物置小屋

１人向け・イベント系

あなたを待っています(紅葉・視える人シリーズ)

こんばんは。今日も会いましたね。
俺ですか？少しここの神社に用事があって…と言っても、普段海岸で見ていた星空をひとりでゆっくり見えなくなってしまったので、別の絶景スポットを探していたんです。
そのときたまたまここに辿り着いて…どうかしたんですか？
なんだか驚いた顔をしているなって思ったんですけど…ああ、そういうことでしたか。
誰もあなたを認識できないのは、あなたが死者だからだと思います。
俺は昔から、そういう存在が視えるんです。
信じたくなかったら信じなくてもいいので、機能の夜からずっと泣いている理由を教えてもらえませんか？
俺は体が弱いし、天才だとか何か才能があるわけじゃないけど、力になれることがあるなら頑張ってみたいんです。
話を訊くだけでいいんですか？そんなことでよければ喜んで。ただ、俺はすごく暗いので、それでいいならですけど…。

…それじゃあ、この木の前で待ち合わせをしていたから相手をずっと待っているんですね。
あなたはすごく優しい人だと思います。ずっと待ち続けるなんて、なかなかできることじゃないから…。
俺ですか？…たしかに、俺にも大切な人はいました。
恋人ではないんですけど、一緒に星を眺める相手がいたんです。
今は独りですけど、綺麗なものは誰かと共有したくなりますよね。
…ずっと独りでいて、辛くなりませんか？
相手が来るかどうかも分からないなか、ずっと待っているのは危険です。
もしもあなたが悪霊になってしまったら、あなたを大切に想っている人が悲しみます。
俺だって悲しいです。折角こうして話ができた相手が悪霊になって、自分自身のことさえ分からなくなってしまったら…。
すみません、私情を挟みました。
思い入れがあるからこの場所で待ち合わせをしたんですよね？どんなことがあったのか教えてください。

…楽しい話が聞けてよかったです。
まさか初デートの場所がこの季節のこの場所で、それから紅葉がずっと好きだなんて素敵な話が聞けるとは思っていませんでした。
どうかしましたか？道の先？…それは多分、あなたにしか見えないものです。
その道をゆっくり辿って、光に向かって進んでください。
あなたが成仏する前に話ができてよかった。本当に楽しかったです。
それじゃあ、お気をつけて。


…私は向こうであの人と話せる日を待ち続ける、か。
そんなふうに思える相手がいるのは素敵なことだよね。
…人間相手には一生抱かないであろう感情だな。
紅葉の押し花を使った栞か…こんなに綺麗なものまで分けてくれるなんて、やっぱり生きてる人間のほうが何十倍も怖い。
…もう少しだけ紅葉を楽しんで、星を見てから帰ろうかな。
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視える人、最近ものすごく楽しく綴れるシリーズのうちのひとつです。