余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

番外編.七夕の願い事

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「この四角い紙に願い事を書けばいいのか?」

「うん。おねがいごと、かきかき」


 長方形の紙を持って慣れない様子のディラン兄様。掛けられた問いにこくりと頷き、僕も悩み途中の願い事をもう一度むむむ…と考え始めた。


 前世の感覚では、今日は七夕の日。
 そういえば毎年この日は何もしていなかったよなと思い皆に聞いてみると、どうやらこっちの世界では七夕という行事の概念が存在しないようで。
 それは悲しいとしょんぼりし、直後に天才的な発想をしてしまった。そうだ、ないなら作ればいいじゃないか、と。

 というわけでエーデルス家では現在、オリジナル行事『たなばた』が開催されているのである。


「ミアはたらふくお菓子食えますようにだみゃ」

「え、そんなんで良いんですか?」

「そんなんとは何事だみゃ。どう考えても最上級の願い事だろうがだみゃ」


 シモンとミアも仲良く願い事を考えている最中らしい。よきよきと頷いて移動し、今度は難しい顔を浮かべているガイゼル兄様の元へ行く。


「ガイゼル兄さま。おねがいごと、かけましたか」

「あー…決まんねぇんだよな。これ一枚しか駄目なのか?」

「うむ。一枚におねがいぱわー、ぜんぶこめる」


 ぐぬぬ…と両手を翳して見えない力を注いであげると、ガイゼル兄様は小さく笑って「なんだそれ。クソ可愛いな」とむぎゅむぎゅしてきた。
 胡坐をかくガイゼル兄様の膝に乗せられ、後ろから頭に顎を乗せられてじっとする。ぱちぱち瞬きながらガイゼル兄様の短冊を覗いてみると、そこには書いては消してという繰り返しの跡が見えた。


「兄さま。おねがいごと、いっぱい?」

「そうだなぁ…まぁ色々あるぞ。チビと死ぬまで一緒にってのと、チビが結婚しないようにってのと、チビがどこぞの野郎に惚れねぇようにってのとか色々」


 ほとんど僕関連のものだ、とは口にしないでおく。詳しく説明なんてされたらそわそわしてしまう。ざっくり聞いただけでも何だか少し身構えてしまう願い事ばかりだから。

 そっかぁとふわふわした返事だけしておいて、んしょんしょとガイゼル兄様の膝の上から抜け出した。「ひとつだけね」と念押しして頑張ってねと謎の応援を残し、今度はもう一度ディラン兄様の元へとたとた戻る。


「ディラン兄さま。おねがいごと、かけましたか」

「フェリ。あぁ、書いたぞ。読むか?」

「む…!よみたい…!」


 どうやらディラン兄様は短冊が完成したらしい。
 ディラン兄様の願い事って想像つかないな。どんな感じなのだろうと気になり、読むかという問いにぴょんぴょん跳ねてこくこく頷く。
 真面目なディラン兄様のことだから、きっと願い事も無難で真面目なものに違いない。そう思いながらわくわくと短冊を覗き込み、ぴしっと固まった。

 手のひらサイズの短冊。紙の部分がほとんど見えなくなるくらい、小さな字でびっしり書き込まれたその内容は、よく読むと中々に強欲な書き方がされていた。


『フェリの憧れの兄で居続けつつフェリの意中の相手は不慮の事故で亡くなりつつフェリと一生共に過ごしつつ死後も輪廻を共に全うしつつ──』


 つつを使えば実質一つの願い事になるだろう。そんな捻くれつつも真っ直ぐで強い意志を感じるおねがいごとだ。
 すごいねぇと呟くと返ってくる「絶対に叶うはずだ」という絶対的な自信。ちょっとだけ物騒な願い事も含まれていた気がしなくもないけれど、まぁいいかと頷いた。

 叶うといいねと残し、今度はとたとたシモンとミアの元へ。
 二人にそわそわ近付くと、初めにシモンが顔を上げて微笑んだ。


「フェリアル様。フェリアル様はお願いごと、決まりましたか?」

「きまった。シモンは?」

「俺はとっくに決まってるんですけど、ミアさんがまだ悩んでいるようで」


 その見守り中です、とにこやかに語るシモンになるほどと納得する。シモンは既に短冊が完成しているらしい。こういう時も仕事が早いんだなぁ、なんて少し感心してしまった。

 対してミアはまだまだお悩み中のようで、ぐるぐると考えながら目を瞑っている。まんまるの体がぷるぷる揺れるものだから、思わずむぎゅっと抱き上げてしまった。
 特に気にした様子の無いミアはそのままぐるぐる考え続け、やがてはっとしたように目を開けた。


「ばっちり決めたみゃ!お菓子とごはんをたらふく食えますようにに変更だみゃ!!」

「そんなに変わらないですね」

「変わらないとは何事だみゃ!しっかりごはん追加したろうがだみゃ!」


 のしのし。丸い足をふみふみしようとするミアだけれど、僕がぎゅっとしているので届いていない。その自覚もないようで、エアふみふみになっている。


「ミアめっ。おこしないの。おねがいごと、ちゃんと叶うから」


 ミアがごめんなさいみゃーと頭をぺこりする。
 しょんぼりする姿を宥めるようによしよし撫でてあげると、しょぼくれていたミアの垂れ耳がぴょこんと立った。機嫌が直ったみたいでよきよき。


「フェリちゃんのお願いごとは何ですみゃ?」


 きょとんと尋ねてくるミアにぱちぱち瞬く。
 後ろ手に隠した短冊。そこに書いた願い事を思い出してふにゃりと頬を緩めた。




「んー…ないしょ」



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