余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

385.神の愛

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 ざわざわ、ざわざわ。広場には人混みが出来ていた。
 と言っても、広場の中には出来ていない。まるで近付くことは不敬とばかりに距離を取り、遠くからそーっと様子を窺うような人混みだ。
 ぽっかりと空いた広場のど真ん中には、石碑と見覚えのある姿をそっくりそのまま写した銅像が建っていた。


「うぉっ!マジである!可愛いー!」

「フェリアル様の銅像……フェリアル様の銅像……」


 たらーっと鼻血を垂らして銅像を凝視するシモン。そして可愛い可愛いと視線を向けまくるグリード。

 そこにあったのは、ぬんっと天に剣を掲げるようなポーズをとった僕の銅像だった。色々ツッコミどころがあるけれど、とりあえず二人と一緒にとたたーっと近付く。
 僕が広場に入った瞬間、周囲の人だかりがわっと騒がしくなった気がするけれどスルーだ。銅像の張本人が現れたらそりゃあびっくり仰天しちゃうよね。うむ。

 とたとた。銅像の正面……石碑の前まで辿り着いてピタリと止まる。ふむふむ、これが噂の僕の銅像……。


「僕、どうして剣を持ってるの?」

「そりゃあアレっすよ!姫の勇ましさを表現してるんです!」


 むぅ、なるへそ。剣術なんてなんにも出来ないのに、どうして剣をぬんっと掲げているのか。それが不思議だったけれど、そういうことなら納得だ。
 僕の勇ましさ……僕のかっこよさを最大限に表現するためのポーズか。ふむふむ。


「剣くらい持たせないと、超可愛い銅像が建っちゃうだけですし……」

「剣を持たせてもフェリアル様の可愛さを隠し切れてませんけどね」


 侍従二人が何やらコソコソ話をしているけれど、それは気にせずじーっと銅像を見つめる。それにしてもとっても緻密な銅像だ。
 これを造った人はものすごく高い実力の持ち主なのだろう。素人の目でも一目で分かるくらいの出来栄えだ。
 まるで銅像に命が吹き込まれているような……とにかく、とってもすごい技術だ。


「むぅ……む?」


 不意に、視線が銅像から石碑に移った。
 一行目に書かれているのは僕の名前。英雄、という肩書きが隣に書かれていて何だか擽ったい。
 そして二行目。悪魔、という肩書きの隣に書かれていたのは。


「……マーテル」


 運命の女神を騙った邪の男神。悪魔。
 一度目とはまるで違うマーテルの呼び名に言葉を失う。帝国中が、今やこの認識を常識のように受け止めているのか。あれだけ手放しに信仰していた神を悪魔と罵り、一時は悪魔と罵った人間を英雄と讃えて……。

 ふと思う。それは、一度目の結末と何が違うのだろう。
 今までの立場が極端に覆ったり、最終的に悪逆非道の悪役が歴史に名を残したり。一度目の結末そのものだ。

 僕はただ、平穏がほしかっただけ。愛する人たちに正しい幸福を掴んで欲しかっただけ。
 嫌いな彼を悪魔という立場まで堕として、英雄になりたかったわけじゃない。結果論だってわかってる。それでも、彼の光に満ちた立場に今度は自分が立ちたいなんて、そんなことを思ったことは一度もなかった。


「……なんでだろう」


 どうしてだろう。勝利の証である銅像を見ても、証拠の石碑を見ても。不思議なくらい心は晴れないし、何なら視界が滲む。
 ぽろぽろと零れる雫には、一体どんな感情が込められているのか。自分でも分からないから、ただ衝動に任せて涙を流すことしか出来ない。


『人間如きに神の愛は理解出来ないよ』


 不意に彼の言葉が蘇った。
 きっと、彼の言葉は全て真実だったのだろう。でも、人間の僕には理解できなかった。神の愛憎というのは、等しく彼と同じようなものなのかもしれない。
 もしかすると、ゼウス様やリベラ様も。マーテルと似たような部分を持っているのかもしれない。

 人間の物差しで彼の全てを否定した。その事実が今になって、胸に鋭く突き刺さる。


「ほんとうに……」


 ぽろぽろと伝う涙は一向に止む気配がない。
 本当に全て正しかったのかな。僕は英雄と呼ばれるに相応しい選択をしたのかな。彼の全てを否定して突き放すことは、本当に正しい決断だったのかな。

 彼は酷い行いを何度も、何百回もしてきた。絶対に許されない事も、断罪されるに相応しい悪事も。
 けれど、真実もきっとあった。否定しちゃいけない真実がきっと。


 少なくとも、彼の愛は本物だったのかもしれない。



「にゃあ」



 ふと聞こえた声にハッと我に返る。
 涙をぽろぽろ流したままの顔を声のした方へ向けると、そこには見覚えのある小さな猫がいた。
 虹色の瞳が印象的な何処と無く誰か似ている綺麗な猫。


「ユウマ……?」


 大公家にいるはずのユウマが、どうしてここに……。
 思わず地面に膝をついて両腕を広げる。ユウマは虹色の瞳を嬉しそうに細めて「にゃあ」と腕の中に飛び込んできた。
 きっとまだ生まれて間もない小さな体をぎゅうっと抱き締める。胸にじんわりと滲む愛おしさも、同時に大切に抱えて。


「ユウマ、どうしてここに……」


 と言うか、どうやってここに?
 続けようとした問いがふと遮られる。目の前の光景に驚いて目を見開いた。


「ユウマ……!?」


 ユウマの体が突如ふわふわと光り始めた。まるで粒子になって散るみたいに浮かび上がる光を、慌てて手を伸ばして引き止める。


 その時、虹色の瞳が幸せそうに緩んだ。

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