余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

202.げきおこシモン

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「わんわんっ!」

「どうしよ…シモンがもふもふに…」


 見た目は柴犬みたいな感じ。もふもふで耳がつんと立ってて、とっても可愛い。懐っこくてぐいぐい来るところが、まさにシモンを表していてへにゃりと眉が下がった。
 影から現れたところを見るに、シモンで間違いないのだろうけれど…どうしてこんな可愛い姿になってしまったのだろうか。

 離れ離れになっている間に一体何が…となでなでしてあげながら考える。うーむ、わからない。
 名探偵フェリアルをもってしても答えが浮かばないなんて、この事件は相当な難問らしい…。


「……それ、本当にシモンなのかな。何かおかしくない?」

「む?影からにょろっとあらわれた。シモンいがい、ありえない」

「うーん……まぁ、そうか……」


 何やら困り顔…というか、警戒するような顔をシモンわんちゃんに向けるライネス。わんちゃんを睨むなんて、めっ!
 ライネスの威圧に怯えて「くぅーん」と擦り寄ってくるわんちゃんを抱き締め、だいじょぶよーとよしよしぎゅっぎゅしてあげた。

 ぶんぶんっとしっぽを振るシモンわんちゃんにくすくす笑いが零れた途端、不意に影が再びふにゃりと歪み始めた。


「……殺す」


 聞きなれた声にぴくっと肩を揺らす。けれど僕の知っているその声はもっと、優しくて穏やかな声音をしていたはずだ。
 気のせいかな、と思いながら恐る恐る顔を上げると…そこには、たった今腕の中にいるはずのシモンが影からうにょうにょ現れて、何やら鬼の形相を浮かべて立っていた。

 きょとん。首を傾げてわんちゃんとシモンを交互に見つめる。
 へっへと嬉しそうにぺろぺろしてくるわんちゃんと、すたすた近寄ってくるシモン。視界の端では、ライネスがあちゃーと顔を手で覆って溜め息を吐いていた。


「わんっ!わふ……わふっ!?」

「わんちゃん…!」


 シモンは正面にどーんと仁王立ちすると、わんちゃんの首根っこをがしっと鷲掴んで乱暴に持ち上げる。
 わんちゃんの悲鳴に胸がきゅっとなり、すくっと立ち上がってシモンの体をぽかぽか叩いた。


「シモン、めっ!わんちゃんに、らんぼうしちゃだめなの!」


 ぽかぽか。ぽかぽか。
 瞳に涙を滲ませ訴える。シモンは犬が嫌いなのかな…でも、もふもふに乱暴なことをするなんていけないことだ。いくらシモンでも、そんなことをするなら僕だっておこになる。

 ぷんすかと頬を膨らませながら言うと、シモンは一瞬ピシッと硬直し、かと思えばぷるぷると絶望した様子で震え始めた。


「お…俺より、こんな犬っころの方が大事なんですか…っ」

「……へ」


 悲しそうに瞳を潤ませるシモン。
 それを見た途端頭がすっと冷静になって、けれど直後にあわあわと冷や汗が流れ始めた。
 シモンが泣いている。しくしく、悲しそうに泣いている。僕のせいで。僕がシモンを悲しい気持ちにさせたせいで。

 あわ、あわわ。顔がさーっと青褪めて、ふるふると首を横に振る。そういうことじゃない。シモンより大切だとか、そういうことじゃなくて…。
 ただ、もふもふに乱暴するのはだめなことだから、シモンでも、だめなことはだめと言ってあげないと、って。そういうつもりで、嫌いなんかじゃ絶対なくて。


「し、しもん……っ」


 だめだ。ちゃんとした言葉が浮かばない。丁寧に説明している暇なんてない。
 とにかくシモンの悲しい顔をどうにかしてあげたくて、もふもふをぽすっと床に落として項垂れるシモンにむぎゅっと抱きついた。


「シモンすき…シモン、ぶじ…よかった…」


 うりうり。お腹に顔を埋めてもごもご呟く。
 そうだ、ようやく会えたシモンにすることは、むっとして怒ることなんかじゃなかった。ぎゅっと抱きついて、無事でよかった、だいすきだって、そう伝えなきゃいけなかったのに。

 ごめんね、ごめんね。僕ってば、名探偵なのにそんなことすら分からなくて…探偵失格だ。そう思い、がっくしと肩を落とす。
 シモンは数秒遅れて床にとすっと膝を着き、僕の体を抱え込むようにむぎゅーっと抱き締め返してきた。


「んむっ」

「フェリアル様…!俺のフェリアル様!フェリアル様もご無事でよかっ」

「あの、シモン」


 よかった、と続けようとしたのだろうか。ふにゃあっとゆるゆるの笑顔を浮かべたシモンが声を上げた途端、ふとライネスが遠慮がちにそれを遮った。


「あの…実は、あんまり無事じゃないんだよ…ね」

「…………は?」


 ぴしゃっ。空気が凍ると言うよりは、時が一瞬止まったかのような錯覚に見舞われた。
 むぎゅっとされた状態でおずおずとシモンを見上げる。シモンは訝しげな表情を徐々に歪め、まさかと言いたげに目を見開いた。

 バッ!と見下ろされびくっと震える。僕の両脇を鷲掴んで持ち上げたシモンは、頭のてっぺんからつま先までじーっと確認して瞳を細めた。


「……何を」

「し、しもん…?」

「……何を、されたんです……俺が居ない間に……」


 わなわな。悲しいと言うよりは、怒りの色を表情に滲ませてわなわな震え始めるシモン。

 なにごと、と硬直して目をまん丸にすると、シモンはやがて長い溜め息を吐きつつ立ち上がった。
 僕をそっと床に下ろして静かに歩き出し、ぼそぼそ呟きながら部屋の入り口へ向かう。


「外傷は無い……ということはつまり……性的な……」


 突然どうしたのだろう。心配になりながら追いかけると、その瞬間シモンが振り返った。
 鋭い視線でライネスを射抜く姿に、いつもの穏やかな面影は一切感じられない。わんちゃんと同じく瞳を真っ黒に染めたシモンは、地面を這うような低い声でライネスに問い掛けた。



「何処ですか……俺のフェリアル様に無体を働いた愚か者は……」



 影からゆらりと伸びる、荊みたいな形の黒く刺々しい何か。そして片手に握られた、赤黒く錆びた小さなナイフ。

 わんちゃんと一緒にはわわ……と体を震わせながら、これはまずいかもしれぬとふと脳内に警鐘が鳴る。
 黒い怒気を纏って静かに部屋を出ていくシモンに、遅れながらもとてとてと慌てて駆け寄った。

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