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物語の欠片
水も滴る…(ちぐはぐな話になってしまいました)
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雨の中走り出した人間は、女子生徒の前に出る。
「あ、ごめーん、手が滑っちゃっ、て……」
少女が目を開けると、びしょ濡れになった短髪の生徒が無言で相手を睨みつけていた。
「今のはどう見てもわざとだろ?そういうの、俺嫌いなんだ」
「ご、ごめんなさい貴公子様!」
貴公子と呼ばれたその人物を校内で知らない者などいない。
「謝るのは俺にじゃなくてこの子にでしょ。…怪我してない?」
「は、はい!」
「よかった。それじゃあもう行くから」
びしょ濡れのまま歩いた貴公子は、小走りで保健室へ向かう。
そこで待っている人がいることを知っているからだ。
「失礼します」
「やっと来たのか……って、おまえなんでそんなに濡れてるんだよ!?」
「なんか暑かったから水かぶってきた」
「ただの水なら泥だらけになってんだよ」
「いいじゃん別に。それより──」
男子生徒は貴公子の言葉を遮り手を掴んだ。
「それより、じゃない。怪我もしてるだろ?」
「大和はなんでそんなに分かるの?」
「分かるよ。恋人のことならなんでも」
貴公子がカッターシャツを脱ごうとすると、男子生徒は手を慌てて止める。
「野乃、まさかおまえ他の男の前でも平然と脱ごうとしてないよな?」
「してないよ。大和は私の体のことを知ってるからいいの」
貴公子──野乃の口調は先程のものと変わっていた。
「傷だらけだから見せていいとか思うな。目のやり場に困るから、取り敢えずこれ羽織ってろ」
「雨降ってるんだから濡れてても平気だよ」
「平気じゃないだろ。俺のじゃぶかぶかだな…まあ、今日は授業昼までで終わるし、なんとか耐えしのげ」
「分かった。ありがとう」
大和は心配そうにしていたが、野乃は教室へ向かった。
そして放課後、事件がおこる。
「貴公子様、好きです!」
朝会った女子生徒にいきなり告白され、野乃はかなり困惑した。
恐らく目の前の生徒は自分が女子だと気づいていない。
できるだけ学校の人間には隠しておきたいが、折角相手がくれた言葉を理由なく断るのはマナー違反な気がする。
それならばと彼女は答えを決めた。
「ごめん。俺には、一生大切にしたい相手がいるんだ。だから、君の気持ちには応えられない」
このひとつしか答えを導き出せない。
「分かりました。…私の気持ちを聞いてくれて、ありがとうございました」
相手に傷つけずにどうにか断って野乃が後ろを振り返ると、大和がにやにやしながら駆け寄ってきた。
「一生大切にしたい相手って?」
「うるさい。…そんなこと言うなら置いていく」
「悪かったよ。いつもの定食屋、行くんだろ?」
「まあ、そのつもりだけど」
「急がないと売り切れるぞ」
「朝、傘壊れちゃった」
「しょうがないな…ほら」
大和が差し出したのは可愛らしい猫模様の傘で、野乃はただ楽しそうに笑った。
「ありがとう」
「今度のデートで何かしてもらおうか」
「今の発言でいい人ゲージが減った」
「すぐ上げてやるよ」
野乃がスカートを履かず男子のように振る舞っている理由や大和と恋人になった経緯は、この雨に溶かしておくことにしよう。
どんな事実が隠されているとしても、ふたりの道は虹のように続いていくのだから。
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水も滴るいい男がいるなら、水も滴るいい女もいるのでは?と思い、綴ってみました。
「あ、ごめーん、手が滑っちゃっ、て……」
少女が目を開けると、びしょ濡れになった短髪の生徒が無言で相手を睨みつけていた。
「今のはどう見てもわざとだろ?そういうの、俺嫌いなんだ」
「ご、ごめんなさい貴公子様!」
貴公子と呼ばれたその人物を校内で知らない者などいない。
「謝るのは俺にじゃなくてこの子にでしょ。…怪我してない?」
「は、はい!」
「よかった。それじゃあもう行くから」
びしょ濡れのまま歩いた貴公子は、小走りで保健室へ向かう。
そこで待っている人がいることを知っているからだ。
「失礼します」
「やっと来たのか……って、おまえなんでそんなに濡れてるんだよ!?」
「なんか暑かったから水かぶってきた」
「ただの水なら泥だらけになってんだよ」
「いいじゃん別に。それより──」
男子生徒は貴公子の言葉を遮り手を掴んだ。
「それより、じゃない。怪我もしてるだろ?」
「大和はなんでそんなに分かるの?」
「分かるよ。恋人のことならなんでも」
貴公子がカッターシャツを脱ごうとすると、男子生徒は手を慌てて止める。
「野乃、まさかおまえ他の男の前でも平然と脱ごうとしてないよな?」
「してないよ。大和は私の体のことを知ってるからいいの」
貴公子──野乃の口調は先程のものと変わっていた。
「傷だらけだから見せていいとか思うな。目のやり場に困るから、取り敢えずこれ羽織ってろ」
「雨降ってるんだから濡れてても平気だよ」
「平気じゃないだろ。俺のじゃぶかぶかだな…まあ、今日は授業昼までで終わるし、なんとか耐えしのげ」
「分かった。ありがとう」
大和は心配そうにしていたが、野乃は教室へ向かった。
そして放課後、事件がおこる。
「貴公子様、好きです!」
朝会った女子生徒にいきなり告白され、野乃はかなり困惑した。
恐らく目の前の生徒は自分が女子だと気づいていない。
できるだけ学校の人間には隠しておきたいが、折角相手がくれた言葉を理由なく断るのはマナー違反な気がする。
それならばと彼女は答えを決めた。
「ごめん。俺には、一生大切にしたい相手がいるんだ。だから、君の気持ちには応えられない」
このひとつしか答えを導き出せない。
「分かりました。…私の気持ちを聞いてくれて、ありがとうございました」
相手に傷つけずにどうにか断って野乃が後ろを振り返ると、大和がにやにやしながら駆け寄ってきた。
「一生大切にしたい相手って?」
「うるさい。…そんなこと言うなら置いていく」
「悪かったよ。いつもの定食屋、行くんだろ?」
「まあ、そのつもりだけど」
「急がないと売り切れるぞ」
「朝、傘壊れちゃった」
「しょうがないな…ほら」
大和が差し出したのは可愛らしい猫模様の傘で、野乃はただ楽しそうに笑った。
「ありがとう」
「今度のデートで何かしてもらおうか」
「今の発言でいい人ゲージが減った」
「すぐ上げてやるよ」
野乃がスカートを履かず男子のように振る舞っている理由や大和と恋人になった経緯は、この雨に溶かしておくことにしよう。
どんな事実が隠されているとしても、ふたりの道は虹のように続いていくのだから。
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水も滴るいい男がいるなら、水も滴るいい女もいるのでは?と思い、綴ってみました。
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