749 / 2,840
トラ&亜紀:異世界転生 XI
しおりを挟む
50ほどの平屋の建物。
数人が歩いていた。
声を掛けると、患者の家族の者だそうだ。
動けない患者たちのために、彼らが食事などの世話をしているらしい。
感染する可能性もあるが、大事な家族や仲間を放っておけないという優しい人間たち。
俺は一人の猫人族の男性に声を掛け、そういう事情を聴いた。
俺は手近な建物へ入った。
4人が臥せっている。
一人の顔が黒い。
俺は近づいて胸元の毛を探った。
やはりそうだった。
獣人族は顔と手足の先にだけ体毛が無い。
肘から手首にかけて。
その先はまた体毛がある者も多い。
ラーラは顔が黒くなると言っていた。
しかし、正確には全身に皮膚が内出血を起こす。
これはペストだ。
俺は前回の異世界召喚で、この世界と地球の病気が似ていることに気付いていた。
人体構造が似通っているのだから、それも当然かもしれない。
ペストまであったとは。
俺は四人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
幸い、手応えはあった。
先ほどの男性を見つけた。
「俺の治癒魔法が有効なようだ。これからすべての建物を回るから、その前に君たちにもやっておきたい」
「ほんとうですか!」
「ああ。ただ全員を助けられるかは分らん。俺も初めてのことだしな」
「ありがとうございます!」
「早速で申し訳ないが、世話をしている人たちを集めてくれ。俺はあっちの建物から順に回って行くから」
「分かりました! 宜しくお願いします!」
男性は走って行った。
俺は三つ目の建物を終える頃、出口に10人程の男女が集まった。
「君たちは素晴らしいな。自分が死ぬかもしれないのに、こんな場所で働くなんて」
「いえ。家族や仲間が大事なのは当然ですから」
「親方が死んじゃったら、どうせあたしも生きてられないんですよ」
「子どもが……」
「妻は……」
それぞれに語り、泣いた。
俺はその場で「エクストラ・ハイヒール」を全員にかけた。
「あぁ! 身体が軽くなったぁ!」
「本当だ! あの、是非全員にお願いします!」
俺が全部の建物を回ったのは、夕方だった。
十数人が、既に死んでいた。
俺は世話をしている男女に断り、空いた場所に窪みを作り、遺体を焼いた。
「申し訳ない。感染を止めるためには仕方ないんだ」
「いいんです。私たちも何度もここに埋めてますから」
ペストの潜伏期間は数日から一週間だ。
その間は入る者はともかく、誰も外へは行けない。
それに、治癒した者たちも、この後どうなるのか分からない。
翌日、俺は風呂を作った。
獣人族は風呂を嫌うが、一度清潔にしなければならない。
中には排泄物で汚れている者も多い。
風呂場の隣に、大きな洗濯場を作り、全ての布を煮沸消毒する。
消化の良い食事を作る。
ベッドを一度外に出し、紫外線消毒をする。
家屋の中を消毒する。
水を撒いての高温蒸気だ。
そうしている間にも、続々と新たな患者が運ばれてきた。
門の前に寝かされ、世話係の者たちが中へ運んでいく。
俺は患者を運搬した人間に「エクストラ・ハイヒール」を掛け、亜紀ちゃんと王宮の誰かを寄越すように伝言を頼んだ。
街での感染も対策しなければならない。
初日にいた患者98名のうち、1名が死んだ。
残る97名は徐々に健康を取り戻していく。
中には翌日に立てる者もいた。
獣人族は体力がある。
夕方に、亜紀ちゃんが王宮の人間を連れて来た。
幸いに、病気の鑑定が出来る者のようだ。
医療の知識もある。
「タカさん!」
「おう! 大丈夫だ。「エクストラ・ハイヒール」が有効だった。今、中の消毒をやってる」
「そうですか! 良かった!」
王宮の人間はトラジークと言った。
亜紀ちゃんの表情が硬い。
俺の子孫なのだろう。
「ご先祖様!」
「今ややこしいことを言うな!」
亜紀ちゃんが睨んでいる。
「いいか、これから街の対策を指示する。まずはネズミの殲滅だ。この病気は主にネズミ、それとげっ歯類だ」
「げっしるい?」
「後で亜紀ちゃんに聞け! ネズミのノミで感染する。いいな?」
「分かりました!」
「それと、しばらく街の内外の出入りは禁止だ。どうしても出なければならない者は、お前が鑑定して許可を出せ」
「はい!」
「首都内の感染者の詳細を調べろ。全戸を回るんだぞ!」
「はい!」
「人数は決まった50人程度でやれ。大変だがな。そいつらは毎日ここへ来させてくれ。俺が感染を防ぐ」
「はい!」
「それと、他の街や村の様子を調査しろ。調査に出る奴も念入りに鑑定だ。もちろん帰って来た時もな!」
「はい、必ず!」
「ここが片付いたら、俺は街の人間全員を相手にする。その準備と手配を頼む」
「はい!」
「俺たちで必ず感染を止めるぞ!」
「はい!」
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「ネズミの駆除を手伝ってやってくれ。そして毎日鑑定を受けろ」
「はい!」
首都での感染の状況によっては、俺も出なければならない。
亜紀ちゃんは「ハイヒール」までしか使えないためだ。
俺は空間収納から食料を出し、世話係に食事を頼んだ。
首都の人口は約20万人。
既に4万人が感染し死んでいる。
アウトブレイクだ。
恐らく、この隔離場へ来る前に大勢死んでいるのだ。
既に周辺の町や村にも広がっている可能性が高い。
基本的に、村・町単位で独立して生活しているので、それほどの出入りは無いはずだが。
それでも商人の行商や、一部の旅人の出入りはある。
翌日の午後。
亜紀ちゃんと王宮の役人が来た。
「地区単位で係を決めて調査を始めています」
「そうか。途中経過はどうだ?」
「思わしくありません。30の地区で、既に1割の感染者が出そうです」
「分かった。患者は一か所に集めておいてくれ。俺が回る」
「ありがとうございます。それと、今朝各町村に調査員を派遣しました」
「鑑定はしているな?」
「はい。数日で戻るはずです」
「ネズミは?」
「下水道から始めています。「轟雷」を使ってますけど」
亜紀ちゃんが報告する。
「ああ、いいよ。臭いが大変だけど、頼むな」
「はい!」
「じゃあ、俺は出るぞ。基本的に患者と一緒にいるからな」
「では、連絡員を付けます」
「ああ、頼む。俺に近づかないようにな」
「かしこまりました」
俺は亜紀ちゃんと役人に離れるように言い、外へ出た。
役人を先に歩かせ、地区の収容場所に案内させる。
ペストとの戦いが始まった。
数人が歩いていた。
声を掛けると、患者の家族の者だそうだ。
動けない患者たちのために、彼らが食事などの世話をしているらしい。
感染する可能性もあるが、大事な家族や仲間を放っておけないという優しい人間たち。
俺は一人の猫人族の男性に声を掛け、そういう事情を聴いた。
俺は手近な建物へ入った。
4人が臥せっている。
一人の顔が黒い。
俺は近づいて胸元の毛を探った。
やはりそうだった。
獣人族は顔と手足の先にだけ体毛が無い。
肘から手首にかけて。
その先はまた体毛がある者も多い。
ラーラは顔が黒くなると言っていた。
しかし、正確には全身に皮膚が内出血を起こす。
これはペストだ。
俺は前回の異世界召喚で、この世界と地球の病気が似ていることに気付いていた。
人体構造が似通っているのだから、それも当然かもしれない。
ペストまであったとは。
俺は四人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
幸い、手応えはあった。
先ほどの男性を見つけた。
「俺の治癒魔法が有効なようだ。これからすべての建物を回るから、その前に君たちにもやっておきたい」
「ほんとうですか!」
「ああ。ただ全員を助けられるかは分らん。俺も初めてのことだしな」
「ありがとうございます!」
「早速で申し訳ないが、世話をしている人たちを集めてくれ。俺はあっちの建物から順に回って行くから」
「分かりました! 宜しくお願いします!」
男性は走って行った。
俺は三つ目の建物を終える頃、出口に10人程の男女が集まった。
「君たちは素晴らしいな。自分が死ぬかもしれないのに、こんな場所で働くなんて」
「いえ。家族や仲間が大事なのは当然ですから」
「親方が死んじゃったら、どうせあたしも生きてられないんですよ」
「子どもが……」
「妻は……」
それぞれに語り、泣いた。
俺はその場で「エクストラ・ハイヒール」を全員にかけた。
「あぁ! 身体が軽くなったぁ!」
「本当だ! あの、是非全員にお願いします!」
俺が全部の建物を回ったのは、夕方だった。
十数人が、既に死んでいた。
俺は世話をしている男女に断り、空いた場所に窪みを作り、遺体を焼いた。
「申し訳ない。感染を止めるためには仕方ないんだ」
「いいんです。私たちも何度もここに埋めてますから」
ペストの潜伏期間は数日から一週間だ。
その間は入る者はともかく、誰も外へは行けない。
それに、治癒した者たちも、この後どうなるのか分からない。
翌日、俺は風呂を作った。
獣人族は風呂を嫌うが、一度清潔にしなければならない。
中には排泄物で汚れている者も多い。
風呂場の隣に、大きな洗濯場を作り、全ての布を煮沸消毒する。
消化の良い食事を作る。
ベッドを一度外に出し、紫外線消毒をする。
家屋の中を消毒する。
水を撒いての高温蒸気だ。
そうしている間にも、続々と新たな患者が運ばれてきた。
門の前に寝かされ、世話係の者たちが中へ運んでいく。
俺は患者を運搬した人間に「エクストラ・ハイヒール」を掛け、亜紀ちゃんと王宮の誰かを寄越すように伝言を頼んだ。
街での感染も対策しなければならない。
初日にいた患者98名のうち、1名が死んだ。
残る97名は徐々に健康を取り戻していく。
中には翌日に立てる者もいた。
獣人族は体力がある。
夕方に、亜紀ちゃんが王宮の人間を連れて来た。
幸いに、病気の鑑定が出来る者のようだ。
医療の知識もある。
「タカさん!」
「おう! 大丈夫だ。「エクストラ・ハイヒール」が有効だった。今、中の消毒をやってる」
「そうですか! 良かった!」
王宮の人間はトラジークと言った。
亜紀ちゃんの表情が硬い。
俺の子孫なのだろう。
「ご先祖様!」
「今ややこしいことを言うな!」
亜紀ちゃんが睨んでいる。
「いいか、これから街の対策を指示する。まずはネズミの殲滅だ。この病気は主にネズミ、それとげっ歯類だ」
「げっしるい?」
「後で亜紀ちゃんに聞け! ネズミのノミで感染する。いいな?」
「分かりました!」
「それと、しばらく街の内外の出入りは禁止だ。どうしても出なければならない者は、お前が鑑定して許可を出せ」
「はい!」
「首都内の感染者の詳細を調べろ。全戸を回るんだぞ!」
「はい!」
「人数は決まった50人程度でやれ。大変だがな。そいつらは毎日ここへ来させてくれ。俺が感染を防ぐ」
「はい!」
「それと、他の街や村の様子を調査しろ。調査に出る奴も念入りに鑑定だ。もちろん帰って来た時もな!」
「はい、必ず!」
「ここが片付いたら、俺は街の人間全員を相手にする。その準備と手配を頼む」
「はい!」
「俺たちで必ず感染を止めるぞ!」
「はい!」
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「ネズミの駆除を手伝ってやってくれ。そして毎日鑑定を受けろ」
「はい!」
首都での感染の状況によっては、俺も出なければならない。
亜紀ちゃんは「ハイヒール」までしか使えないためだ。
俺は空間収納から食料を出し、世話係に食事を頼んだ。
首都の人口は約20万人。
既に4万人が感染し死んでいる。
アウトブレイクだ。
恐らく、この隔離場へ来る前に大勢死んでいるのだ。
既に周辺の町や村にも広がっている可能性が高い。
基本的に、村・町単位で独立して生活しているので、それほどの出入りは無いはずだが。
それでも商人の行商や、一部の旅人の出入りはある。
翌日の午後。
亜紀ちゃんと王宮の役人が来た。
「地区単位で係を決めて調査を始めています」
「そうか。途中経過はどうだ?」
「思わしくありません。30の地区で、既に1割の感染者が出そうです」
「分かった。患者は一か所に集めておいてくれ。俺が回る」
「ありがとうございます。それと、今朝各町村に調査員を派遣しました」
「鑑定はしているな?」
「はい。数日で戻るはずです」
「ネズミは?」
「下水道から始めています。「轟雷」を使ってますけど」
亜紀ちゃんが報告する。
「ああ、いいよ。臭いが大変だけど、頼むな」
「はい!」
「じゃあ、俺は出るぞ。基本的に患者と一緒にいるからな」
「では、連絡員を付けます」
「ああ、頼む。俺に近づかないようにな」
「かしこまりました」
俺は亜紀ちゃんと役人に離れるように言い、外へ出た。
役人を先に歩かせ、地区の収容場所に案内させる。
ペストとの戦いが始まった。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる