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トラ&亜紀:異世界転生 X

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 一応、城壁の外に降りて近づいた。
 村の村長から、「トラ」の名を出せば歓迎してくれるはずだと言われた。

 「「トラ」様の恩義はみんな忘れていません」
 「そうか」

 俺と亜紀ちゃんは門を警護している兵士に挨拶した。

 「千年振りなんだけどな。「トラ」が帰って来たと伝えてくれないか」
 「え!」

 兵士は俺を見た。
 次の瞬間、最敬礼し、中の人間に伝える。
 門を守る5人の兵士が出て来て、全員で最敬礼する。

 「おい、いきなり俺の話を信じてくれるのか?」
 「はい! あなた様は像とそっくりですし、人族でここに来る者はまずいません!」
 「なるほどな」

 俺たちは首都トランシルヴァニアへ入った。
 番兵に、王城へ行って欲しいと言われた。




 「おかしいな」
 「どうしたんです?」
 「前はもっと賑わっていたんだが」
 「そうなんですか」

 人通りは首都だけあって、あるにはある。
 しかし、以前よりも圧倒的に少ない。
 それに、明るいはずの獣人たちの表情が暗い。
 何よりも、どこでも元気に走り回っていた子どもの姿がなかった。

 「前はこの辺も出店とかで賑わっていたんだよ」
 「へー」

 初めて来る亜紀ちゃんには分からない。
 まあ、千年も前の話だから、変わっていても不思議はないのだが。
 俺たちは、果物を売っている出店に寄って、猫人族の女性に聞いてみた。

 「実は、数ヶ月前から街で流行り病が」
 「なんだって?」
 「もう結構な人が亡くなってるんですよ。それもどんどん増えているんで、みんな出掛けませんし」
 「そうなのか」




 俺たちは王城へ急いだ。
 王宮を守る番兵が、俺たちを見つけると遠くから敬礼をしてくる。

 「「トラ」様ですね! 先程連絡を受けています!」
 「そうか。さっき街で流行り病のことを聞いたんだが」
 「はい、数ヶ月前から、どんどん深刻に。中へお入りになって、話を聞いて下さいませんか?」
 「ああ、そのつもりで来たんだ」

 番兵の一人が俺たちを案内する。
 まあ、俺は勝手を知っているので、謁見の間の近くの控室だと分かった。

 「しばらくお待ちください」

 待っている間に、俺は簡単にロボとのことを亜紀ちゃんに話した。

 「ゆっくり街を回りながらと思ったんだがな。ロボは元は王女だったんだが、王が人族によって殺された。まあ、戦争だからしょうがねぇんだけどな」
 「はい」

 「その後、俺と聖が戦争を受け持って大勝した。その後、ロボは女王になって、俺たちは仲良しになった」
 「ちょっとボカしてますね」
 「もう、とっくにロボも死んでいる。今はその子孫が王になっているんじゃないかな」
 「タカさんの子孫でもありますよね!」
 「ゴホン!」

 俺たちは呼ばれ、謁見の間に入った。
 諸侯が並び、俺たちが入ると全員が膝を付いた。
 正面の王までが玉座を降り、俺たちに膝を付いている。

 「おい、どうした! やめてくれ!」

 「ティボー王国の救世主である「トラ」様をお迎えするに、何人たりとも上の者は居りません」

 女性の声だ。
 今も女王なのだろうか。

 「分かった。楽にしてくれよ。前もそうだったけど、どうも格式っていうのは苦手なんだ」

 女王は顔を上げて微笑んだ。
 猫人族で、全身が白い。
 ロボの面影があった。





 「女王ロボの記録の通りですね」
 「記録なんてあるのか」
 「もちろんです。あれだけのことをしていただいて、決して忘れるわけには参りません」

 女王はラーラと名乗った。

 「だけど、俺は千年前に消えたんだ。いつまでも覚えていてもらっても」
 「はい、そのお話は後程。まずは千年ぶりのお話をいたしましょう」

 俺と亜紀ちゃんは別室に案内された。
 王族が使う会議室だ。
 俺と亜紀ちゃんに、コーヒーが出た。

 「このためだけに、僅かに人族と交流しています」
 「コーヒーのために?」
 「はい。「トラ」様のお求めになっていたものと聞いておりますので」
 「そうなのかぁー」

 確かにコーヒーであり、クライスラー王国で飲んだものと同じだ。
 俺は前回と今回の異世界召喚の顛末を話した。
 
 「それでどういうわけか、俺と娘の亜紀ちゃんが連れて来られたんだ」
 「さようでございますか」
 「他の話もしたいんだが、この街に入って、流行り病のことを聞いた」
 「そうですか。はい、大変に困っております」

 感染すると高熱を出し、そのまま衰弱して死ぬのだという。

 「もうこのトランシルヴァニアでも既に20%の人間が死んでおります。それも一向に沈静化に向かわず」
 「そんなにか!」

 対策を聞くと、隔離を始めたようだ。
 解熱剤を使っているが、あまり効果はない。

 「私たち獣人は魔法を使う者がほとんど居りません。僅かな使い手も、治癒魔法はまったく使えず」
 「他に症状は?」
 「はい、顔がみるみる黒くなっていきます」
 「なんだと?」
 「黒味が増した頃に、ほとんどの者が死にます。幸い王宮ではまだそれほどの数は出ておりませんが」

 俺は戦慄した。

 「一度、隔離している場所へ行く。俺独りで行くならな」
 「いえ! 絶対にいけません! 「トラ」様に万一があっては」
 「いや、行く。俺ならば、治療できるかもしれん」
 「絶対に許可出来ません!」

 俺とラーラは押し問答になったが、結局俺を止められる者はいない。
 俺が押し切った。





 「亜紀ちゃんはダメだ」
 「嫌です!」
 「しばらく会えないと思う」
 「絶対嫌です!」

 「ラーラ、亜紀ちゃんを頼む」
 「かしこまりました」

 「タカさん! 付いて行きますからね!」
 「亜紀ちゃん、これはペストの可能性がある」
 「え!」
 「感染すれば助からない。俺の治癒魔法でも効くかどうかは分からん」
 「なら、どうして!」
 「ロボの国の民だ。俺が出来ることは何でもする」
 「だったら!」
 「亜紀ちゃんはダメだ。その義理はねぇ」
 「でもー!」

 「付いてきたら親子の縁を切る。これははっきり宣言したぞ」
 「タカさん!」
 「この件で俺の言うことを聞けないのなら、俺の子ではない。遺産はやる。独りで暮らせ」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんは拳を握りしめている。
 血が滲んだ。

 「喰うならウマヘビをな。亜紀ちゃんの食事を支えられるほど、この王宮は用意がねぇ」
 「……」
 「一ヶ月は戻らない。その間に流行を止める」
 
 亜紀ちゃんは黙って俺を睨み、大粒の涙を零した。
 突然の事態に、必死に堪えている。





 「「トラ」様。ご出発の前に、是非一度霊廟へ」

 ラーラが言った。

 「ロボの墓前には帰ってから行くよ」
 「いえ、是非その前に」

 ラーラが言うので、仕方なく頷いた。
 亜紀ちゃんも一緒に、王宮内の霊廟へ向かう。
 重たい石の扉が開かれる。
 冷気が入り口まで上がって来た。
 階段を降り、松明をかざして進んだ。
 地下に広い部屋があり、代々の王族の石棺が並んでいた。

 「一定の年数を過ぎますと、墓地へ移します。例外は女王ロボのみです」
 「そうか」

 俺は奥へ案内された。
 松明の灯が、水晶の棺を照らした。

 「?」

 ラーラの待女が集まって、棺の周囲に立った。

 「!」

 ロボが、生前の美しい姿のまま、眠っていた。

 「おい! 千年経つんだぞ!」
 「はい。エルフ族に頼んで、このように。女王ロボの願いでした」
 「なんだって?」
 「女王ロボは「トラ」様がいつかまたこの国へ来ると申していました」
 「!」

 「自分の魂はその時には無い。しかし、この姿を一目見ていただきたいと」
 「……」

 俺は棺に抱き着いた。

 「ロボ、お前……」

 涙が水晶を伝った。
 ロボは目を閉じたままだった。

 「また来させてくれ」
 「はい、いつなんなりと」
 「ありがとう」
 「とんでもございません」

 俺たちは霊廟を出た。
 隔離区画の場所を聞いた。
 一人だけ、俺の説明のための人間が付き、俺は向かった。





 外壁に近い区画。
 そこには今も数百人の患者が押し込められている。
 俺は仮囲いの門を開け、中へ入った。

 猛烈な腐臭、そして死臭がした。  
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