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別荘の日々: レイも一緒 Ⅸ

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 俺が話し終えると、みんな黙っていた。

 「おい、終わったぞ」

 「石神さん、すみませんでした」
 レイが言った。

 「なんだよ、レイが謝ることは何も無いだろう」
 「いいえ、私は安易に石神さんの辛い思い出に踏み込んでしまいました」

 「よせよ! そりゃ楽しいだけの思い出じゃないけどな。でも、俺はあのお陰で今こうして医者をやってるんだからな。その原点だよ」
 「でも……」

 「レイ、思い出はみんな悲しい、辛いものなんだ。前に子どもたちにはそう言っているよな?」
 「「「「はい!」」」」

 「みんな死ぬんだよ。それでいいんだ。俺はジョディもチャップも思い切り生きて、良く死んで行ったと思うぞ」
 「はい」
 
 レイの肩を抱き寄せた。

 「レイだって、あの時死にかけたじゃないか」
 「はい」
 「もしも死んでいたら、いつか俺やこいつらがレイの生き様死に様を誰かに語るよ。素晴らしい女がいたんだと。みんな聞いてくれってなぁ」
 「「「「はい!」」」」

 「石神さん!」

 「死ぬことは悪いことじゃない。絶対にな。もしも悪いことなんだったら、俺たちは生きている意味がねぇ。死んでもいいから、こうやって胸を張って生きているんだ」
 
 「はい!」

 俺はレイを離し、飲めと言った。

 「石神さん、今のお話は「資料」に付け加えてもいいですか?」
 「ああ、構わないよ。レイに話したこと、レイが知ったことは、自由に扱ってくれ。不味いと思えばそう言うしな」
 「ありがとうございます!」




 「ああ、じゃあちゃんと話しておくか。スペツナズを撃破して、俺たちは戦場を離れた。それ以上やれば、本格的に米ソの衝突になるからな。その後、ニカラグアは内戦を経て、政府と反政府勢力が融合し、民主国家になった。ソ連は完全に撤退したんだ」

 みんなが俺を見ている。

 「まあ、俺たちの軍事教練を出発として、反政府ゲリラがどんどん強くなっていったせいだな。そして「イラン・コントラ事件」が起きる。誰か説明できるか?」

 誰も何も言わないので、レイが説明した。

 「イラン・イラク戦争で、国交を断絶していたイランに武器を輸出しました。レーガン大統領の時です。その売却資金が、密かにニカラグア反政府ゲリラに流れました。後にそのことが発覚し、世界中を驚かせました」

 「ああ、よくまとまっているな。その通りだ。その資金の中から、俺たちの報酬が支払われた。だから形式上は、俺たちは反政府ゲリラから報酬を得たことになっている。でも、実際はアメリカ国家からだ。CIAが窓口になってな」

 「じゃあ、タカさんは歴史的な事件に関わっていたということですか!」
 皇紀が言った。

 「そう、偉いようなものじゃないけどな。一傭兵として、俺も聖も関わっていたとも言えるか」
 「すげぇー!」

 俺は笑って皇紀の頭を撫でてやった。

 「別に「ニカラグアを救え!」なんてものじゃ全然ないからな。金だよ、お金!」

 みんなが笑う。

 「よし! じゃあ今夜はここで解散だ。まあ、残りたい奴は自由にやれ」
 「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」

 皇紀と双子が空いた皿を持って降りる。
 またレイ、亜紀ちゃん、柳が残った。




 「柳、疲れてないか?」
 「大丈夫です!」

 俺は笑いながら、傍へ来いと言った。

 「タカさん、私やっぱり聖さん、好きです」
 「そうか」
 「流石はタカさんの親友です!」
 「そうだな」

 「聖さんの会社は、ロックハートでもよくお世話になってます」
 レイが言った。

 「ああ、知ってる。俺も一度、中東に付き合って行ったな」
 「そうなんですか!」

 俺はあるミッションの話をした。

 「あの作戦に、石神さんもいたんですね!」
 「ああ。まだ聖の会社も小さかったからなぁ」
 「「チャップマンPMC」を主に使ってましたが、徐々に「セイントPMC」をよく使うようになりました」
 「今後とも宜しくお願い致します!」

 俺が頭を下げると、レイが笑った。

 「タカさんは、聖さんと一緒にニューヨークのジャンニーニさんの屋敷に乗り込んだんですよね!」
 亜紀ちゃんが楽しそうに言った。

 「ああ、そうだ。支払いをばっくれやがったからなぁ。聖が俺に泣きついて来たんだ」
 「そうなんですか」

 「タカさん、聖ってバカだけど、よく社長なんで出来るよね?」
 残りの皿を取りに来たルーが言う。

 「あいつはバカだけど、社長業には向いてるんだよ」
 「どういうことですか?」
 「こと戦闘に関しては天才だからな。そういう仕事なら大得意だ。経営なんていうのは専門家を雇えばなんとでもなる。問題は仕事への嗅覚とセンスだ。聖が受けて出来なかった仕事は無い。その信頼が、あの会社を大きくしたわけだな」
 「なるほど!」

 「聖は戦闘に関してはオールマイティと言うかな。個人の戦闘力ももちろん高いし、他にも兵站の運用でも作戦立案でも訓練でも、何でも超一流だ。訓練の実力は亜紀ちゃんもルーもよく知ってるだろ?」
 「「はい!」」

 「しかも、底抜けに優しい奴だ。社員はみんな聖が大好きなんだよ」
 「えぇー!」
 ルーが驚いたが、少し考えて何か思い当たったらしい。

 「ま! 私とハーは大嫌いんだけどね!」

 俺は笑って早く寝ろと言った。




 「タカさん! そういえば思い出しました! 「奈落」のことを、聖さんは「テンペスト」って言ってたんですよ。あれってどういうことですかね?」
 亜紀ちゃんが言った。
 ニューヨークで亜紀ちゃんは聖からその技を教わった。

 「あれはな、最初は「テンペスト」だったんだ。「嵐」という意味だよな。だから俺がそう名付けた。聖に覚えさせるのが大変だったぜ。だからシェイクスピアの作品だとか、いろいろ結びつけてやっと名前を覚えた」
 「アハハハハ!」

 「その後で何度か俺たちで実戦で使ったんだよ。ニューヨークのチンピラとかな。そうしたところ、嵐よりも「奈落」ってイメージがしっくりするんだよな。誰であっても、撃ち始まれば転落する、というな。だから聖に名前の訂正をしたんだけど、もう無理だった」
 「「「アハハハハハ!」」」

 「お前はもうそれでいいよってことでな。今でも聖は「テンペスト」なんだ。まあ、どうせ俺たちだけの技だからどうでもいいんだけどな」


 「私も聖さんに会ってみたいな」
 柳が言った。

 「機会があればな。でもとんでもねぇバカだぞ?」
 
 亜紀ちゃんがいろいろと話し、柳とレイが爆笑した。

 「こないだ来てもらって、世話になって空港まで見送ったんだよな」
 「はい」

 「テンガを忘れたって言うから貸したのよ」
 亜紀ちゃんがテンガの説明を柳とレイにした。
 二人とも眉を潜めた。

 「そうしたらよ、洗わねぇで手荷物に入れてやがった」
 「「「え!」」」

 「空港の手荷物検査で出されて、中からドローって」
 「「「イヤァー!」」」

 「あいつ、「悪い持って帰って!」って俺を呼ぶんだよ。走って逃げたぜ!」
 「「「アハハハハハハ!」」」

 「な、柳。スゲェだろ?」
 「はい! よく分かりました」

 「でも、石神さんも持ってたんですね?」
 「いや、レイ! 違うんだ! あれは聖のために買って来いって六花に言ったら、なんか俺の分までね」

 「でも、タカさんも使ってましたよね?」
 「おい、何を言う!」

 みんなで笑った。




 また深夜まで楽しく話した。
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