1,750 / 1,817
物語の欠片
ストロベリーと贈り物(バニラと秘蜜とストロベリーの続きです)※同性愛描写が苦手な方は読まないことをおすすめします。
しおりを挟む
午後11時、今日の逢瀬は遅い時間からはじまる。
「遅くなってごめんなさい」
「謝らないで。僕だって今来たところだし…」
清香のお嬢様口調に違和感を覚えつつ、奏は自らが隠し持っていた袋を見せる。
「線香花火、去年できなかったから持ってきたんだけど…よかったらやらない?」
「いいの!?」
「そのために買ってきたんだ」
奏は清香の手を取り駆け出す。
そのまま走り続けて辿り着いたのは、奏がひとりで暮らすマンションの一室だった。
「気づかなくてごめん。駅前で言葉を崩したところを見られたくなかったんでしょ?」
「……まあ、そんなところかな」
清香にしては随分歯切れが悪い言い方だ。
それでも、待ちに待った楽しい時間の雰囲気を壊したくない一心で奏は言葉を飲み込む。
「珈琲と紅茶、どっちがいい?」
「紅茶。ガムシロップ2つ入れてほしいな」
「分かった」
清香がガムシロップを入れるときは何かあったときだと、奏はよく知っている。
それを2つというのは非常事態に近い。
「ミルクは入れなくてよかったんだよね?」
「うん。ありがとう」
「…ねえ、清香」
「どうかした?」
「僕、何かした?」
奏が恐る恐る訊くと、清香はグラスを持つ手を置いた。
「……今日、あの男子生徒と買い物してたでしょ」
「え、見てたの?」
「彼が良くなっちゃったのかなって思って、ちょっともやもやしていただけなんだ。
でも、それならどうして私の誘いを断るときに教えてくれなかったんだろうって不安になってた」
その言葉に奏は笑った。
清香はむうっと頬を膨らませていたが、彼女の頭を撫でながら真相を語る。
「僕って人にあんまり贈り物をしないでしょ?どんなのがいいか迷ってたら、たまたま近くを通りかかった彼が相談に乗ってくれたんだ。
喜んでもらえるプレゼントをしたいって話してて…これ、受け取ってくれる?」
奏の手におさまっていたのは、青い薔薇がついたヘアピンだった。
どうやら清香が見たのはプレゼントを決めた瞬間だったらしい。
「こんなに素敵なもの、本当にもらっていいの?」
「清香に使ってほしいんだ」
「ありがとう。早速つけてみてもいい?」
「動かないで」
清香にヘアピンをさした直後、耳許でそっとささやく。
「よかった。ちゃんと似合ってる」
「いきなりそういうことをするのはなしって、いつも言ってるのに…」
「ごめん。清香が可愛かったから、つい」
ふたりが見つめ合っていると部屋の時計が24時を知らせる。
「今日は泊まっていって。これはまた今度かな…」
「明日も泊まっていい?」
「僕はいいけど、清香は大丈夫なの?」
「うん。私だって少しでも長く奏と一緒にいたい」
「分かった。じゃあ線香花火は明日にしよう」
ふたりで過ごせるのが決まり、奏はとにかく嬉しかった。
また、清香も奏といられる時間が増えるのを喜んでいる。
その日はふたり同じ部屋で眠りについた。
──また明日と言い合える幸せを噛み締めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとなく紡いでみたくなりました。如何でしょうか…?
「遅くなってごめんなさい」
「謝らないで。僕だって今来たところだし…」
清香のお嬢様口調に違和感を覚えつつ、奏は自らが隠し持っていた袋を見せる。
「線香花火、去年できなかったから持ってきたんだけど…よかったらやらない?」
「いいの!?」
「そのために買ってきたんだ」
奏は清香の手を取り駆け出す。
そのまま走り続けて辿り着いたのは、奏がひとりで暮らすマンションの一室だった。
「気づかなくてごめん。駅前で言葉を崩したところを見られたくなかったんでしょ?」
「……まあ、そんなところかな」
清香にしては随分歯切れが悪い言い方だ。
それでも、待ちに待った楽しい時間の雰囲気を壊したくない一心で奏は言葉を飲み込む。
「珈琲と紅茶、どっちがいい?」
「紅茶。ガムシロップ2つ入れてほしいな」
「分かった」
清香がガムシロップを入れるときは何かあったときだと、奏はよく知っている。
それを2つというのは非常事態に近い。
「ミルクは入れなくてよかったんだよね?」
「うん。ありがとう」
「…ねえ、清香」
「どうかした?」
「僕、何かした?」
奏が恐る恐る訊くと、清香はグラスを持つ手を置いた。
「……今日、あの男子生徒と買い物してたでしょ」
「え、見てたの?」
「彼が良くなっちゃったのかなって思って、ちょっともやもやしていただけなんだ。
でも、それならどうして私の誘いを断るときに教えてくれなかったんだろうって不安になってた」
その言葉に奏は笑った。
清香はむうっと頬を膨らませていたが、彼女の頭を撫でながら真相を語る。
「僕って人にあんまり贈り物をしないでしょ?どんなのがいいか迷ってたら、たまたま近くを通りかかった彼が相談に乗ってくれたんだ。
喜んでもらえるプレゼントをしたいって話してて…これ、受け取ってくれる?」
奏の手におさまっていたのは、青い薔薇がついたヘアピンだった。
どうやら清香が見たのはプレゼントを決めた瞬間だったらしい。
「こんなに素敵なもの、本当にもらっていいの?」
「清香に使ってほしいんだ」
「ありがとう。早速つけてみてもいい?」
「動かないで」
清香にヘアピンをさした直後、耳許でそっとささやく。
「よかった。ちゃんと似合ってる」
「いきなりそういうことをするのはなしって、いつも言ってるのに…」
「ごめん。清香が可愛かったから、つい」
ふたりが見つめ合っていると部屋の時計が24時を知らせる。
「今日は泊まっていって。これはまた今度かな…」
「明日も泊まっていい?」
「僕はいいけど、清香は大丈夫なの?」
「うん。私だって少しでも長く奏と一緒にいたい」
「分かった。じゃあ線香花火は明日にしよう」
ふたりで過ごせるのが決まり、奏はとにかく嬉しかった。
また、清香も奏といられる時間が増えるのを喜んでいる。
その日はふたり同じ部屋で眠りについた。
──また明日と言い合える幸せを噛み締めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとなく紡いでみたくなりました。如何でしょうか…?
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)
しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。
別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
浜薔薇の耳掃除
Toki Jijyaku 時 自若
大衆娯楽
人気の地域紹介ブログ「コニーのおすすめ」にて紹介された浜薔薇の耳掃除、それをきっかけに新しい常連客は確かに増えた。
しかしこの先どうしようかと思う蘆根(ろこん)と、なるようにしかならねえよという職人気質のタモツ、その二人を中心にした耳かき、ひげ剃り、マッサージの話。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる