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攻略対象file4:最恐の暗殺者
105.ローズの事情
しおりを挟む冷たく凍てつく殺気にぎょっとする。
慌ててシモンの体に手足を絡めてぴとっと抱き着き、今にもローズを仕留めようとするシモンを何とか止めた。
「シモン、めっ。だめなの」
「なぜですか。この男だって正々堂々の殺し合いを望んでますよ」
僕をぎゅっとしたままローズを睨め付けるシモン。いつの間にそんな話をしたのか、ローズはシモンの言葉を否定しなかった。
さっきまで驚愕を浮かべていた瞳には冷静な色が戻り、ローズはじっとシモンを見据えて黙り込む。正々堂々の殺し合い、という言葉で微かに瞳が細められた。
「……本当に来るとは。主への忠誠心は本物だな」
ぼそっと零された呟きは思わずといったようなもの。
くるりと構え直したナイフをこちらに向けながら、ローズは表情に浮かべていた感情の全てを排除して無表情を作り上げた。
今にも襲いかかって来そうなローズの殺気と体勢を見て、シモンの体にも力が篭もる。
シモンが地面に軽く手を翳すと、呼び掛けに応えるようにして足元の影からうにくんが伸びてきた。
うにくんは僕の目線の高さまで伸びると、褒めて褒めてと言わんばかりにくねくね動き始める。それにそっと手を伸ばして撫でてみると、うにくんは照れくさそうに少しだけ萎んだ。
「うにくん。さっき、助けてくれてありがと。お怪我いたくない?」
ローズに切り刻まれていたことを思い出し恐る恐る尋ねる。うにくんはえっへんと胸を張るようにして少し反り、つるつるの全身を隈なく見せてくれた。
「うにくんは影なので実体が曖昧です。なので斬ろうが焼こうが一瞬で再生します」
「うにくん、すごい。シモンすごい」
さらっと語られたとてつもない強みに驚き、思わずうにくんをうにうにと撫で回してしまった。うにくんすごい。
そしてそんなうにくんを生み出したシモンもすごい。シモンにもぎゅっと抱きつく力を強めた。
「うへへ……ご褒美最高……」とゆるゆるの笑顔を見せるシモンにこてんと首を傾げた直後、ローズの低い呟きが耳に届いた。
「影の使役者……闇属性の中でも最上位の覚醒者か。貴族の使用人の立場に収まっている現状が益々不可解だな」
怪訝な面持ちで語られたそれにぱちぱちと瞬く。
以前からシモンが闇属性の上位覚醒者であることは察していたけれど、そんなにすごい存在だとは思わなかった。
殺しと戦闘の強者であるローズがここまで言うくらいだから、シモンは本当にとても強い実力者なのだろう。
それほとまでに強い人間なら、一人でも相当の立場にまで上り詰められるはず。だと言うのに貴族の使用人という地位に収まっているという現状は、確かに誰だって不思議に思うかもしれない。
「シモン……」
シモンが一人になる。僕を置いていく。
自分勝手で我儘な思いだけれど、それは考えただけでも震え出してしまうほどの恐怖だった。
僕はシモンと離れたくない。
ローズに鋭利になったうにくんを向けながら、シモンはむぎゅむぎゅと抱きつく僕を抱き締め返した。
「強いから何だって言うんですか。俺の力は全部フェリアル様を守る為のもので、実力を誇示する為のものじゃありません」
僕の不安を正確に読み取ったシモンが静かに語る。
心底理解が出来ないと言わんばかりのローズの表情を見据えると、シモンは感情の読めない瞳を冷たく細めた。
「何も分からないみたいな顔をしないでくださいよ。あなただって俺と一緒のくせに」
「は……」
「帝国一の殺しの腕を持っていながら、あなただって"その程度"で満足してるじゃないですか。あなたが本気を出せば、表にだってもっと勢力を広げられるだろうに」
淡々と語られる内容。ローズはそれを呆然と聞き、やがて殺気を滲ませた瞳を見開いた。
「……お前、何をした」
低く這うような声。
何かを察した様子のローズが声を上げると、シモンは少しも怯むこと無く微かに笑んだ。
「意外と『家族想い』なんですね?大事そうに隠されていたものだから、探すのに手間取りましたよ」
シモンの言葉の意味が理解出来ず首を傾げる。ローズがここまで大きく動揺するくらいだから、きっとシモンはローズのとてつもない弱みを握ったのだろう。
僕も知らないローズの事情。それをシモンは探り当てたということだろうか。
きょとんとする僕を抱き上げながら、シモンは再び影に手を翳した。
足元の影からゆっくりと出てきたのは人型の何か。それを覆っていた影が水のように地面に戻ると、その何かの全貌が明らかになった。
思わず目を見開き凝視する。
影から生まれるようにして出てきたのは、僕と同い年くらいの小さな子供だった。
「リアム!!」
低く淡々と言葉を紡ぐローズには珍しい、焦燥を前面に出した叫び声。
ぐったりと蹲っていた子供がハッとしたように動き出し、周囲をきょろきょろと見渡した先に居たローズの元に走り出した。
一瞬の出来事にぽかんとする僕を置き去りに、状況は目まぐるしい速さで進んでいく。
「ローズさん……!なに、何なんだよ急に…っ、何してんだ俺…?つーかこれどういう状況だ……??」
リアムと呼ばれた子供は、明らかに困惑した様子でローズにぎゅっと抱きついた。
状況を把握する為にローズやシモン、僕やアランに視線を向けるけれど、やっぱり状況の把握が追い付かないようで瞬いている。
「……シモン。これって……」
どういうこと?と眉を下げる僕を見て、シモンはいつものようににこやかに微笑む。
「フェリアル様、言っていたでしょう?この男の『事情』が気になると。お望み通り調べて持ってきたんです」
ローズの『事情』という言葉に息を呑む。
子供を背後に隠して、射殺す勢いでシモンを睨むローズ。そんなローズに含みのある微笑を向けたシモンは、謎の黒い模様が描かれた子供の首を指差して軽快に語った。
「言っておきますけど、隠しても無駄ですよ?その子供には闇属性の呪いが仕込まれています。俺が望めば直ぐにでもその子の首が飛びますからね」
笑顔で語るシモンに、ローズは瞳に浮かんだ余裕の色を完全に消し去った。
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