮花が俺たちの食事を賄ってくれている。
 ブランたちは、自分たちで基本は作っている。
 蓮花も、手をなるべく空けて、ブランたちのために作ろうとしている。
 今は俺たちがいるので、こちらに集中しているが。

 「このみりん干しは美味しいですね!」

 麗星が大声で言った。
 すでに三杯食べている。
 流石だ。
 子どもたちが、ヘンな顔で麗星を見ている。
 本当は俺もそうしたいが、俺はニコニコと眺めていた。

 「じゃあ、この後で駅まで送りましょう」
 「え?」
 「麗星さんもお忙しいんですから」
 「いいえ、別に?」

 図太い。

 「あのね、麗星さん。俺たちはここに訓練のために来ているんです」
 「はぁ」
 「だからね、外部の人間にはお見せ出来ないんですよ。大体ここへお連れすることだって問題があるんです」
 「さようでございますか」

 図太い。
 俺は最終手段を取った。

 「タヌ吉!」

 着物姿のタヌ吉が、廊下から部屋へ入って来た。
 突然に目の前に現われないのは、俺に人間扱いをして欲しいためだろう。
 「あやかし」が風呂に入りたがるなんて、あり得ない。

 「御呼びでございましょうか、主様」
 「麗星さんを御送りしてくれ。丁重にな!」
 「かしこまりました」

 「あの! 石神様!」
 「なんですか?」
 「わたくし、一人で帰れますから!」
 「いいえ、ご遠慮せずに。《地獄道》経由ならば、あっという間でしょうから」
 「そ、それだけは!」

 相当恐ろしいものを見たらしい。
 「あやかし」の専門家が、こうも怖がっている。

 「なら、やはり俺が送りましょうか?」
 「そうして下さいませ!」

 麗星は、更に二杯お代わりをした。




 麗星を高崎駅まで送りながら、俺は子どもたちを斬の屋敷へ連れて行った。
 チャイムを鳴らす。

 「よう!」
 「何でお前はいつも連絡をしないで来るんだ」
 「嫌がらせに決まってるだろう!」
 「……」

 俺たちは中へ入った。
 いつもの女性が茶と羊羹を出して来る。 

 「お前んちって、いつも羊羹な」
 「他のが良ければ連絡しろ!」
 「でも、羊羹だけは切らさないんだな?」
 「雅の好物だった」
 「あ?」
 「……」

 今も待っているのかもしれない。
 亜紀ちゃんが土産を渡した。

 「初めてだな」
 「うるせぇよ」

 鈴伝の栗菓子だ。
 御堂と塩野社長たちにしか持って行かない。
 俺の好物だ。
 俺は目の前で包みを開き、何粒か口に入れた。
 やはり美味い。

 「……」

 「今日も道場でやってるのか?」
 「ああ、後で案内する」



 道着に着替えて道場へ向かった。
 道場では、千万組の人間が組み手をしていた。
 俺たちが入ると、一斉に止まり、礼をした。

 「石神さん!」

 桜が駆け寄って来た。

 「おう! 元気そうだな」
 「はい! お陰様で」

 ハイキックをかますと、桜が左腕で受けた。
 それで、現在の仕上がりが分かった。

 「蓮花の所に来たんで顔を出した。後でご馳走になるな」
 「はい! もうみんなお待ちしてます!」

 俺たちは隅に離れ、組み手を見ていた。
 しばらくして、俺は立ち上がって叫んだ。

 「敵襲!」

 全員が俺を見る。

 「柳、行け!」
 「はい!」
 「お前ら! 柳をレイプしろ!」
 『オス!』
 「石神さん!」

 柳に50人の男が一斉に飛びかかる。
 柳は必死に応戦した。

 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとー!」

 男たちは次々に柳にぶっ飛ばされていくが、一人の男が道着の上を掴んだ。
 道着がめくれ、柳の下着が露わになった。

 「あれ、お前シャツ着てねぇの?」
 「道着なんて初めてですよー!」

 柳が上着を直しながら叫ぶ。
 その間も男たちが襲い掛かり、ついに諦めて応戦していく。

 「亜紀ちゃん、教えてねぇの?」
 「うっかり!」
 「柳、がんばー!」
 「石神さーん!」

 五分ほどで全員がのされた。
 柳は半泣きで戻って来る。
 こいつは、そういう星の人間だ。

 「斬! いい仕上がりだな」
 「ふん! まだまだじゃ」

 男たちはニヤニヤしながら、床に転がっていた。
 





 千万組の鍛錬を観終わり、俺たちは着替えた。
 桜をハマーに乗せ、千両の屋敷へ向かう。

 「お前ら! ヤクザの家だ! 喰い尽くせ!」
 「「「「はい!」」」」

 桜が笑った。

 門番は俺のハマーを見てすぐに門を開けた。
 桜に案内され、広間に入る。
 100人ほどの黒服や着物の男たちが、俺たちを迎えた。
 桜の号令で、全員が平伏する。

 「お前らぁ! まだおめおめと生きてやがったかぁー!」
 『オス!』
 「まあ、身体は大事にな!」

 全員が笑った。
 男たちの膳は既に用意してあった。
 俺たちが座ると、次々に食事が運ばれて来た。

 牛肉はもちろんだが、今回はイノシシや馬肉、鹿肉なども多くあった。
 普段食べないだろうものを用意されていた。
 まあ、双子はよくイノシシを食べているが。

 牡丹鍋や馬刺し、鹿肉のステーキなどに、子どもたちが喜ぶ。
 一通りの食事が、俺たちから離れた膳にも盛られていた。
 子どもたちも気付いているが、何も言わなかった。
 ただ、時折そちらを見て微笑んだ。


 「お前ら! 柳をレイプしろ!」
 「石神さん!」

 みんなが笑った。
 道場にいた何人かの連中が、他の人間に耳打ちし、あちこちで笑いが起こった。
 何人かが酒を注ぎに来る。

 「昼間から酒を飲む奴は人間のクズだ!」
 「石神さん、自分が送りますから」

 桜が言った。

 「そうなの?」
 「はい」

 俺はジャンジャン飲んで食べた。
 双子がイノシシやシカ肉を生で持って来させた。
 みんなの前で「電子レンジ」で焼く。
 それをカットして振る舞った。

 「あたしたちは、慣れてるからね!」

 ルーが自慢げに言う。
 確かに美味かった。
 焼き加減に工夫がある。

 「みんな! 今度キャプいこ?」
 「はい、喜んで!」

 多くの男たちが言った。
 俺も止めなかった。
 双子もキャンプ仲間が増えて嬉しそうだった。
 亜紀ちゃんと柳は聞こえない振りをして黙々と食べていた。
 特に亜紀ちゃんは大人気で、次々と酒を注がれている。
 隣の柳も強いんだと言われ、嬉しそうだ。

 子どもたちは悪魔のように食べた。
 その中で柳も信じられないほどに喰う。

 「千両、ありがとうな」
 「いいえ」
 「子どもたちの喰いっぷりを見れば分かる。お前たちが本当に歓待して用意してくれたことがな」
 「とんでもございません」
 「見ろよ、楽しそうだ」
 「はい」

 子どもたちが、笑顔で食べている。
 いつもよりも食べているはずだが、まだ収まらない。
 どこまでも食べられるように準備されているのが分かるのだ。
 うちの子らは、そういう食べ方をする。
 嬉しくて堪らないのだ。

 


 散々喰い散らかし、帰ることにした。
 俺はハマーから一振りの短刀を出し、千両に渡した。

 「これは?」
 「「虎王」の若打ちらしい。見事な短刀だ」
 「そのようなものを!」
 「今日の礼には到底及ばない。すまない」
 「石神さん、そんなことは!」
 千両がいつになく慌てている。

 「子どもたちが、あんなに嬉しそうに笑っていた」
 「いえ、そんな」
 「今の俺たちが、あんなに笑うことがな。それをお前がやってくれた」
 「石神さん……」
 「ありがとう、千両」
 「はい」

 「ところで、お前は「虎王」がどのような刀だと思う?」
 「はい。恐らく、信ずれば何でも斬れるのだと」
 「俺もそう思う」
 「若打ちは限度もあるでしょうが、石神さんの真「虎王」はまさしく」
 「ああ。この「虎王」は突然うちに送られて来たんだ」
 「それは?」
 「相手は分からん。送り元は完全な偽名だったからな」
 「そうですか」
 「お前に預ける。存分に使ってくれ」
 「かしこまりました」

 「みんな、身体を大事にな!」

 全員が腰を折る。

 「昼間から酒なんか飲むなよ!」

 全員が笑った。
 俺たちは桜の運転で出発した。




 「石神さん、わざわざ自分らの所までありがとうございました」
 「いいよ。一食分、浮いたからな!」

 桜が嬉しそうに笑った。
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