余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

317.おぱんつ盗難事件

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 夜中にディラン兄様とのアレなお勉強をした後、まだ早いからとぐーすかすぴーと二度寝した朝のこと。
 目覚めるとディラン兄様は既にいなくなっていて、僕は一人広いベッドの上でぐーぐーと大の字で眠っていた。瞼を完全に上げて直ぐ、何だか妙な感覚にきょとんと首を傾げて窓の外を見遣る。
 いつも起きた時よりも高い位置にある太陽を見て、まさか……と顔を青褪めた。

 ガバッ!と起き上がって目を擦り、もう一度じーっと窓の外の太陽を見つめる。うーむ、やっぱり高い位置にある気がする……。それに、いつも起きた時より圧倒的に視界が明るい。
 なんでじゃろ?と半ば答えに気が付いているのに知らんぷりをしてみる。だってだって、こんなの絶対……大寝坊!しちゃったに決まってる。しゅーん。


「あわわ……っ」


 ベッドの上に座り込んでぷるぷる。太陽があれだけ高い位置にあるってことは、かなりとってもやばめな寝坊をしてしまったに違いない。
 朝ごはんの時間もきっととうに過ぎている。どうして誰も……特にシモン。シモンは起こしてくれなかったのかと八つ当たりぷんすかをしてしまった。寝坊してしまったのは自分のせいでしかないのに。

 そんなこんなでしょんぼり項垂れていると、不意に背後から聞き慣れた大好きな声が聞こえた。


「フェリアル様!お目覚めになったのですね!」


 目を見開いてぱっと振り返る。箒を持ってぱぁっと笑顔を浮かべている彼……シモンの姿を視認してぱたぱた駆け寄りむぎゅーっと抱き着いた。


「シモン!シモンっ、シモン!」


 コアラみたいにむぎゅーと抱き着いて首筋にうりうり攻撃。箒をその場に放り捨てたシモンが、そんな僕をむぎゅむぎゅ抱き締め返してすんすんくんかくんかした。匂い気になるのかな。

「はぁっ今日も赤ちゃんの匂い……ん?んん?こ、これはっ!」


 ふにゃあっと蕩けた表情を浮かべたシモンだったけれど、その表情はすぐに愕然としたものに変わった。
 何やらとっても驚いている様子のシモンを見てぱちくり。瞬く僕をおっきく丸まった目で見据えると、シモンはかたかた震えながら声を上げた。


「フェリアル様の無垢なお体からッ、いッ、淫靡な匂いが!!」

「なっ、なぬーっ!?」


 びよよーんと両腕を万歳みたいに掲げてびっくり仰天。目ん玉まん丸。
 いんび……淫靡?いやらしいってことだろうか。それならちょっぴり、いやかなり思い当たる節がある。慌ててシモンの腕の中からんしょんしょ抜け出し、すぽっと床に降りたところで足に履いていた服を下穿きごと全てがばっと下ろしてみた。


「フェッ、フェリアル様ァ!?い、一体何をッ!聖域が丸見えでございますよフェリアル様ァ!!」

「シモン!僕のおぱんつ消えた!」

「おッ、おぱんつが消えたぁ!?」


 大変だ。昨日まで……というよりディラン兄様とあれやこれやしていた時に履いていたはずのおぱんつが消えている。そして代わりに新しいおぱんつが履かされている。これは一体どういうことなのか。
 あの後眠ってしまったなら、僕はまだ着替えていないということになるからおぱんつはそのままでないとおかしい。それなのに今履いているおぱんつは夜まで履いていたものじゃない。

 むむっ!これは怪しいでござる……事件の匂いがぷんぷんでござる……。


「僕のおぱんつ盗難事件!犯人を見つけださねば!」

「フェリアル様のおぱんつを盗んだ不届き者が!?ゆ、許せない……!探し出して極刑に処しましょう!!」


 これから長い長い旅が始まる……そう、僕のおぱんつを探す旅が。と、かっこいいプロローグが決まった瞬間、突然お腹がぐーぐーと空腹を訴え出した。


「……その前に腹ごしらえをするでござる」

「昨夜はご飯、何も食べなかったですもんね。まずはご飯にしましょうか」


 おぱんつは二の次。まずはごはんごはんっとわくわくしながら席に着こうとしたその時、今度は部屋の扉がガチャッと開かれ誰かが問答無用で入ってきた。


「フェリ、おはよう。フェリの可愛い声が邸中に響いていたぞ」

「ディラン兄様!おはようございます!」


 現れたのはディラン兄様。夜以来だからそんなに久々な感覚は無い。ぱたぱたと駆け寄ってシモンにしたみたいにむぎゅーっと抱き着くと、兄様もむぎゅーっと抱き締め返してくれた。ぽかぽか。
 それより、む?兄様は今なんと?僕の声が邸中に響いていた……?ということは、僕のおぱんつ騒ぎが邸中の人たちに聞かれてしまったということだろうか。ぬーん恥ずかしい……。

 ぽっぽっと顔を赤らめてぷしゅーと湯気を出す僕を床に下ろし、ディラン兄様はよしよしと僕の頭を撫でて衝撃の発言を繰り出した。


「昨夜フェリが身に着けていたクマ柄の下穿きなら、汚れてしまったから兄様が処分しておいたぞ」

「なぬっ!」

「気に入りの物だったか?また新しいクマ柄の下穿きを買ってやるから落ち込むな」

「うぅん……うむ。ありがと兄様」


 なんと。例の汚れたおぱんつは兄様がしっかり片付けてくれていたらしい。
 僕のおぱんつ盗難事件、これにて一件落着。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。
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