物置小屋

黒蝶

文字の大きさ
上 下
1,774 / 1,803
物語の欠片

バニラとラムネとストロベリー(バニスト)※百合表現あり

しおりを挟む
少女は緊張した様子でインターホンを鳴らす。
「奏、いる?」
「清香…」
「階段から落ちたって聞いたけど、怪我の具合はどう?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「…キッチン借りていい?」
「どうぞ」
清香が手際よく夕飯を作る様子を見ながら、奏はやわやわ微笑んで彼女に話しかける。
「今年も祭りの時期だね。どうしようか」
「奏はどうしたい?」
「僕は、清香がいてくれるならどこでもいいよ」
毎年当たり前のように行っているものの、前回行ったとき清香は男たちに絡まれた。
それをどれだけ不快に思っていたか、奏はよく知っている。
だから、それ以外の答えを持ち合わせていなかった。
「分かった。それなら、今年はここで花火大会をしよう」
「ここで?」
「たしか、ベランダで花火してもいいんだよね?」
「一応そう聞いてるけど…」
「なら決まり。明後日、また来るね」
清香はにっこり笑ってそのまま帰路につく。
そんな彼女を、奏は不安げに見送った。


そして、約束の日。
「お邪魔します」
この日は合鍵を使って清香が入ってきた。
だが、そこに奏の姿はない。
「奏…?」
名前を呼んでも出てこない。
もしかすると、何かトラブルに巻きこまれているのかもしれない…不安になっていると、後ろから肩をたたかれる。
恐る恐るふりかえると、奏が手をふりながら立っていた。
「ごめん。びっくりした?」
「何か事件があったのかと思った…。足の具合はどう?」
「もうだいぶよくなったよ。流石に走るのは止められてるけどね。
それよりその袋、花火が入っているにしては大きい気がするんだけど…」
奏が尋ねると、清香は楽しそうに笑った。
「実は、まだ人が集まっていないうちにラムネを買ってきたんだ」
「去年買えなかったやつ…もしかして、僕のために?」
「たまたまお店を見つけたから、買ってこられただけだよ」
清香はそう話しながらベランダに出る。
その場所の光景を目にした彼女は驚いた。
「もしかして、これを用意してくれていたの?」
「折角なら、まつりの花火も見られるといいなって思ったんだけど…。余計なことしちゃったかな?」
「そんなことない。だけど、これ組み立てるの大変だったでしょ?」
そこには立派なベンチが置かれていて、他にも折りたたみ式のテーブルがあった。
そのうえ、料理まで並んでいる。
「これ、全部ひとりで用意してくれたの?」
「せめて僕にできることをやろうと思って…。清香が好きなホットケーキもあるよ」
「すごい…。私もお弁当持ってきたけど、余計なこと、だったかも」
その言葉に、奏は慌てて首を横にふる。
「清香の作る料理はなんでも美味しいから、ないと困る」
「…ありかとう。そんなふうに言ってくれるの、奏だけだよ」
どちらからともなく距離が近づいた瞬間、どん、と大きな音が鳴る。
「丁度時間になったみたいだね」
「うん」
「清香が買ってきてくれた花火、打ち上げ花火を見てからにしようか」
「…うん」
それぞれが作った色とりどりの料理と、夜空に大輪の花が咲くのを見るにはうってつけの場所。
最後の花が咲くと同時に、やんわり口づける。
そんなふたりの手はずっと繋がれたままだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は炭酸が苦手で飲めないのですが、時々ラムネを買って30分程かけて飲むことがあります…。
なんとなく夏っぽいイメージが強いので、今回は花火も絡めてそういう話にしてみました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...