物置小屋

黒蝶

文字の大きさ
上 下
1,736 / 1,803
物語の欠片

ストロベリーと贈り物(バニラと秘蜜とストロベリーの続きです)※同性愛描写が苦手な方は読まないことをおすすめします。

しおりを挟む
午後11時、今日の逢瀬は遅い時間からはじまる。
「遅くなってごめんなさい」
「謝らないで。僕だって今来たところだし…」
清香のお嬢様口調に違和感を覚えつつ、奏は自らが隠し持っていた袋を見せる。
「線香花火、去年できなかったから持ってきたんだけど…よかったらやらない?」
「いいの!?」
「そのために買ってきたんだ」
奏は清香の手を取り駆け出す。
そのまま走り続けて辿り着いたのは、奏がひとりで暮らすマンションの一室だった。
「気づかなくてごめん。駅前で言葉を崩したところを見られたくなかったんでしょ?」
「……まあ、そんなところかな」
清香にしては随分歯切れが悪い言い方だ。
それでも、待ちに待った楽しい時間の雰囲気を壊したくない一心で奏は言葉を飲み込む。
「珈琲と紅茶、どっちがいい?」
「紅茶。ガムシロップ2つ入れてほしいな」
「分かった」
清香がガムシロップを入れるときは何かあったときだと、奏はよく知っている。
それを2つというのは非常事態に近い。
「ミルクは入れなくてよかったんだよね?」
「うん。ありがとう」
「…ねえ、清香」
「どうかした?」
「僕、何かした?」
奏が恐る恐る訊くと、清香はグラスを持つ手を置いた。
「……今日、あの男子生徒と買い物してたでしょ」
「え、見てたの?」
「彼が良くなっちゃったのかなって思って、ちょっともやもやしていただけなんだ。
でも、それならどうして私の誘いを断るときに教えてくれなかったんだろうって不安になってた」
その言葉に奏は笑った。
清香はむうっと頬を膨らませていたが、彼女の頭を撫でながら真相を語る。
「僕って人にあんまり贈り物をしないでしょ?どんなのがいいか迷ってたら、たまたま近くを通りかかった彼が相談に乗ってくれたんだ。
喜んでもらえるプレゼントをしたいって話してて…これ、受け取ってくれる?」
奏の手におさまっていたのは、青い薔薇がついたヘアピンだった。
どうやら清香が見たのはプレゼントを決めた瞬間だったらしい。
「こんなに素敵なもの、本当にもらっていいの?」
「清香に使ってほしいんだ」
「ありがとう。早速つけてみてもいい?」
「動かないで」
清香にヘアピンをさした直後、耳許でそっとささやく。
「よかった。ちゃんと似合ってる」
「いきなりそういうことをするのはなしって、いつも言ってるのに…」
「ごめん。清香が可愛かったから、つい」
ふたりが見つめ合っていると部屋の時計が24時を知らせる。
「今日は泊まっていって。これはまた今度かな…」
「明日も泊まっていい?」
「僕はいいけど、清香は大丈夫なの?」
「うん。私だって少しでも長く奏と一緒にいたい」
「分かった。じゃあ線香花火は明日にしよう」
ふたりで過ごせるのが決まり、奏はとにかく嬉しかった。
また、清香も奏といられる時間が増えるのを喜んでいる。
その日はふたり同じ部屋で眠りについた。
──また明日と言い合える幸せを噛み締めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとなく紡いでみたくなりました。如何でしょうか…?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...