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トラ&亜紀:異世界転生 XI
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50ほどの平屋の建物。
数人が歩いていた。
声を掛けると、患者の家族の者だそうだ。
動けない患者たちのために、彼らが食事などの世話をしているらしい。
感染する可能性もあるが、大事な家族や仲間を放っておけないという優しい人間たち。
俺は一人の猫人族の男性に声を掛け、そういう事情を聴いた。
俺は手近な建物へ入った。
4人が臥せっている。
一人の顔が黒い。
俺は近づいて胸元の毛を探った。
やはりそうだった。
獣人族は顔と手足の先にだけ体毛が無い。
肘から手首にかけて。
その先はまた体毛がある者も多い。
ラーラは顔が黒くなると言っていた。
しかし、正確には全身に皮膚が内出血を起こす。
これはペストだ。
俺は前回の異世界召喚で、この世界と地球の病気が似ていることに気付いていた。
人体構造が似通っているのだから、それも当然かもしれない。
ペストまであったとは。
俺は四人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
幸い、手応えはあった。
先ほどの男性を見つけた。
「俺の治癒魔法が有効なようだ。これからすべての建物を回るから、その前に君たちにもやっておきたい」
「ほんとうですか!」
「ああ。ただ全員を助けられるかは分らん。俺も初めてのことだしな」
「ありがとうございます!」
「早速で申し訳ないが、世話をしている人たちを集めてくれ。俺はあっちの建物から順に回って行くから」
「分かりました! 宜しくお願いします!」
男性は走って行った。
俺は三つ目の建物を終える頃、出口に10人程の男女が集まった。
「君たちは素晴らしいな。自分が死ぬかもしれないのに、こんな場所で働くなんて」
「いえ。家族や仲間が大事なのは当然ですから」
「親方が死んじゃったら、どうせあたしも生きてられないんですよ」
「子どもが……」
「妻は……」
それぞれに語り、泣いた。
俺はその場で「エクストラ・ハイヒール」を全員にかけた。
「あぁ! 身体が軽くなったぁ!」
「本当だ! あの、是非全員にお願いします!」
俺が全部の建物を回ったのは、夕方だった。
十数人が、既に死んでいた。
俺は世話をしている男女に断り、空いた場所に窪みを作り、遺体を焼いた。
「申し訳ない。感染を止めるためには仕方ないんだ」
「いいんです。私たちも何度もここに埋めてますから」
ペストの潜伏期間は数日から一週間だ。
その間は入る者はともかく、誰も外へは行けない。
それに、治癒した者たちも、この後どうなるのか分からない。
翌日、俺は風呂を作った。
獣人族は風呂を嫌うが、一度清潔にしなければならない。
中には排泄物で汚れている者も多い。
風呂場の隣に、大きな洗濯場を作り、全ての布を煮沸消毒する。
消化の良い食事を作る。
ベッドを一度外に出し、紫外線消毒をする。
家屋の中を消毒する。
水を撒いての高温蒸気だ。
そうしている間にも、続々と新たな患者が運ばれてきた。
門の前に寝かされ、世話係の者たちが中へ運んでいく。
俺は患者を運搬した人間に「エクストラ・ハイヒール」を掛け、亜紀ちゃんと王宮の誰かを寄越すように伝言を頼んだ。
街での感染も対策しなければならない。
初日にいた患者98名のうち、1名が死んだ。
残る97名は徐々に健康を取り戻していく。
中には翌日に立てる者もいた。
獣人族は体力がある。
夕方に、亜紀ちゃんが王宮の人間を連れて来た。
幸いに、病気の鑑定が出来る者のようだ。
医療の知識もある。
「タカさん!」
「おう! 大丈夫だ。「エクストラ・ハイヒール」が有効だった。今、中の消毒をやってる」
「そうですか! 良かった!」
王宮の人間はトラジークと言った。
亜紀ちゃんの表情が硬い。
俺の子孫なのだろう。
「ご先祖様!」
「今ややこしいことを言うな!」
亜紀ちゃんが睨んでいる。
「いいか、これから街の対策を指示する。まずはネズミの殲滅だ。この病気は主にネズミ、それとげっ歯類だ」
「げっしるい?」
「後で亜紀ちゃんに聞け! ネズミのノミで感染する。いいな?」
「分かりました!」
「それと、しばらく街の内外の出入りは禁止だ。どうしても出なければならない者は、お前が鑑定して許可を出せ」
「はい!」
「首都内の感染者の詳細を調べろ。全戸を回るんだぞ!」
「はい!」
「人数は決まった50人程度でやれ。大変だがな。そいつらは毎日ここへ来させてくれ。俺が感染を防ぐ」
「はい!」
「それと、他の街や村の様子を調査しろ。調査に出る奴も念入りに鑑定だ。もちろん帰って来た時もな!」
「はい、必ず!」
「ここが片付いたら、俺は街の人間全員を相手にする。その準備と手配を頼む」
「はい!」
「俺たちで必ず感染を止めるぞ!」
「はい!」
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「ネズミの駆除を手伝ってやってくれ。そして毎日鑑定を受けろ」
「はい!」
首都での感染の状況によっては、俺も出なければならない。
亜紀ちゃんは「ハイヒール」までしか使えないためだ。
俺は空間収納から食料を出し、世話係に食事を頼んだ。
首都の人口は約20万人。
既に4万人が感染し死んでいる。
アウトブレイクだ。
恐らく、この隔離場へ来る前に大勢死んでいるのだ。
既に周辺の町や村にも広がっている可能性が高い。
基本的に、村・町単位で独立して生活しているので、それほどの出入りは無いはずだが。
それでも商人の行商や、一部の旅人の出入りはある。
翌日の午後。
亜紀ちゃんと王宮の役人が来た。
「地区単位で係を決めて調査を始めています」
「そうか。途中経過はどうだ?」
「思わしくありません。30の地区で、既に1割の感染者が出そうです」
「分かった。患者は一か所に集めておいてくれ。俺が回る」
「ありがとうございます。それと、今朝各町村に調査員を派遣しました」
「鑑定はしているな?」
「はい。数日で戻るはずです」
「ネズミは?」
「下水道から始めています。「轟雷」を使ってますけど」
亜紀ちゃんが報告する。
「ああ、いいよ。臭いが大変だけど、頼むな」
「はい!」
「じゃあ、俺は出るぞ。基本的に患者と一緒にいるからな」
「では、連絡員を付けます」
「ああ、頼む。俺に近づかないようにな」
「かしこまりました」
俺は亜紀ちゃんと役人に離れるように言い、外へ出た。
役人を先に歩かせ、地区の収容場所に案内させる。
ペストとの戦いが始まった。
数人が歩いていた。
声を掛けると、患者の家族の者だそうだ。
動けない患者たちのために、彼らが食事などの世話をしているらしい。
感染する可能性もあるが、大事な家族や仲間を放っておけないという優しい人間たち。
俺は一人の猫人族の男性に声を掛け、そういう事情を聴いた。
俺は手近な建物へ入った。
4人が臥せっている。
一人の顔が黒い。
俺は近づいて胸元の毛を探った。
やはりそうだった。
獣人族は顔と手足の先にだけ体毛が無い。
肘から手首にかけて。
その先はまた体毛がある者も多い。
ラーラは顔が黒くなると言っていた。
しかし、正確には全身に皮膚が内出血を起こす。
これはペストだ。
俺は前回の異世界召喚で、この世界と地球の病気が似ていることに気付いていた。
人体構造が似通っているのだから、それも当然かもしれない。
ペストまであったとは。
俺は四人に「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
幸い、手応えはあった。
先ほどの男性を見つけた。
「俺の治癒魔法が有効なようだ。これからすべての建物を回るから、その前に君たちにもやっておきたい」
「ほんとうですか!」
「ああ。ただ全員を助けられるかは分らん。俺も初めてのことだしな」
「ありがとうございます!」
「早速で申し訳ないが、世話をしている人たちを集めてくれ。俺はあっちの建物から順に回って行くから」
「分かりました! 宜しくお願いします!」
男性は走って行った。
俺は三つ目の建物を終える頃、出口に10人程の男女が集まった。
「君たちは素晴らしいな。自分が死ぬかもしれないのに、こんな場所で働くなんて」
「いえ。家族や仲間が大事なのは当然ですから」
「親方が死んじゃったら、どうせあたしも生きてられないんですよ」
「子どもが……」
「妻は……」
それぞれに語り、泣いた。
俺はその場で「エクストラ・ハイヒール」を全員にかけた。
「あぁ! 身体が軽くなったぁ!」
「本当だ! あの、是非全員にお願いします!」
俺が全部の建物を回ったのは、夕方だった。
十数人が、既に死んでいた。
俺は世話をしている男女に断り、空いた場所に窪みを作り、遺体を焼いた。
「申し訳ない。感染を止めるためには仕方ないんだ」
「いいんです。私たちも何度もここに埋めてますから」
ペストの潜伏期間は数日から一週間だ。
その間は入る者はともかく、誰も外へは行けない。
それに、治癒した者たちも、この後どうなるのか分からない。
翌日、俺は風呂を作った。
獣人族は風呂を嫌うが、一度清潔にしなければならない。
中には排泄物で汚れている者も多い。
風呂場の隣に、大きな洗濯場を作り、全ての布を煮沸消毒する。
消化の良い食事を作る。
ベッドを一度外に出し、紫外線消毒をする。
家屋の中を消毒する。
水を撒いての高温蒸気だ。
そうしている間にも、続々と新たな患者が運ばれてきた。
門の前に寝かされ、世話係の者たちが中へ運んでいく。
俺は患者を運搬した人間に「エクストラ・ハイヒール」を掛け、亜紀ちゃんと王宮の誰かを寄越すように伝言を頼んだ。
街での感染も対策しなければならない。
初日にいた患者98名のうち、1名が死んだ。
残る97名は徐々に健康を取り戻していく。
中には翌日に立てる者もいた。
獣人族は体力がある。
夕方に、亜紀ちゃんが王宮の人間を連れて来た。
幸いに、病気の鑑定が出来る者のようだ。
医療の知識もある。
「タカさん!」
「おう! 大丈夫だ。「エクストラ・ハイヒール」が有効だった。今、中の消毒をやってる」
「そうですか! 良かった!」
王宮の人間はトラジークと言った。
亜紀ちゃんの表情が硬い。
俺の子孫なのだろう。
「ご先祖様!」
「今ややこしいことを言うな!」
亜紀ちゃんが睨んでいる。
「いいか、これから街の対策を指示する。まずはネズミの殲滅だ。この病気は主にネズミ、それとげっ歯類だ」
「げっしるい?」
「後で亜紀ちゃんに聞け! ネズミのノミで感染する。いいな?」
「分かりました!」
「それと、しばらく街の内外の出入りは禁止だ。どうしても出なければならない者は、お前が鑑定して許可を出せ」
「はい!」
「首都内の感染者の詳細を調べろ。全戸を回るんだぞ!」
「はい!」
「人数は決まった50人程度でやれ。大変だがな。そいつらは毎日ここへ来させてくれ。俺が感染を防ぐ」
「はい!」
「それと、他の街や村の様子を調査しろ。調査に出る奴も念入りに鑑定だ。もちろん帰って来た時もな!」
「はい、必ず!」
「ここが片付いたら、俺は街の人間全員を相手にする。その準備と手配を頼む」
「はい!」
「俺たちで必ず感染を止めるぞ!」
「はい!」
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「ネズミの駆除を手伝ってやってくれ。そして毎日鑑定を受けろ」
「はい!」
首都での感染の状況によっては、俺も出なければならない。
亜紀ちゃんは「ハイヒール」までしか使えないためだ。
俺は空間収納から食料を出し、世話係に食事を頼んだ。
首都の人口は約20万人。
既に4万人が感染し死んでいる。
アウトブレイクだ。
恐らく、この隔離場へ来る前に大勢死んでいるのだ。
既に周辺の町や村にも広がっている可能性が高い。
基本的に、村・町単位で独立して生活しているので、それほどの出入りは無いはずだが。
それでも商人の行商や、一部の旅人の出入りはある。
翌日の午後。
亜紀ちゃんと王宮の役人が来た。
「地区単位で係を決めて調査を始めています」
「そうか。途中経過はどうだ?」
「思わしくありません。30の地区で、既に1割の感染者が出そうです」
「分かった。患者は一か所に集めておいてくれ。俺が回る」
「ありがとうございます。それと、今朝各町村に調査員を派遣しました」
「鑑定はしているな?」
「はい。数日で戻るはずです」
「ネズミは?」
「下水道から始めています。「轟雷」を使ってますけど」
亜紀ちゃんが報告する。
「ああ、いいよ。臭いが大変だけど、頼むな」
「はい!」
「じゃあ、俺は出るぞ。基本的に患者と一緒にいるからな」
「では、連絡員を付けます」
「ああ、頼む。俺に近づかないようにな」
「かしこまりました」
俺は亜紀ちゃんと役人に離れるように言い、外へ出た。
役人を先に歩かせ、地区の収容場所に案内させる。
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