余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

閑話.シモンを休ませたい話(1)

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 ぴこーん。
 ある日、僕は思いついてしまった。それはシモンのいつもの仕事内容を見て、ふと思い浮かんだことだった。

 掃除に湯浴み、着替えに護衛と、シモンの仕事はとっても大変。僕が眠った後も何やら仕事をこなしているみたいで、睡眠時間なんて無いのでは思うくらい。
 僕が起きる前からシモンの仕事は始まっているのだと思う。カーテンがしゃっと開く音で僕が目覚めて、その直後すぐに「おはようございます」をくれるシモンをいつものように見ているから、それは分かる。

 侍従は基本複数人つくのが普通で、交代で主人に侍ることが多い。けれどシモンの場合、たった一人で僕の侍従を担当しているから当然決まった休日なんてものはない。
 シモンから休暇を頼まれたら当然いいよーと頷くつもりだけれど、如何せん当のシモンが休暇を望まないからそれもない。たまにそれとなく休暇を与えようかと伝えてみても、なぜか「俺を捨てるつもりですか!?」と号泣されてしまったこともある。

 そんなこんなで、シモンの休暇事情のことを最近ずっと不安に思っていた。
 シモンが本心から仕事を望んでくれていることはもちろんわかる。けれどそれにしたって、休む暇が無さすぎるんじゃないかって。
 そう考えていた時ふと、賢いお兄さんの僕は思いついてしまったのだ。ぴこーん。

 シモンを休ませたいなら、どうしても休んでしまう状況に僕がしてしまえばいいじゃないか!と。
 それはつまり、先回り。シモンが掃除をする前に部屋をぴかぴかにして、着替えは自分でよっこらせと頑張って。シモンの仕事が軽くなるように、僕が自分から行動すれば良いのだ。

 そうと決まれば!ぴょんっと立ち上がる。
 早速明日の朝からミッション開始だ、と瞳をキラキラ輝かせた。





 翌朝。シモンが部屋に訪れるよりも早い時間。
 早起きは楽だった。なんたってすごく楽しみで、ほとんど眠ってすらいないから。ほんのり明るくなってきた頃にそろりと起き上がり、ぷるぷると頭を振ってぱちぱちと瞬く。うむ、完全に目が覚めた。


「ふむ…」


 そろりそろり。足音を立てないようクローゼットまで向かう。
 服は専用の部屋にたくさん収納されているけれど、お気に入りの服は部屋のクローゼットにまとめて入っている。流石の僕もそれくらいは知っているので、行動を決めるまでは早かった。

 辿り着いたクローゼット前。そーっと開いて中を確認。
 これでいいかと適当に取ったのは、緑の刺繍が施されたブラウンのジャケットとハーフパンツ、丸襟の白いブラウス。コーデとかは正直よくわからないから、上下セットで纏められていて助かった。
こういうところまでしっかりなシモン。改めて尊敬だ。


「おきがえ、おきがえ…」


 こそこそ。取り出した服をソファに置き、よいしょよいしょと寝巻きを脱ぐ。
 下着だけ残して軽くすっぽんぽんになると、さむさむ呟きながらまずは上から着ようと手に取った。ふすふすすぽっと着実に着ていき、今度は下へ。ハーフパンツをんしょんしょと履いて、最後にジャケット。腕を通すところまでは出来たけれど、ボタンだけはどうしても出来なくてしょんぼり肩を落とした。


「むずかしい…」


 手が滑る。ボタンが上手くはまらなくて、やがて諦めてまぁいいかとこくこくした。別に、ボタンがなくたって大丈夫。今の恰好だけでも十分素敵なお兄さんだ。

 よし、と頷いてそわそわソファへ。ぽすっと座ってゆらゆら揺れながら、シモン待機にじっと入る。着替えに意外と時間がかかってしまったから、きっともう来るはずだ。
 そう考えた直後、廊下から静かな足音が聞こえてきてはっとした。いつも聞いているから間違いない、これはシモンの足音だ。によによと緩む頬をなんとか堪えて冷静な表情を貫き、扉が開いた瞬間そろっと視線を向けた。


「……フェリアル様…?」


 そーっと入って来たシモン。顔を上げて僕と視線が合うなり、ものすごくびっくりした様子で立ち止まった。
 けれどそれは本当に一瞬で、次の瞬間には唖然とした顔をみるみる焦燥の色に変える。慌てた様子で駆け寄ってくるシモンをきょとんと見つめていると、シモンは僕の正面に膝をついて手をぎゅっと握ってきた。
 眠気を誘う優しい声音。シモンが小さく語りかけた。


「怖い夢でも見てしまいましたか?すみません…俺がいなくて心細かったですよね…」


 ぎゅーっと抱き締めてくるシモン。何がなんだかよく分からないけれど、ぽかぽかが心地良くて思わずきゅっと抱き締め返す。うりうりと顔を埋めて数秒経ち、やがてはっと我に返った。

 いけないいけない。シモンの包容力がすごすぎて思わずふにゃあっと倒れてしまうところだった。シモンこわい、ぎゅーこわい。
 ぎゅーを離してこほんっと一つ咳払い。ソファにお行儀よく座り直した僕を不思議そうに見下ろしたシモンは、ようやく気が付いたのか着替え済みの僕の恰好を見てぴしっと固まった。


「あれ…フェリアル様、お洋服が…?」


 よくぞきいてくれた!と胸を張る。えっへん、どどどやぁ。
 さっきはぎゅーのおかげでちょっとだけクールを崩してしまったけれど、ここからはきちんとクールだ。だいじょぶ、僕とってもくーる。


「おきがえ、シモンだいじょぶ。僕、自分でがんばった!」


 えっへん、どどどやぁ。どやの連発をしてふんすと息巻き、シモンの『流石フェリアル様!すごいです天才です!』をじっと待つ。まだかなまだかなー。

 ふんふんっと待つけれど、一向にシモンの大褒めが聞こえてこない。やがてぱちぱちと首を傾げ、どうしたのじゃろかとシモンを見上げた。
 見上げて、はっと硬直した。先にあったのはシモンの困ったような…どこか寂しそうな表情。それはへにゃ、と穏やかな微笑みを描いて、ようやく声が発される。


「……そう、ですか…自分で…」

「シモン?どしたの、だいじょぶ?」

「えぇ大丈夫ですよ、ははっ…えぇ、大丈夫です…流石フェリアル様、すごいですね…」


 元気のない声。覇気を感じない瞳。もしかして具合が悪いのかなと思い至り、おずおずシモンに提案してみる。


「あの、シモン…お休み、していいんだよ…?」


 気を遣ってそろりそろり発した言葉。体調が悪いなら大変だ、きっとシモンも今回ばかりは休暇を受け入れるだろうと、そう思っていた。
 けれど、実際にシモンが浮かべた表情は予想外のものだった。


「え……」


 呆然と目を見開くシモン。僕の言葉に絶望したみたいにさーっと青褪めたシモンを見て、どうしたのだろうとぱちくり瞬いた。

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